申し子、婚礼の支度(そんなものまで買っちゃいます?!) 1
新年祭の余韻も冷めやらぬうちに、大変な仕事がやってきた。
『婚礼の
最初、春には婚礼をと聞いてびっくりしたものだ。
貴族の婚礼ってそんなすぐにできちゃうものなの?! と。半年は準備にかけそうなイメージがあったから、レオさんに聞いてみると、
「秋まで待てない」
と言われた。
なんでもこの国の貴族の結婚は、婚礼式を挙げるのと、お披露目と、国王陛下主催の夜会での陛下や他の方たちへのご挨拶の、三点セットで行うのだそうだ。
なので、春に行われる
そして現在大変うれしそうな顔で、あたしの前に紙を広げておりますと。
「――――パレード用の馬車なんだが、ユウリはどんなものがいいだろうか。オープンがいいと思うんだが、二頭立てと四頭立てとあるぞ」
パレード用の馬車――――?! 婚礼式のために馬車買っちゃうんですか?!
「パレード用の新しい馬車を買うんですか…………?」
「ああ。うちには今、中型の箱馬車しかないからな。しかも父が男爵領も治めていた時からずっと使っているものだ。せっかくのことだから、新しく作ろうかと思ってな」
レオさんもアルバート補佐も基本的にはちゃっかりさんの節約上手だから、買うと言うのなら新しい馬車は本当に必要なのだろうと思うんだけど。
でも、日本の感覚で言えば、結婚式用に二台目の新しい車を買います! オープンカーで! って感じか。どんな富豪。いや、そういえば貴族様だった……。
「――――どれも座席は二人用なのだが、これがバルーシュ。座席とは別に御者台があるものだ。御者台がないものは四輪のフェートンと二輪のカリクルがある」
「御者台がないものは乗っている人が御者をするということですか?」
「その通りだ」
たとえばそれにしたら、パレードの時はレオさんが御者役であたしだけが手を振ったりするとか?
「慣れたらユウリが操縦してもいいぞ」
「楽しそうです!」
「よし、では御者台がないものにしよう。――――二人だけで出かけられるしな」
あっ…………。なんだか、いいように転がされてしまった気がする。
でも、二人でドライブデートできちゃうってことよね。日本では縁がなかったけど実はちょっと憧れてたからうれしいかも……。
「馬車は決まりましたか?」
アルバート補佐がお茶の用意をして談話室に入ってきた。
「二頭立てのカリクルにしようと思う」
「パレード向きではないですが、まぁ、のちのちの使い勝手はいいでしょうね」
「ああ。色は白でいいか? 白なら服の色と被らないと思うが」
「そうですね。白が無難でしょう」
「あっ、婚礼のドレスは白を着ないんですか?」
「色の決まりはないから何色でもいいのだが――――メルリアードの方はまだ雪が残っている可能性が高い。白いドレスでは雪景色に沈んでしまってな。北方の春先の婚礼は白色を避けることが多いんだ。白は夏至祭でも着るしな」
な、なるほど……。雪ね……。
ものすごく現実的な理由があったわ。
「元いた国では婚礼衣装は白が多かったので、無意識のうちに白かと思っていました」
「ユウリが白がいいなら白でもいいぞ。馬車を色付きにすればそれなりに見せられるだろう」
「いいえ、レオナルド様。ここは婚礼式は白で、パレードの時は華やかな色でいかがでしょう」
それ、お色直しってやつ!
「それはいいな。うちの補佐が有能で助かる」
「ま、待ってください! ドレスは一着で結構です!」
一着だってびっくりするようなお値段なのに!
抵抗するわたしに、アルバート補佐は無情にも言った。
「何をおっしゃいます、ユウリ様。婚礼用、パレード用、お披露目用と三着お作りください」
「ええっ?! パレードでお披露目するんですよね?!」
「パレードは領内で領民たちにお顔を見せながら馬車で回ります。お披露目はゴディアーニ家の方で、一族と北方の領主様を招いての夜会になります」
「…………マジか…………」
ここで本格社交界デビューか…………!
思わずこぼれた言葉に、レオさんは声を出して笑った。
「そういうところはフユトとよく似ている。申し子たちはおもしろいな」
「レオさん! 笑いごとじゃないです!! そんな大きな夜会とか二か月ちょっとで準備できちゃうんですか?!」
「それでだな、ユウリに聞きたいんだが――――次兄とエヴァの披露目と合同でするのと俺たちだけでの披露目とどっちがいい?」
「…………合同でとか、アリなんでしょうか」
「時々あるな。特にここのところ、魔素大暴風の影響が薄くなって祝い事ができるようになった。今まで控えていた分、溜まっていた婚礼をこなすのに兄弟同士や小さい領地同士での合同で行うところが多いようだ」
「あたしとしましては、合同だと心強いんですけど……。ペリウッド様とエヴァのご迷惑になりませんか?」
「いや、向こうから言ってきたんだ。いろいろ言われそうだから、よかったら合同でどうだろうかと」
「申し訳ございません、ユウリ様。ペリウッド様は、レオナルド様とユウリ様を風除けにするつもりなのです。向こうは代が替われば貴族籍から抜けるおつもりでしょうから、あまり目立ちたくないご様子で」
いろいろと事情があるわけか。
なのにあのゴディアーニ辺境伯が盛大にお披露目を! とはりきったのだろうと簡単に想像ができた。
「あ、そうなんですね。それでしたら、遠慮なく合同でお願いできますね」
「ではそのように伝えよう。明日は服の色とデザインを決めるぞ。我が領の裁縫ギルドのトップが来てくれるらしいぞ」
「…………はい。お手柔らかにお願いします…………」
婚礼衣装を決めるのなんて、男の人には退屈なんじゃないのかなと思ったのだけど。
どこまでもうれしそうな我が領主様に、あたしもつい笑ってしまうのだった。
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