BLACKHAZARD

@ieisandaaa

第1話紅き拳のレオ

人々が寝静まった夜中の14時。雨が降る灰色の空を突き破って、土色の星が空から堕ちた。

黒い海水を押し上げ、地響きを鳴らしながら星は未だ明るく輝く東京湾へと足をつける

馬鹿にならない質量に押し上げられた海水は空へと舞い上がり、少ししてから雨のように落ちてきた。

衝撃は並のように日本列島にまで伝わり、東京のシンボルである東京タワー、東京スカイツリーは尽く根元から折れ、市街地に倒れ込む。

東京だけでは無い。大阪も通天閣、あべのハルカスが倒れ、大阪城も投壊した。

京都の街並みも家屋の倒壊が相次ぎ、火の海と化す。まさしく災害。及び天災はそんな日本にトドメを刺す様に、ゆっくりと重い瞼を開けた。

睨む眼は遠い先の輝く東京の都心。星は大きく口を開けると、眠くなりそうなほど遅く前足を地面に付ける。

その頃には既に湾岸に2000を超える日本が誇る陸上自衛隊戦車が並んで砲を星に向けている。

それがこの世界の兵器なのだと星は理解すれば、星の瞳が一瞬赤く輝き、大きく開いた口から放たれた紫色の光が戦車達を薙ぎ払う。

辺り一帯が光に包まれ、東京湾岸を青い火柱が包み込んだ。


『何だアレは!!』


夜空を飛び回る戦闘機部隊『WHITE BLADE』リーダーは叫ぶ。こんなデカブツなんて見た事ない。見た事あるはずがない。

まるで映画の中の怪獣のように海に浮かぶ怪物は口から光を放ち、戦車部隊を壊滅させたのだ。

操縦桿を握る手が今まで以上に震え、汗ばむ。

そんな手をもう片手で押さえ付け、戦闘機部隊長は大きく叫んだ。


『やらなきゃならねぇ……アレは仕留めなきゃなんねぇ!!WHITEBLADE!!各機エンゲージ!!!』


『『『『『『了解!!』』』』』』


各機体は散開し、二人一組で化け物の周りを飛び回る。星はそんな機体たちを見ようともせず、ただ今度は火柱の向こうに見える街を睨み、口を開けている。

先程の発射の熱を放出しているのか、口からは煙が溢れ、発射口らしき部位は赤色反応を示していた。


『そこだ!!』


それに目をつけた副隊長であるWHITEBLADE2は剥き出しになった部位にミサイルを1発叩き込む。が、余りにも高過ぎる熱により、直撃する前に爆発した。

口の中に攻撃された星は、WHITEBLADE2を大きな目で睨む。次の瞬間、星の目から黄色の光が放たれる。


『おわっ、たったったぁっ!!あぶぇっ!!』


ギリギリの所で光を回避し、WHITEBLADE2は少し距離をとるべく星の腹部辺りへと向かう。

そんな相手を星が見逃す筈はなく、星は少し身震いをした。すると星の体の至る所からミサイルポッドに似た物や、角のような物が現れ、無差別にミサイルや光線を放ち始めた。

光線は海を焼き、山を貫通し、近くを飛んでいた記者団のヘリを撃ち落とす。

ミサイルはどこまでも戦闘機部隊を追いかける。


『まじか!!何処かのアニメかよ!!』


そんな愚痴を零しながらWHITEBLADE3はチャフを後方に撒き散らす。が、ミサイルの追尾性は失われることも無く、WHITEBLADE3のエンジンに直撃した。


『なっ!?マジk』


速度を失った機体は、パイロットをベイルアウトさせる暇すら与えず、コックピットに直撃する。まるで意志を持っているようなミサイルが命中したWHITEBLADE3は炎の中に消えた。


『WHITEBLADE3!WHITEBLADE3!応答せよ!!!なっ、うわぁぁぁ!!』


ノイズの激しい無線機に向かって叫ぶWHITEBLADE4も、その数秒後、化け物の腹に正面から突っ込む。

機体は粉々に砕け散り、夜空に彼の腕は飛び上がった。


『あちゃぁ、やられちまってら』


そんな様子を焦土とかした大地を走るジープの運転席から乗り出し、一人の男が呟いた。また一機、撃ち落とされた。

灰色の機体は炎を吹き上げ、首を折って地面に潰れ、真っ黒な煙を広げて爆発した。


「わぷ」


口を開けていた男の顔に煙が入り込み、男は眉を顰め、息を勢いよく吐き出した。


「のやろー!隊長ちゃん!行っちゃって!」


その言葉と共に、ジープの天井から黒い機銃が生える。

『7.62mm機関銃』。それを持ち出した男は海に浮かぶ星に狙いを付ける。スコープやレッドサイトは無い。勘と視界で彼は撃つ。


『口を動かす前にハンドル握ってくんね?』


随分と前に火をつけたのだろう短くなった煙草を舌の上で弄びながら銃を握る男は相手の硬さを試すように軽く乱射する。鼓膜が粉砕されそうな程に大きく、人の鼓動よりも早い感覚で鉛玉は口から放たれる。

だが、少し化け物に命中してほぼ全て弾かれ、海の中へと落下した。


『んー…この辺か。』


再び、機銃の音が元港に響き渡る。今度は弾は2発のみだが今度は、光を放つ眼に命中した。

その途端、化け物の体が大きく跳ねる。まるで生き物のように、思ったよりも生物らしい姿を見せた星に対して、機銃の男は笑みを零す。そして、どこかへ繋がるトランシーバーを手に取った。


『行けるか?【レオ】。』


『当たり前だ。あの反応なら殺せるさ、寧ろ呼吸するより簡単に仕留められる。』


『大した自信だな?』


『勿論だとも、俺は獅子座だ。あの星も、俺だ。俺に勝てるのは俺だけさ、俺に負けるのも俺だけだ。人間はそういう風に出来ている』


『そうかい、なら自分に勝ってみろ。勝てたら後で海鮮丼奢ってやる。』


『了解』


トランシーバーの向こうで傷だらけの男が無邪気に笑みを浮かべる。

まるで大好物を目の前にした腹を空かせた六歳児のように

まるで新しいオモチャを見つけた4歳児のように

まるで産まれたばかりの赤子のように


山が割れた


山の中は土や岩盤の欠片では無く、土と鉄のドームだった。山の谷間から2本の角が伸び、角は青く光を放つ雷光を纏っていた。

その上には人が居た。電磁石を2本の超高圧な電極が引っ張り合い、宙に浮かぶかのように、男は虚空に浮いていた。


『システムオールグリーン』


『【対災厄】獅子座レオ射出準備完了』


辺り一帯に電子的な女の声が無機質に、だがけたたましく叫び続けては化け物に落とされた粗大ゴミが落下する音に掻き消される。


「行こうか。」


男はそう言い放ち、己の右頬を軽く撫でる。するとそこには『REO』と記された痣が浮かび上がり、男を形成する色が肌色から赤色へと変わる。両手が巨大化し、爪は鉤爪と化す。

色は違えど、その姿はまさしく獅子であった。

サバンナの中央で吠え上がり、獲物を捕え、糧とする百獣の王はそこに在る。


「STARRIZE…TRANCE」


男の体は巨大化した。山よりは小さく、だがそこらのビル程度では腰掛椅子にすらならないだろう。精々三輪車の椅子程度。

その姿を彼はこう呼ぶ。災厄と呼ばれる者達を踏み潰し、粗大ゴミにする者『SCRAPER』。


『complete』


低く野太い電子音がそう告げ、獅子は夜の海へと放たれる。鉄のように固く、だが、シルクのようにキメ細やかな外装が海水に濡れる。そんなことを気にするはずもなく、獅子は目の前の大獅子の首に食らいついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

BLACKHAZARD @ieisandaaa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ