第23話 ワタシたちは出会ったばかりなんだ

 「彩!」


僕は走った。


泣きながら走った。


「彩!」


砂に足をとられて、うまく進めない。


彩は、じっと僕を見ていた。


早く行かないと、彩が消えてしまうのではないかと思った。


ようやく、手を伸ばせば触れられる距離まで来ることができた。


僕は地面にへたりこんで息を切らしていた。

波に濡れた砂がヒヤリとしている。


僕は手を伸ばした。


「彩?」


彩も手を伸ばしてくれる。


彩は、その小さな両手でシゲルの右手をしっかりと包んだ。


「彩、僕、わかったんだ。君が誰か、、、。」


すると彩は僕の言葉を遮るように言った。


「シゲル、いいか?

ワタシたちは出会ったばかりなんだ。

ワタシたちは、また必ず出会う。

だから、、、またな!」


彩は笑顔だった。


そして、クルリと僕に背を向けるとカモメになって飛んでいってしまった。


シゲルはその姿が見えなくなるまで見ていた。

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