最後の一滴

 砂漠のような場所に出てから、俺たちは一向にろくな町も見つけられずに歩いていた。パートナーであるハンナの水筒は尽きている。後は俺の水筒の底にある、ほんの少しの一滴だけ。

 その一滴が俺たちを救えるほどの希望を持ちあわえているとは、俺も思わない。きっと、ハンナも。それでも懐に水があるのとないのでは、かなりモチベーションが変ってくるものだ。

 ハンナの体が、ぐらっと歪む。俺はそれを黙って見ていた。さっきから遠目に見える偽物のオアシス、心綺楼。それと同じ現象だと思っていたのだ。しかし暫くすると血の気が引いてくる。沸騰した頭が徐々に回転し始め、俺を現実へと帰還させた。

 「ハンナ!」

 俺は全くの躊躇もなく、ハンナに自身の水筒を差し出した。それをハンナが拒むので、俺は無理やり口に押し付ける。

 する、そんな音がした気がした。実際はそんな音などするわけないのに、そう聞こえた。それが希望が去っていった音だと気付いたころには、俺たちは仲良くオアシスの麓にいる筈だった。

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