申し子、領運営について知る


 仕事後、前領主邸に戻るとミルバートくんが出迎えてくれた。


「しゅか、ゆーりしゃま、おかーりなしゃい!」


『クー!』


「ただいま、小さい補佐さん。今日はお父さんいないの?」


 いつもならアルバート補佐か、時々レオさんが出迎えてくれるんだけど。


「とーしゃま、れおるろしゃまとおしごと」


「そうなのね。ありがと、ミルくん」


 執務室にいるのかな。この時間まで二人で仕事しているなんて珍しい。

 部屋に戻る前に、執務室の方(といっても、となりの部屋)へ寄ると、難しい顔をした二人がいた。

 まぁそんな固い空気でも、気にせず領主様の膝に跳んでいくのがうちの神獣なんだけど。


『クー!』


「ユウリ、シュカ、おかえり」


「おかえりなさいませ。ユウリ様」


「戻りました――――あの、どうかしたんですか?」


 苦笑まじりのレオさんが、執務机の前で立ち上がった。


「ああ、少し準備が整わないことがあってな」


 ――準備? 国土事象局の調査の人たちが来る時の準備かな。

 レオさんはシュカを抱えて応接セットへ移動し、あたしにもソファへ掛けるように勧めてくれた。着替えもせずに、制服姿で部屋に寄ったのはお行儀悪かったかも……。

 アルバート補佐は「お茶を用意します」と言って出ていった。


配達人ポーターの手配がつかなくてな。どうしたものかと思っていたところだ」


「配達人、ですか」


 確か、前に荷物を運ぶ人のことだと聞いたっけ。

 メルリアード男爵領はお店が少ないから、配達人が[転移]で移動して王都や辺境伯領都から買ってきて配達してるって話だった。


「ああ、貴族や大きい家ならだいたい配達役がいるんだ。子爵領ともなると管理の規模も大きくなっててな。家令やその下で働ける者を探しているんだが、なかなか見つからない。配達だけ臨時でやってくれる者も見つからなくてな……」


「そうなんですね……。配達人ってやる人が少ないんでしょうか?」


「そうだな。まず[転移]が使えないとならない。馬車のみで荷物運びをしている者もいるが、魔法鞄に入らない大物の運搬か近い距離の移動に限るな。前にも少し話をしたが、[転移]が使えるほどの魔法スキルを育てるには、かなりの魔粒代を費やすことになる。裕福な商家や貴族、冒険者でもしながらじゃないとむずかしいんだ」


 あたしは魔法を使う時に魔粒を消費しないから忘れがちだけど、そうだった。魔法ってお金がすごくかかるんだった。

 それに魔量も多く必要だとレオさんは続けた。

[転移]は魔法の中でもトップクラスの魔量食いだ。ミライヤは魔量が少なめなのが悩みで、買い付けに行く時は泊まりで行かないとならないんだって言ってた。

 [転移]が使えるだけの魔量と魔法スキルがあるなら、他にも選べる職がたくさんあるってことよね。

 上級魔法の[転移]が使えるってことは[治癒]とかも使えるもの。

 治癒師ヒーラー魔法使いメイジ魔書師サークルライターなどにもなれるのに、その中からあえて配達人を選ぶ人は少ないかもしれない。


「ちなみにゴディアーニ家実家では、次兄か領主補佐見習い――アルバートの兄が担当している。向こうほどじゃなくても、こちらにも人材がもう少しいればいいんだがな……」


「きっと、これからレオさんの周りにも人が増えますよ」


 あたしがそう言うと、お茶を持ってきてくれたアルバート補佐が眉をしかめた。


「そうですね。差し当たってビンを運ぶのをどうするかですが……。普段なら私が行ってくるところなのですが、ここしばらくの間は調査の準備で忙しくて」


 ああ! ビンを運ぶ人を探しているのね!

 あのステキなガラス細工を一番に見られるってこと? それいいなぁ。

 あたし、魔量は多いし転移も使えるし魔法鞄の容量も多いっぽいし、配達に向いてるんじゃないかと思うんだけど、ダメなのかな。

『七色窯』に行ってビンを運んでくる仕事、やりたい。


「それ、休みの日にあたしが担当するのはダメですか?」


「えっ、ユウリ様がですか? ユウリ様にそのような仕事をさせるわけには……」


「……そうなるんじゃないかって気がしてたんだ……。だからそれを言わなかったんだが……」


 驚くアルバート補佐と、困った顔をしているレオさん。

 え、なんでそんな反応なの。


「……ユウリに何かあったら困るから護衛を付けるとなると、俺も行くことになるな」


「レオナルド様は、そうやってすぐ書類を後回しにしようとして……」


「い、いや、違うぞ。本当にユウリが心配で……」


「あたしなら一人でだいじょうぶですよ? [転移]で工房の前に出て、品を受け取ったら[転移]で帰ってくるだけですし」


「いや、だが……」


『クー!!』


 シュカが、いつになく強くひと鳴きした。

 レオさんははっとした顔をして、膝の上のシュカを見てあたしの方を見た。


「――――そうだな……。シュカはユウリのりなのだったな」


 そうつぶやくように言うと、少し複雑な顔をしてから口を開いた。


「わかった。この仕事はユウリに頼もう」


「はい!」


 思わず顔が笑ってしまった。

 ビンを早く見れるのもうれしいけど、仕事を任せてもらえたのがすごくうれしかったのよ。なんとなく、子爵領の運営の仲間になれたような気がして。


 レオさんは眉を寄せて困った顔した後、ふっと笑顔を浮かべた。











――――――――


※お待たせしました! キリのいいところということでちょい短いですが、次話はなるべく早く更新します。


温かい応援をどうもありがとうございました。

来る年が、みなさまにとってよい年になりますように!



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