申し子、冒険者になる
ここが憧れの冒険者ギルド――――――――。
王城と同じがっちりとした石造りの、立派な建物だ。小説やゲームのイメージで酒場があって人がひしめいているものかと思ってたら、全然違う。人は多いけど浮わついたところはなく小さな砦という雰囲気。
獣耳さんもいっぱいいるわよ。背が低くてがっしりとしているのはドワーフ?
あたしはシュカを肩に乗せて、その入り口をくぐった。
今日は、ここでフユトと待ち合わせをしている。
先日お店で会った時に、向こうの国のものと似た植物があるから見てほしいと、応援要請があったのだ。
レオナルド団長はちょっと心配そうな顔をしたけど、神獣が二体もいるから大丈夫だろうと言ってくれたのよ。近衛団団長の太鼓判。シュカに対しての信頼がすごいわ。
ホントはいっしょにって話だったんだけど、団長は最近忙しいみたいで無理だった。
そういえば、近々大きな宮廷舞踏会があるって聞いたけど、それの関係かもしれない。
中へ入るとエントランスは天井が高く、盾や剣が壁に飾られており大きな博物館のよう。
端の方には光の柱が何本も立っている。大きな水晶のかけらのようで幻想的な光景だけど、なんだろう。そちらへ歩いて行く人たちは、みんなその中へ向かって吸い込まれるように消えていく。
気にはなるけど、とりあえず冒険者登録をしておこうと奥の窓口らしきところへ向かった。
「冒険者登録したいのですけど」
近衛団の規約的にはホントはダメらしいんだけどね。
団長が「ユウリは無理言って入ってもらっているから、いいぞ」だって。あたしがずっと冒険者に憧れてるの知ってるから、きっと許可してくれたんだと思う。
「新規の登録ですね。情報晶に身分証明具を当ててください」
青い制服のかわいらしいお嬢さんが、笑顔で対応してくれた。
「――――はい、登録されました。報酬は銀行へ振り込みになりますがよろしいですか?」
「構いません」
もう一度情報晶にあててピッと光って手続き完了。
身分証明具がギルド証もかねているので、提示を求められたら「
あとはちょっとした説明を聞く。
冒険者ギルドは依頼主からの手数料で賄っているので、登録費用などがかからないとか。冒険者ランクは5級から始まって4級3級と上がっていき、一番上は特1級だとか。犯罪者となると除籍の上、再登録不可だとか。
こんな感じで登録も終わったけど、予想外に早く終わったからちょっと待つ時間が長くなってしまったのよね――――。
往来激しいギルドの出入り口前で、あたしはやたらと寄ってくる勧誘を苦笑しながら断る。
勧誘に見せかけてシュカを撫でたいだけの人もいて油断も隙もない。や、シュカは喜んでるけれど。――そこのお兄さん、デレデレで撫でてるけど、多分魔力なめられちゃってるよ?
「――ユウリ、ごめん。お待たせ」
フユトが真っ白ニワトリのセッパを肩に乗せ、小走りに近づいてきた。
「登録もしてたし、だいじょうぶよ」
「でも、勧誘されてたみたいだから悪かったなと思ってさ。店に来てもらえばよかったよ」
フユトが眉を下げた。作る曲に似て本人も優しい。そんなに気にしなくていいのにね。
「あんなの朝の登城ラッシュに比べたらかわいいものです。ほら早く行こう。楽しみにしてたの」
「よし行くかー。あの光が転移門。ギルドに入ってないと使えないんだよね」
指差した先にあるのは、入って来た時に見た光の柱だ。
あれが転移門なんだ! 前にレオナルド団長に聞いたっけ。王都と辺境伯領都間で繋がってるって。
「それは領都間転移門だね。こっちはダンジョン転移門。その名の通りダンジョン近くに出るわけよ」
[転移]で行ってもいいんだけど、[転移]が使えない冒険者も行けるし魔量を温存できるから設置されているらしい。
辺境伯領都と王都の冒険者ギルドにだけあるんだけど、それぞれカバーしているダンジョンが違うのだそうだ。
きっと、そこから行けるダンジョンに飽きたら、拠点を変えるのね。ますますもって楽しそう!
「――――今日行くのは、これ。ダルクン領のダンジョン『悪夢の毒蛙』」
「…………ワー、コワソー」
「そんな棒読みで言わなくても! ダンジョンが見つかった時の領主が命名してるらしいから、目をつぶってやってよー」
そ、そうよね。きっと、魔獣なんてよく知らない貴族の領主様が、ものすごく怖いものを想像して付けたのよ。あっ、なんかさらにほのぼのしてきたわよ。
「先に入るよ」
フユトが光の角柱の中へ入って行き、姿が見えなくなった。あたしも追うように入ると、次の瞬間には田舎町といった風景が目の前に広がっていたのだった。
振り返ると五芒星の魔法陣の上に光の柱がある。帰りはあれで帰ればいいのねって、[転移]でいい気がするわ。魔量たくさんあるし。
「ユウリ、こっち」
フユトがちょっと離れたところで手を振っている。
転移門から出てくる人で混んじゃうから、ちょっと離れたところで待つのがお約束らしい。ふむふむ。勉強になります。
「あれ? みんな向こうに行くけど、こっちなの?」
「うん。ダンジョンに行くわけじゃないんだ。危なくないって言ったでしょ。町から少し外れたところにあるんだ」
歩き出すと、通りはお店や屋台もあって楽しい。
「――――毒蛙焼きなんてのがある……」
「いいねぇ。食べてみる?」
食べないわけにはいかないでしょう!
二つ注文すると出てきたのは三角形の焼き菓子だった。小麦粉が多いマドレーヌ的な。中に紫色のベリーの実が入っている。
なによー、ただの美味しいスイーツじゃないのよー!
神獣たちも大喜びのお味です。
「――――こっちって、お菓子はハズレがない気がする」
「ああ、そうかも。普通の食事はちょっと物足りない感じするよな。コショウとかしょうゆとか」
「素材自体はすごくよかったりして、だから許されるというかもったいないというかね」
「マヨネーズは本当にうれしかったなー。あっという間に食べちゃったもの。それなのに次に買いに行ったら品切れだしさ」
「ごめんね、最近はなるべく多く作ってるんだけど。ああ、今日もあるからあげるわ。――――そうだ、ケチャップもあるけど?」
「ください!! ユウリ様!! なんなら言い値で買わせてください!!」
必死だな! 『音ってみた』の人気作り手も日本食の前には無力か。
あたしは生暖かい笑みを顔に張りつけた。
「――――あっ。あっちは悪夢焼きだって!」
食べないわけにはいかないわよ!
目的を忘れつつある元社畜たちは、まんまと田舎町に転がされるのだった。
ちなみに悪夢焼きは、葉物野菜入りの緑色がステキな卵焼きだったわ。ウマー。
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