申し子、封印する


 あたしはシュカを抱いて、『銀の鍋』へ向かっていた。

 もちろん、制服からは着替えている。

 あの制服じゃ目立ち過ぎるし、敷地外には出られないんじゃないのかと思って、自主的にね。前の職場では休憩中に制服でうろうろしたり、施設外に出たら駄目って決まりがあったから。


 それにしても、シュカは大人気だったわ。

 ルーパリニーニャが他の人たちをさばいてくれたからよかったけど、そうじゃなかったらゆっくり食べられなかったかもしれない。

 でも、しょうがないわよね。シュカはもふもふでかわいいからね。

 満足そうに寝てる体を抱え直して、店の扉を開けた。


「こんにちはー」


「ユウリ! いらっしゃい~。昨日は送ってくれてありがとう」


「……覚えてる?」


「……なんとなくですかね……」


 目をそらすミライヤに苦笑した。きっと、割と覚えているのね。

 まぁ、酒は若いうちに失敗して覚えるもんだって、元上司も言っていたし。また飲みに行きたいものよ。


「回復薬、持ってきたわよ。性能がわからなかったから、そのまま持ってきちゃったけどいい?」


 お城の薬草で回復薬を作って売るのって大丈夫なのかと、一応レオナルド団長に確認をした。雑草の扱いだから少量なら構わないということだった。


「もちろんですぅ! うれしい~! 異国の技が込められた回復薬!」


 ミライヤはいそいそと情報晶の上に回復薬の瓶をかざした。


「[性能開示オープンプロパティ]」


 |魔量回復 性能:7

 |疲労回復 性能:2

 |特効:美味


「ええぇ?!」


「ええっ?!」


 魔量回復って、4か5って聞いてたけど?!


「こ、これは、上級回復薬ですよね?」


「ち、違うわよ。ミライヤに教わったレシピのまんま作ったからね? ……魔力を込めるのがよくわからなくて、長い時間ぐるぐるしたのが違うくらいで……」


「……えええ? 魔力を込める時間の違いで性能に差が出るなんて話は、聞いたことがないですよぅ」


「あっ! あとは城裏の森で採った葉を使ったわ」


「薬草畑で特別な土や魔力を使って育てているならあるかもしれないけど、森の野生のものならあんまり関係ない気がします……」


 じゃぁなんなの……。

 もう一種類持ってきているんだけど、出すのがちょっと怖くなってきた。

 あたしは恐る恐るハーブを混ぜた方の回復薬を魔法鞄から出した。


「[性能開示オープンプロパティ]」


 |魔量回復 性能:8

 |疲労回復 性能:3

 |特効:美味 精神安定(中) 安眠(中)


「ええええええぇ?!」


「ええええええっ?!」


「上級回復薬ですよね?! ですよね?! そうだって言ってください!!」


 ミライヤが二の腕を掴んでがくがくと揺さぶってくる。


「ぢぃ~が~う~わぁ~よぉ~ミ~ンドぉ~」


「えっ? ミントが入ってるんですか? ペパーミント?」


「……ふぅ……びっくりした……。ああ、スペアミントよ。妊婦さんが間違って口にしても大丈夫なように、ほんの少量だけど」


「そうなんですよ、ちょっと注意した方がいい葉なんですよねぇ。でも、飲む人に気をつけてほしい調合液ポーションは、封の色を変えるので、思い切った調合でも大丈夫ですよ!」


「わかった。今度はちょっと冒険してみる。で、封は何でするの?」


「あっ、そうか。ユウリは違う国の人ですもんね。初級魔法の[封印]っていうのを使うんです」


 あっ……! それ魔法書に出てた! 名前だけ見て、魔物とか悪霊を封印する魔法だと思ってた! 悪霊封印が生活に必要な魔法なんだ、すごいわ異世界! と思ってたわ……。恥ずかしい……。

 顔が赤くなるあたしに、ミライヤは慌てた。


「知らなくてもしょうがないですよ! 魔法がない国があるって聞くし! 初級魔法使えますか?」


「うん、大丈夫よ。[封印]やってみる」


「最初のは白色で、ミントの方はオレンジ色の封でお願いします。デザインはおまかせしますので、名前入れたりユウリの好きにやってくださいねぇ」


 そんな凝ったことができるの?

 店内に置いてあるポーションを見れば、瓶とコルクのふたにかけてぐるりと一周シールが貼ってあり、シールにはそれぞれ絵が入っていたり性能が書いてあったりと工夫が凝らしてある。


 あたしは魔法書を引っ張り出して呪文の確認をし、シールをイメージした。


「[封印マシール]」


 白色の封が瓶を上下に一周した。左右の縁はレースのように透かしになっている。表側には白狐びゃっこの絵が描かれ、『森のしずく』とポーションの名前が入り、裏側には一応性能の数値が入っている。美味の文字は入れなかった。自分で美味とか入れるの、なんか恥ずかしいし……。

 オレンジ色の封の方の名前は『森のしずく(緑)』。白狐の他にミントの葉の絵も入っている。ミントのイメージが緑だったから(緑)にしたけど、よく考えれば葉は割と全部緑よね。安易過ぎたかもしれない。


「あ、かわいい~! いいですね、売れると思います! 性能も素晴らしいですし。ユウリは料理上手なんですねぇ。特効:美味は料理スキルが90以上で付与されるんですよ」


「へぇ……、そうなの。スキルばれちゃうわね」


「ばれてもいいですよぅ。料理はモテスキルですもん。そっかぁ、その美貌と料理の腕で団長さんをゲットしたんですねぇ」


「んあぁ……?! いつそんな話に?!」


「えー? だって、団長さんメロメロだったじゃないですかぁ。あの子……ルディルもひいてましたよ? 孤高の獅子が飼い犬のようだって」


 失礼過ぎるわよ。

 レオナルド団長が、光の申し子に対していろいろと便宜べんぎを図ってくれているってだけなんだけど、言うわけにもいかないし困った。

 団長は優しい親切な人なのよ。とだけ言うと、ミライヤは「……団長さん、不憫ふびんすぎる……」とつぶやいていた。本当に犬扱いは不憫よねぇ。


 回復薬は、『森のしずく』を八百レト、『森のしずく(緑)』は千四百レトで五本ずつ買い取ってもらった。マヨネーズは五百レトで二個。合計で一万二千レトになった。

 想像以上の高値よ……。

 売っていない在庫分から、いくつか国王陛下へプレゼントすることにしよう。


 そしてついに念願のニンニクとショウガを買った。あと大好きなクミンとナツメグとトウガラシをゲット。部屋へ帰る途中に『こぼ亭』で買い物して帰ろう。

 今晩は美味しいもの食べるわよ!





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