第217話 コンサートの様な

さて、次は堀北さんか

堀北さんって、あんまり特技とか披露することないから

どんな特技持ってるか気になるな


「さぁて、お次の方は一体どんな特技を見せてくれるのでしょう!」

頑張って空気を変えようとしてるけど、残念ながら会場は南城さんへの喝采の染まったままだ


堀北「そうですね、では……千秋が踊るなら、私は歌います」

う、歌!?


「では音楽を準備しますので、少々お待ちください」

いったい、何歌うんだ……?


堀北「いえ、音楽はいりません」

ん?


「はい?」


堀北「アカペラですから」

あ、アカペラ!?

堀北さんにそんな特技があったのか……


「で…では、お願いします!」


堀北さんが一度深呼吸をして……第一声が放たれた

高く澄み切った声、その声を耳にした瞬間

観客たちは、さっきまでの熱狂が嘘のように落ち着きを取り戻した

曲名は知らないけど、なんか聞いた事ある気がするな……


なんだろ……凄くリラックスできる歌声だな


自然と目を瞑り、堀北さんの声以外の情報をシャットアウトする


普段会話してる時とは全然違うけど……間違いなく堀北さんの声


静まり返った会場に唯一響く清涼な歌声






歌声が止むまで、息をするのすら忘れるほど集中させられていた

堀北さんが歌い終えて、お辞儀をする

一拍空けて、忘れていた呼吸を思い出し空気を吸い込む


そして、大歓声が上がる!!


南城さんの時と同じくらいの歓声が会場を埋め尽くす


少し照れた表情をして、小さく手を振って観客に応える


「えーー、素晴らしい歌声でしたね!……皆様、お静まりくださーい!!」

しかし司会の声は白熱した観客には届かず、会場は熱気を上げていく


「……お静かにお願いしまーす!!」

声を張り上げても、観客には届かない……

全く収拾がつかない状況に陥っていた


狂乱の一歩手前の状況を打開したのは……なんと仁科さんだった!?


仁科さんが司会者に何かを話しかけ、司会者が困惑しつつも何処かに指示を出す

すると、スピーカーから大音量で軽快なメロディーが流れだした

観客がいきなり流れた音楽に反応する


でも、この曲って……あのアニメのOPだよな?

今注目のアイドル声優が歌ってるやつ……

なんでこの曲をチョイスしたんだ?


司会者からマイクを受け取り、ステージの中央に移動する仁科さん

ちょうどイントロが終わり、歌いだしに入る


仁科さんが歌いだすと、会場の空気がまた少し変わる

堀北さんへ向いていた熱気が少しだけ霧散していく


しかし、仁科さんの歌声は堀北さん程インパクトはない

残念だけど、特技披露は南城さんと堀北さんのツートップだ

仁科さんは身体を小刻みに揺らしながらテンポを取る


そして、サビに入った時……一変した!!


仁科さんが大きく身体を動かして踊り始めた!?


曲に合わせて、歌いながら踊る仁科さん

その表情は……とっても楽しそうな笑顔だった


俺の知っている曲で、しかもアニソンだ

思わず曲に、仁科さんに合わせて体がリズムを刻む


そして、それは俺だけではなかった

会場にいた、オタク男子の一団が掛け声を上げ始めた

歌声と曲に合いの手が入る


Hi!!Hi!!Hi!!Fu~~!!


その光景にぎょっとした他の観客たちが距離を取ると

オタクたちは、立ち上がり更に大きな声で応援を始めた


そのオタク達に当てられて、つい出来心で応援に加わると


俺「ハイ!ハイハイ!フゥ~~!!」


そんな俺を見た仁科さんは、心底嬉しそうに笑顔を浮かべ

テンションを爆上げした

それに呼応して、オタク達もヒートアップしていく


この会場の一部がアイドルのコンサートの様な状態になる

そして、類は友を呼ぶと言うべきか

曲や歌声、合いの手を聞きつけたオタクが集まりだした

そして、元からいた一団に加わり規模を拡大していった


曲が終わり、額の汗を拭う仁科さん


仁科「ありがとー!」

と一言発し、マイクを司会者に返す


自惚れだろうけど、今の一言は……俺に宛てた言葉のように感じた


そして、仁科さんの出番が終わった途端

興味の対象を失ったオタク達が三々五々に離れていった


会場はさっきまでの異常な熱気が嘘のように、落ち着きを取り戻した

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