第482話 妹の探してたパンケーキ店

駅前に着いて、最初に向かったのは妹のご所望のパンケーキが食べられる店だ


妹「~~~~♪」

上機嫌だなぁ、そんなにパンケーキが食いたかったのか?

俺、苦手なんだよな……パンケーキ店


俺「はぁ……」

ほぼ女性客しかいない店に、俺みたいな男が混じると

絶対に歓迎されないんだよ

周りからヒソヒソと何か言われてる気分になる


妹「おにぃ、どうしたの?」

こいつは、そういうの全然気にしないよなぁ

一緒に店に入って、注目を浴びても同様しないし


俺「いや、なんでも……」

さっさと食べて、店出たいな


妹「着いたよ!ここが行きたかったトコ!」

ここ?

本当にここなのか?

随分と……なんというか……ボロい


俺「渋い店構えだな」

壁は蔦が埋め尽くし、ドアも古びた木製のドア

看板もメニューも店の外にはない

ここ、本当に店なのか?


妹「渋いっていうか、オンボロだよね」

言いやがった⁉


俺「本当にここで合ってるのか?」

隣とか、向かいとか他にもそれっぽい店がいくつもあるだろ?


妹「合ってる、はずだよ」

はずって、お前……


俺「分からないのか?」

場所はお前しか分からないんだぞ?


妹「だ、だいじょーぶ!きっと合ってるから!」

そう言って、ドアを開ける妹

ドアには金属のベルが付いていて、カランカランと音を立てる


「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」

カウンターの中には背の高いスキンヘッドの男性が……ピンクのフリル付きエプロンをつけていた⁉

店内のイスや机、照明や装飾品もアンティーク調で統一されてる中……唯一の場違いが、店員っぽい男性だ

店主は、不在なのか……?

もっと見た目が良い人を立たせておけばいいのに


妹「はーい」

臆することなく、店内のテーブル席に向かう妹


俺「ほ、ホントに大丈夫なのか?」

この店、ヤバイだろ!


妹「大丈夫だって!」

席について、メニューを広げると

そこには丸文字で……当店1番人気!!愛のパンケーキ(はーと)

と書かれていた


他にも星のきらめき(ジンジャエール)とか、月がきれいですね。(クッキー)と

意味の分からない事が色々書かれている


俺「な、なぁ、これって……」

予想してたヤバさとは違うヤバイ店だよな⁉


妹「ここだよ!私が探してたお店!!」

探してたの⁉


俺「お前、正気か?」


店主「失礼ですが、当店は初めてですよね?」

と、あんまり騒がしくしてたせいかフリルエプロンの大男が声をかけてきた


妹「はい。でも、噂で聞いててずっと探してたんです」

どうしてソコまでして探す必要があるんだよ……


店主「それはそれは、光栄です」


妹「ここ、人気店をまとめたサイトとかに全然名前出てこないですよね?」

それは人気がないって事じゃねーのか?


店主「ええ、ああいったモノはお断りしてるんですよ。この店は私1人で切り盛りしてるので、お客様がたくさん来られても対応しきれないのです」

薄々分かってはいたけど、この人が店主だ!!

てか、それなら女性のバイトとか雇えばいいんじゃないか⁉

そして、アンタは店の奥に引っ込んでた方がいいよ


妹「やっぱり!幻にして不動の1位の噂はホントだったんだ!!」

どんな噂⁉


店主「いえいえ、1位なんて恐れ多い……でも、そうなれるよう日々努力はしているつもりですので是非パンケーキを食べてみてください」

な、なんだろ……見た目と会話の内容にギャップを感じる


妹「はい!それじゃ私は愛のパンケーキとドリンクのセットで」


店主「畏まりました。本日のドリンクはダージリンのオータムナルです」

おーたむなる?

なんか聞いた事ない言葉だな

ダージリンって事は紅茶だよな?


店主「彼氏さんは何になさいますか?」

か、彼氏?


俺「違いますよ、兄です」

何勘違いしてんだか


店主「そうでしたか……これは失礼しました。ではお兄様は何になさいますか?」

お兄様⁉

ヤメテくれ鳥肌が……


俺「えっと、じゃあこのクッキーとジンジャエールで」

名前は変だけど、クッキーとジンジャエールなら大丈夫だろ……


店主「はい。月がきれいですね。と星のきらめきですね……こちらセットで提供で問題ございませんか?」

この見た目の人から、その単語が出てくるの

違和感しかないな


俺「あ、はい」

セット?

そんな表記あったか?


店主「では、ロマンチックな夜空セットでお受けします」

はいぃぃっ⁉


俺「その、なんでこんな名前にしたんですか?」

もっと他にもあったでしょ?


店主「可愛いからですけど……何かおかしかったでしょうか?」

か、可愛い⁉


俺「いえ、分かりました」

もう俺の理解の埒外だって事が


店主「そうですか。ではご用意しますので暫しお待ちください」

カウンターへ戻っていき、調理を開始する店主さん


妹「ここね、前から来てみたかったんだけど……お店の正確な場所がどこにも載ってなくてね」

じゃあ、どうやって今日来たんだ?


妹「学校の友達の友達の友達のって噂を知ってる子を辿っていって、やっと来た事がある人までたどり着いたんだよ!」

そ、そうか


俺「大変だったんだな」

こんな良くわからん店に来たがるのは、ほんとに不可解としか言いようがないんだが


それから、注文したものが届くまで

妹はどう大変だったかを俺に説明しまくった

まぁ、俺は半分くらい聞き流してたけどな

だって、店主さんが……鼻歌歌いながら調理してるんだぞ⁉

しかも、メロディーがゆるふわっとした4コマ漫画のアニメOP⁉

なんでだよ!!






店主「お待たせしました」

俺と妹それぞれの前に、注文した商品が来る


店主「愛のパンケーキ(はーと)と本日のドリンクです。そしてこちらがロマンチックな夜空セットです」

う、うん……名前はおかしいけど

見た目は普通に美味そうだな


店主「では、ごゆっくりどうぞ」

小さくお辞儀をして、カウンターの方へ戻っていく


妹「さ!食べよ!」

手にしたフォークとナイフで、ハート型のパンケーキを切る妹

うん……見た目は普通に美味そうだ


先にまずはジンジャエールで喉を潤そうかな

一口、含んだ瞬間

ピリっとした刺激と、炭酸の弾ける刺激が同時に舌にきた

う、美味い……

これ、スーパーやコンビニの市販品と違うだろ?


ジンジャエールがこれって事は……このクッキーは

どんな味がするのかワクワクしながら、1つを口へ運ぶ

見た目は普通のバタークッキーだけど……

うんッ⁉

これ、中に何か入ってる⁉


この味と食感は……ドライフルーツか?

何の果物か、分かりそうで分からないな……

も、もう1個食べてみれば分かるか?


続けて2個目を口に入れる

サクサクとしたクッキーの中から、弾力のあるドライフルーツの甘味を感じる


でもコレ……さっきと違う⁉

1つ目と2つ目のクッキーに入ってるモノが違う⁉

これじゃ何が入ってるか、分からないな……

仁科さんなら、1発で当てられるんだろうけど

俺には、そこまで細かい事は分からないな


全部で6枚のクッキー、その全てが違う味だとしたら……次はどんな味が隠れてるのか……

楽しい!!


クッキーのバター風味が口に残りそうな時はジンジャエールでしっかりとリセットして、次のクッキーを口に入れる


あっという間に食べ終えてしまい、もうクッキーが無い……

これは、追加で頼むべきか?

なんか……後を引く味だし、もっと食べたくなるな


妹の方はどのくらい食べて……ってもう皿空になってんじゃん!


俺「た、食べ終わったのか?」


妹「うん。おにぃより先にね!目を閉じて味わってたね!そんなに美味しかった?」

くっ……話しかけてこないから自分のパンケーキに夢中だと思ってたのに

まさか、俺より先に食べ終えてたなんて……


俺「あ、ああ。美味かった……また食べに来ようかな」

今度は1人で来よう

1人で、思う存分食べに来よう……


店主「どうでしたか?」


妹「とってもおいしかったです!!」

俺「おいしかったです」


店主「お口に合ったようで、良かったです。それと、お願いがあるのですがよろしいですか?」

お願い?


俺「なんですか?」


店主「この店の事はネットへ書き込まないでほしいのです。後、できるだけ他の方へお話もしないで貰えると助かります」

なるほど……

お店の事が広まれば広まった分、大変になるから


俺「でも、余計な事だとは思うんですけど……お客さん少なすぎてやっていけるんですか?」

ぶっちゃけ赤字だと思うんだけど……


店主「ええ、それはまぁ、副業の方で」

副業してるのか……


俺「大丈夫なら良かったです。また来たいんで、その時に閉店してたら困りますから」


店主「そうですか。ではまたのご来店をお待ちしております」

ああ、絶対にまた来るよ


俺「はい、今度は1人で来ますね」


店主「ええ、ですが少人数であればお友達を連れてきても大丈夫ですからね」

友達……?

BとかDは、誘うことはないな


俺「はい」


妹「おにぃ、私もまた来たいな~」

そうか


俺「俺は1人で来たいから、お前はお前で来ればいいだろ」

そんな毎回毎回奢るのはイヤだからな


店主「仲がよろしいんですね」

いや、まぁ……悪くはないけど


俺「それじゃお会計をお願いします」


さて、あの味だし……それなりの金額かな


店主「はい」

レジ前に行くと


店主「愛のパンケーキとドリンクセット、ロマンチックな夜空セットで……3300円です」

え……?

マジで?


俺「は、はい」

財布からお金を出す


店主「はい、ちょうどですね。レシートと、次回のクーポン券をどうぞ」

レシートと1割引きクーポン券を受け取る


俺「あ、あの……安すぎませんか?」

てっきり4000円超えだと思ってたけど……


店主「いえいえ、適正価格ですよ」

そ、そうなのか……


俺「絶対にまた来よう……」


店主「ありがとうございました~」






謎に美味い店から出て、あの味をもう1度思い出す


再現は……現状じゃ無理だな

というか、中に入ってるドライフルーツが分かっても再現できる気がしない


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