第30話 生きる

 綾香は我が子を胸に抱き、その寝顔を見つめる。

愛しさで胸がいっぱいになる。


「あっという間に大きくなるのね。」



 綾香は我が子が産まれた日のことを昨日のように思い出すことができる。



陣痛は想像をはるかに越えた痛みだった。


この痛みで正気でいられる自分にも驚いた。



陣痛の感覚が短くなるにつれ、痛みは増していった。



壮絶な痛みの中、強く思った。




もうすぐ会える!



会いたい!!




自分のお腹の中にいる我が子との実質的な距離は限りなく近い。


しかし精神的な感覚で例えるなら、まるで別の星にいるような距離感なのだ。


しかし、その無限の宇宙にいても私達母子の身体は臍の緒で繋がっている。


その管から与えることが出来るのは栄養だけではない。


愛情も生命力も私が与えられる全てを届けることができるのだ。


とてつもない痛みの波が来る度に感じる、、、。




生きている!


私は生きている!


今、この瞬間を!!


強く強く生きている!!




これまでにないほどの、生きているという実感を感じるのだ。




医師が子宮口の開きを確認する。


「全開大です。」


助産師が言う。


「もうすぐ会えますよ!」



ああ、言葉にならない、、、。


私はこんなにも生きたいと望んでいる。


私は、この子に生かされている!!



「はい、いきんでー!」



ンッーーーーーーーーーーーーー






オギャア オギャア オギャア!!



「おめでとうございます!元気な女の子ですよ!」



ああああああ!!


涙が溢れ出る。


ああああああああ!!


「生まれてきてくれてありがとう!!」


やっと会えた!!


会いたかった!!


私は生きる!!


この子と生きていく!!



綾香は気づいた。


今までモノクロの世界に居ると思い込んでいた。


でも違った。



世界は彩りで溢れている!!




私は娘に “ 真彩 ” と名付けた。











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