申し子、魔道具に心躍らせる


◇ 無駄に長いです。魔法の説明は飛ばして読んでも大丈夫です!





 マップを拡大してよく見ると、あたしが付けた以外のタグも付いていた。主に王都の下の方、南の海側。

 冒険者ギルド、それに重なるように付いている『転寝うたたね亭』、音楽ギルド、鍛冶ギルド、『黄金のリンゴ亭』には[シードル]というタグも付いていた。他には魔法ギルド、銀行、レイザン管理局というあたしが行ったことがある場所にもタグが付けてあった。


 今まで気付かなかった。他の人が付けたタグがあるかもなんて思いもしなかったから、よく見てなかったわ。

 この人、ずいぶんマメにタグ付けてるのね。なんか楽しそう。王都もあちこち行ってみたくなってきた。

 そういえば明後日は街に行く。ぜひこのシードルを飲んでみたいものだわ。






 次の日の仕事後。

 あたしは昨夜大量に作ったマヨネーズを納品しに『銀の鍋シルバーポット』へ行った。


「――――そういうわけで、男爵領が間に入ってくれることになったから」


「ふふふ~。そうですかぁ」


 ミライヤがにんまりと笑っている。この全てお見通しですよって顔! なんでそんな顔されなくちゃならないのよ! ああ、でもその通りの展開になりましたよ! 解せぬ!

 あたしはちょっとふくれながら、マヨネーズをカウンターに置いていく。


「今日は多めに置いていくわね。マヨネーズも回復液といっしょに配達してもらうことになってるし、あたしが納品するのはこれで最後かな」


「配達してくれる人、どんな人が来るかな~。独身の素敵な人だといいなぁ~」


「ええ? もう新しい人の話? お世辞でも、さみしいって言ってよー」


「だってユウリまた遊びに来てくれるでしょう?」


「……まぁね」


「シュカもいつでも来てくださいね。ご主人様がいなくても来ていいんですよぉ?」


『ムグー! (一匹でも来るの!)』


 シュカはミライヤが出してくれたシリーゴールの実を夢中でほおばっている。シュカが言うには、風の気をたっぷり含んでいて美味しいのだそうだ。うちの神獣あちこちで餌付けされてるわよね。


「ところで、マヨネーズ買っていくお客さんってどんな感じの人が多いの?」


 ズバリ、あたしと似た感じの人いない? って聞くのは怪しすぎるから、ちょっと遠回しに聞いてみる。制作のヒントにします的な。


「いろんな人がいますけど、リピーターが多いんですよぅ。ポーション買ったついでにマヨネーズも買って、おいしかったからもう一度っていう感じで。遠くから買いに来た人は、冒険者風の若い男の人でしたね。セイラーさんも買いにきますよ」


 セイラーさん……卵買う時に言ってくれれば、あげるのに!

 そして、その冒険者風は怪しい。若い男の申し子が冒険者やってるのかしら。マップのタグには確かに冒険者ギルドもあった。

 異世界転移して冒険者ってすごい王道行ってる。ラノベ書けるわね。


 せっかくお店に来たので、調合液の材料というか香辛料をいくつか買う。トウガラシとドライの薬草とあとちょこちょこ。

 それじゃまた買いにくるわね。と、納品最終日にあたしたちは笑顔で別れたのだった。






 今日は待ちに待った休日。異世界であっても休日はうれしいものでございます!

 あ、正確にはお休みではなく仕事も兼ねたお出かけなんだけど。

 王都は午前中の早い時間でも賑わっていた。

 肩に乗っかったシュカが、興味深そうに街のあちこちをきょろきょろ見ている。


(『レオしゃんのとことはずいぶん違うの』)


 ……男爵領と王都を比べないであげて。

 そのメルリアード男爵ことレオナルド近衛団団長は、そんなことを言われているとも知らず、ほんのり笑顔を浮かべてとなりを歩いている。

 今日は魔道具を見に街へ来たのだ。

 団長からいっしょにどうだ? と聞かれて二つ返事で乗っかった。そんな楽しそうなの行くに決まってます!

 メインで見るのは魔法鞄預かり箱。他に無人販売庫も見るそうだ。


「まずは魔法ギルドを見よう。魔道具はだいたい見本が魔法ギルドへ納められている。ギルドに委託されたものであればそこで買えるし、見本しかない物なら店を紹介してもらえる」


 ウキウキしながら魔法ギルドへ入った。相変わらず混んでいる。

 混み混みの受付ホールを抜け、「調合釜室」「魔法札書写室」と書かれた扉を通り過ぎていくと、一番奥に「魔道具展示室」とかかれた扉があった。


 中は広い部屋だけど細かく区切られていて、あちこちにテーブルセットが置いてある。


 受付にいたギルド職員のおじさまは、魔法ギルド魔道具部門の技術主任でニコラウスと名乗った。開発の方の責任者らしい。

 魔法ギルドの魔道具開発の責任者ってことは、この国の魔道具会の上の方の人ってことじゃない? すごい。

 重鎮の雰囲気など微塵みじんもないニコニコ顔で、ニコラウス技術主任は魔法鞄預かり箱のブースへ案内してくれた。


 何種類もの箱が置いてある。大きさもいろいろあるみたいだし、縁が木製の物の他に、鉄製の物、色ガラスが入った物など、置く場所に合わせて選べるみたい。

 技術主任が、ニコニコしながら説明してくれている。


「一番最新型はこれです。これがとにかくすごいんですよ。魔法ギルドで開発したものなんですがね……」


 指されたのは座布団くらいの台座の上に皿が乗っており、手前側に情報晶が付いたものだ。全然箱じゃない。


「魔法鞄を魔法鞄と同じ原理で少しずらした座標にしまっておくんです。これがすごい技術でして、なかなか作り上げることができなかったんですよ。一旦、この皿の上で結界を張るのがミソで…………あ、ごめんなさい、つい熱くなってしまいました。もちろん、身分証明具で管理しますので、出す時の間違いもありません。とにかく場所を取らないのが売りです。これ一つ置く場所があればいいだけですからね」


 説明は途中耳をすり抜けていったけど、省スペースはわかった。

 これいいわよね! これなら納品口ホールの中に置いてあっても場所を取られないから、納品される品物の検品もホール内でできる。


「そうそう、あとこちらは複数台を紐づけできます。そうすることで、入口出口が違う施設でも、移動の手間なく取り出すことができるんですよ!」


「すごい! 出入り口全部に置けば、どの出入り口からでも取り出せる!」


「そうなんです! すごいでしょ?!」


「遠く離れてても大丈夫なんですか?」


「遠く……? あ、いや、すみません、お嬢さん。この建物の端と端くらいは大丈夫でしたが、どのくらいの想定ですか?」


「あ、いえ、遠く離れた領でも大丈夫なら、転送とかにも使えたら便利じゃないですか? 身分証明具じゃなくて合鍵みたいな物を使って、離れた街と街でやり取りできたら便利かなって」


「!!!! 画期的!!!! それ!! やれそうな感じ!! 座標は固定しないようにしてあるから多分いけるし、照合の記述に手を加えてやれば……」


 そう言ったかと思うと、技術主任は走っていってしまった。

 ええ? ニコラウスさーん、お客さん放置ですかー?


「……ユウリ、すごいな。それができれば、[転移]を持つ者がいなくても物が運べる。高位魔法が使えない者が多いうちの領にも、物が入ってきやすくなる。他の国でも使えれば、国同士の親書のやりとりが早く確実になる。もしできたら大変役立つものになるぞ」


 ちょっと思いついて言ってみただけなのよ。そんなすごいことなんて全然考えてなかったんだけど……。

 これが後々、物流システム改革の一歩となるのを、この時のあたしは知らない。




 あたしとレオナルド団長がそのへんの魔道具を眺めていると、ベテラン風の女性職員さんが走ってきた。


「……す、すいません……ニコラウスが、失礼いたしました……」


「お気になさらずに。あと販売庫を見せていただきたいのだが、案内を頼めるだろうか?」


「もちろんでございます。あちらが無人販売庫の展示場になっております」


 連れてきてもらったあたりは、こちらも箱っぽいものが並ぶブースだった。

 販売庫の方は、商品側の情報晶で選んで、受け取り側の情報晶かコイン投入口からお支払いして、受け取り皿の上に出てきた商品を取るしくみ。だから、商品一つ一つの箱に扉は付いていない。

 魔法鞄預かり箱に似ているけれども、木枠や金属枠の前面が透明で、商品がよく見えるように透明度が高いガラスが使われているのがわかる。


「販売庫の方も技術の進歩で、最新のものにはいろいろな機能が付いております。たとえばこちらは全方向に明かりが付いておりまして、影の部分も明かりを付けてちゃんと見ることができます。こちらは前面にルーペが付いてますので、細かいところまで見えるんですよ。あとこちらが、一番のおすすめで、機能性能計量晶が付いた物でございます。お客様が買う前に性能を確認できるのが売りです」


 ギルド職員のお姉さまはにっこりと笑った。このお姉さまも熱がすごい。


「――さっき見たんですけど最新の魔法鞄預かり箱って、販売庫とちょっと似てますね。物と受け取り場所が離れてるところとか」


「ああ、そうでございますね! どちらも空間魔法を使っているのですが、預かり具の方は空間魔法で使用する空間そのものを使い、身分証明具を鍵にしております。販売庫の方は転移魔法を使っておりますので、出し入れ場所と設置場所の間に入れる移動のクッションとして、空間魔法が使われております。似てるのですが、仕組みは少し違うのでございます」


 なんとなく、わかったような? わからないような?

 魔法陣を記述する魔書師サークルライターにはなれないと思った。


「見たところ、商品を入れる扉が付いてないようなのだが、どうやって入れるのだろうか。前に見たものは裏に扉が付いていて、そこから商品を入れていたのだが」


「ああ、それは少し前の型になりますね。今のものは冷蔵冷凍温めの個別室内の温度が変わりづらいように開かない設計になっております。入れる時も、取り出し皿に商品を置き、情報晶で操作して中へ商品を入れるんですよ」


「ほう。進歩しているんだな。それでは何年かごとに新しいものを買わないとならないな」


 ええ、よろしくお願いします。とお姉さまは笑った。

 レオナルド団長とギルド職員のお姉さまは、納品日だの金額など詳しい話をするべくテーブルへと移ることになった。


 あたしはもっと魔道具が見たかったので、部屋の中を見て回ることにした。

 足を止めたのは調合釜のブース。

 調合専用の釜というのがあるらしい。説明書きには、魔力の伝わりが早いとか、かき混ぜ補助付きとか、発熱冷却機能付き熱源いらず! とか書かれている。

 でもどれもあまり大きくなくて、今使っているスープストック用特大寸胴の半分以下の大きさだ。


 ……魔力量の差か……。

 もっと大きいのがあれば欲しかったんだけど。残念。





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