第227話 いざクレーム

会場に戻って来ると、撤去作業中のスタッフが忙しなく働いていた


とりあえず、その辺にいる人に聞けばアノ司会者が何処にいるか分かるか


俺「すいません。ちょっといいですか?」


「は?なんすか?」

態度悪っ!?


俺「このイベントの責任者に話しがあるんですけど、どこにいますか?」


「責任者?えーっと……あ、じゃあ付いて来てもらっていいっすか?」

ん?

わざわざ案内してくれるのか……?


俺「わかりました」

なら案内してもらおうじゃないか!


態度の悪いスタッフの案内に付いて行くと

関係者以外立ち入り禁止の扉を抜けて、完全な裏方用の通路に入って行く

通路の左右にはいろんな物が置いてあるせいで、狭苦しいな


本当にこの先にいるのか?

なんか不安になってきたな……


俺「あの、この先に」


「もう少しで着くっすよ」

本当に?

何かそうやって騙される事多いんだよな……

半信半疑で付いて行くと、スタッフさんが立ち止まって振り返る


「ここっすね。じゃ!」

親指でドアを指さして案内の終了を告げる

え⁉行っちゃうの!?

中まで取り次ぎしてくれないの!?


俺「ほんと、何なんだよ……」

スタッフの教育ちゃんとしとけよ!!


はぁ~……

とりあえずノックをしてみる

すると、中から司会者の声が聞こえてきた

「どーぞー」


俺「失礼しまーす」

入室すると、司会者と審査員として出て来たこの施設の責任者がいた

よし、いいタイミングだったみたいだな


「君、誰かな?ここはスタッフオンリーなんだけど」

責任者の方が不信がってるな……

司会者の方は、妹の方を見てやれやれと頭を振ってやがる


俺「コンテスト優勝者の家族です。話しがあってお邪魔しました」


「家族?」

「あのねぇ、確かに先に言わなかったのは悪かったけどさぁ。別に悪い話じゃないでしょ?ちゃんとモデル料も払うんだしさ」

司会者コイツ……!


俺「いえ、絶対にモデルの件は断らせていただきます。本人が嫌がってるんです。無理強いはやめてください」

毅然とした態度で、断固抗議する!


「あ~、君があの子のお兄ちゃんかぁ。へぇ、やっぱ名前無しmobなんだねぇ」

責任者の方が俺を品定めするように見る


俺「そうです。モデルの件は諦めてください」

そしたら直ぐにでも皆のとこに戻って、プールを満喫するんだ


「だから、何で嫌なのか言ってくれないとコッチも納得いかないだって」

司会者の態度は、明らかに客にするものじゃないな


俺「納得って、そんなの必要ないだろ?本人が嫌がってるんだよ!」

背中に隠れる妹は不安そうだけど、大丈夫だからな

この手の輩は弱気になったらダメなんだ

強気で断り続ければ、向こうが折れるのが先だ


「恒例なんだよ。そのポスターでどれだけ集客できるか変わんだよ。超重要なの、理解できる?」

コイツ……俺の事バカにしてるな……


俺「そんなの知るかよ。そんなにモデルが必要なら他の誰かに頼めばいいだろ」

嫌がる妹がやる必要はない!


「そういう訳にもいかないんだよ!大人の都合ってやつがあんの!ガキのくせに」

とうとう本性を現しやがったな!


俺「そんなのコッチには関係ない!妹のモデルの件は絶対に断らせていただきます!」


徐々にヒートアップしていく俺と司会者の口論に、責任者が口を挟んでくる

「はぁ……、なんでそんなに嫌なの?」


責任者もソッチ側かよ……クソだな


俺「だから、理由なんていらないですよね?本人がやりたくないって言ってるんですよ」


「でも、さっきは引き受けてくれたよ?」


俺「あんまりにもアナタ達がしつこいからでしょ!?」

まさか自覚がないとか言わないよな!?


「そんなにしつこくしたつもりはないのだけど……」

困ったわ~、って言いたいのは俺の方だよ!


東雲「貴方たち、少し落ち着きなさい」

そうは言っても!


「さっきから気になってたのよ。どちら様かしら?」

責任者も東雲さんの事知らないみたいだな

アイドルとか詳しくないんだな


東雲「あら、私の事覚えてないのね……残念だわ」

え?あれ?面識あったの!?


「え……えぇ?アナタみたいな可愛い子、一度会ったら忘れるはずないのだけど……どこで逢ったかしら?」

完全に記憶に無さそうだな……


東雲「貴方がここの責任者に任命された時よ?本当に見覚えがない?」

え?

どういう事?


「ここの責任者に、任命された時……?」

全く記憶にないみたいだな


東雲「江藤」

手を出して、江藤さんに一声かける


江藤「はい、お嬢様」

すぐに意を汲んで東雲さんに眼鏡を手渡す


すっ、と眼鏡をかける東雲さん

その姿を見た瞬間、責任者が驚きのあまり椅子からこけた!?

ど、どういう事!?


責任者は慌てて土下座した!?

何!?

何で東雲さんが眼鏡かけただけで土下座!?


東雲「どうやら思い出してくれたみたいね」


「は、はい!すいません!」

どうしちゃったんだ?


「どうしたんすか?アンタがそんなに取り乱すなんて、ウケるんすけど」

司会者……お前、ブレないな


「い、いいからお前も頭を下げなさい!ここここ、このお方は」

慌てすぎで、ちょっと怖いくらいだな


東雲「名前くらい自分で言えますから、少し黙ってなさい」


「はいぃ!すいません!!」

なんか、怯えてる……?


東雲「私の名前は東雲 胡蝶こちょう。東雲財閥、次期当主よ」

ん~?

東雲財閥……?


「そのお嬢サマが何のようなんですか~?」

いや、司会者……気付けよ

お前の上司的立場の責任者さんが平伏してるんだぞ


東雲「どうやらアナタは何かの間違いで入社してしまったみたいね。もう明日から来なくて結構よ。どうぞ、自由に生きてください」

あ……


「はぁ?お嬢ちゃん、何言ってんの?」

コイツ……バカだ!!!

流石の俺でも気付くぞ!?

このプール……東雲財閥の持ち物だろ⁉


東雲「貴方はクビよ。さぁ、退出しなさい。ここはよ」


「クビ?……はははは!何の冗談だよ!俺が誰の息子か知らないのか?俺の親は一流企業の重役だぞ?しかもココの上部組織だ!コネ使って入ったんだ。簡単にクビにされるわけないだろ?」

あ~……アウトです

親も、こんなバカの為に……可哀そうに


東雲「そう。それは良い事を聞いたわ。明日から重役の席が一つ空くわね。江藤、お父様に連絡を。新しい役員の選定をするわ」


江藤「はい。お嬢様」


江藤さんがスマホを取り出して東雲さんのお父さんに電話をかける

少し話して、すぐに東雲さんにスマホを渡す


東雲「お父様、今宜しいかしら?……あら、会議中だったのね。ごめんなさい。でも大事な用なの。ええ。とても大事な用よ。……今プール来てるの。……そう。でね、私の目の前にいる従業員をねクビにしたいの。でも、コネ入社だからって……そう。なんでも重役らしいのよ……あ、今いる?じゃハンズフリーにするわね」


スマホを操作してスピーカーモードにする

真っ先に聞こえたのは渋い声だった

『やぁ、聞こえてるかい?』


たった一言なのに、とんでもない凄味を感じる……


東雲「ええ、ばっちり聞こえるわ」


『それでは、弁明があれば聞こうか』

『は、はい……えぇ、この度は私の愚息がご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。どのような処罰でも何なりと申し付けください』

「え?パパ?」

『そうか。君には大分助けられたし、私としても失うには惜しい人材だ』

『ありがとうございます』

『だから、一から再スタートしてもらおうと思う。一般社員の何も役職もない所から、またその席を目指してくれ』

『は、はい……』


『と、そう決まったから其処にいるのは我が社の平社員の息子だよ。丁重にお帰りいただきなさい』


東雲「お父様、ありがとう」


『いつも言ってるだろ?パパと』

言い終わる前に通話を切る東雲さん


東雲「と、いう訳だから。新しい職を探すことね。モデルの件も本人がイヤがってるのだから無理強いはダメよ?」


「はい!もちろんです!」


責任者さんはずっと土下座したままだったな……



そして司会者だった方は……放心状態だな


まぁ、身から出た錆ってやつだろ

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