咲き乱れる

 演劇部、本番が迫っている。どんどん進んでいくストーリー。増えていく客の数。それらを見て、私の中は焦燥感と不安で満たされていた。私の役は、大した役ではない。誰にでも出来るといわれて任された、モブ役だ。台詞も短いし、目立つ真ん中に立たされることもない。しかしそれでも、私にとっては足が震えるほどの刹那なのだ。

 もし私がしくじれば、主人公とその宿敵は役目を全うできなくなる。その責任の重さが、モブキャラこと私にも等しく重く圧し掛かっていた。

 もうすぐ、出番がくる。幕の裏では、様々な衣装を着た生徒が、私に目配せしていた。それが私の何かを解き放った。もう無理だと悟ったのだろうか。分からないが、怒りにも似た気持ちが込み上げてくる。

 よく考えれば、私と私が演じるこのキャラはどこか似ていた。いつも影が薄くて、勇気もなくて、でも心の中だけは一丁前に頑固で。私の中では、常に私は最強だった。

 「そうだ、私はこんな奴じゃなかったんだ」そう呟く。

 私は私だが、モブも私なんだ。

 汗が噴き出る。私の登場シーンのコンマ一秒前。私は何かを吹っ切って、さながら勇者のように幕を飛び越えた。

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