第18話 佐藤由紀子の過去と苦悩
「名刺にも書いてある通り、私はこの病院の産婦人科医であり院長です。
この町の人間なら皆知ってるけど、うちの病院では基本的には堕胎手術を行わないの。
もちろん、妊娠を継続することより母体が危険な状態になる場合は別ですが。
望まない妊娠が発覚した時、多くの女性が堕胎手術を受けていることは知ってるわね?」
僕は頷いた。
「そのことについて、あなたはどう思う?」
僕は、頭が真っ白になって何も言えないでいた。
「私は、そのことに憤りを感じるの。
だって、お腹の中の子供は生きているのよ。
私達と同じく命ある存在なの。
親の都合で殺していいわけないでしょ。
中には自分で育てられなくても産みたいと願う人もいるわ。
でもね、周囲に散々反対されて言いくるめられて半ば無理やり堕胎手術を受ける女性もいるわ。
その多くは10代の少女よ。
将来が台無しになる、世間体が悪くなる、そんな理由をつけて自分の娘に堕胎手術を受けさせて妊娠自体なかったことにするのよ。
その後、彼女達がどんな思いで生きていくか、、、。
毎日思い出さない日はないのよ。
何度も同じ夢を繰り返しみるのよ。
他人の子を見ては生まれてくるはずだった自分の子供と重ねてしまうの。
それが一生続くのよ。」
佐藤医師は目を真っ赤にして話を続けた。
「私は17歳の時に妊娠したの。
20歳上の内科医の男性との子供よ。
私は産むつもりでいたの。でも、、、。
私の両親は猛反対した。
父はこの病院の院長で産婦人科医だった。
今から5年ほど前に脳梗塞で亡くなったわ。
傲慢な人だった。
医者のくせに命に値段をつけるようなところがあったの。
彼にとっては世間体が何より大切だったわ。
私が両親に妊娠を打ち明けた時、父はこう言ったのよ。
『産婦人科医の娘が17歳で妊娠なんて、いい笑い者だよ。明日にでも堕ろしてこい。』
私は反発したわ。
でも無駄だった。
父は “ 堕ろせ ” の一点張りよ。
それでも私は絶対に産むって決めていたの。
歳上の彼も産んでほしいって言ってくれた。
でも、、、。
数日して母に言われたの。
『産むなら診察を受けましょう。』って。
私は嬉しかった。
私は母に連れられて、遠い町の小さな産婦人科医に行ったわ。
私は赤ちゃんの様子が気になって仕方なかったわ。
でも数時間後、私は地獄に落とされた。
私は診察台のうえで眠らされたわ。
目を覚ました時には、私のお腹の中にはもう赤ちゃんはいなかったの。
私は騙されたのよ。
全部、両親が仕組んだことだったの。」
彼女は涙をボロボロと溢して泣いていた。
まるで、ついさっきの出来事であるみたいに泣いていた。
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