接点

 僕らの人生を糸に例えたりしながら、横断歩道を渡ってみる。そこですれ違う今まで見たこともないような、もしくは忘れてしまっているだけの人たちの顔を、出来るだけ気付かれないように横目で見た。

 僕らが他人と繋がりを持つのは一体いつからなのだろう、と僕は考えている。それは会話をしたらなのだろうか。それとも偶々肩がぶつかった時なのだろうか。分からないが、僕は今この時を尊く思っている。

 僕のことを気にもせず通り過ぎていく人たち。世界は今日も、他人に無関心のまま進んでいく。だけど、少なくとも僕だけは違った。

 「これ、落としてましたよ」

 僕は道端に落ちていたハンカチを拾い上げて、女性へと声をかける。女性は一礼をすると、それを受け取ってそそくさとその場を去っていった。

 僕はその背中を見送って、帰路へと赴く。僕も僕で、あの女性のように何かを落としていっている。それが何かは分からないが、いつか、誰かが拾ってくれる筈だった。

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