第154話 消失と夢

主任「まず、君は名前持ちネームド化の薬を投与されて、見た目だけ名前持ち化したわ」

それは分かってる


主任「でも、君は薬を投与されなくても名前持ち化した可能性が高かった。そうね?」


俺「行動次第で、そうなると言われてました」

高い低いは覚えてないけど……


主任「薬の影響と君の体質的なものが相乗効果を生み出したわ。その結果、時間のかかる精神の名前持ち化が加速したと思われるわ」

えっと……?

薬のせいでより悪化したってこと、かな?


主任「そして、精神の名前持ち化が確定した瞬間……二度と名前無しに戻ることはなくなるわ。後少し治療が遅れれば、手遅れだったわ」

て、手遅れ……今年いっぱいまであった期限が、無くなってたのか?


主任「ギリギリ治療は間に合ったけど、まだ予断を許さない状態ではあるわ」

治ったんじゃ、ないの??


主任「依然、君の中にはN-DNAが存在してる。だから、今後も注意しないと名前持ち化する可能性は残っているわ」

そ、そっか……


主任「今話した内容が、君の現状よ。本題はここからね、君が忘れている事を話すわ」

今のが本題じゃない……だと⁉


主任「君は社長の計らいで、特別治療室へ入院したわ。そこで一切の面会を謝絶して、治療に専念するために」

面会謝絶で治療に専念……

かなり重い病気みたいに聞こえるな……


主任「その時の君は、今みたいに大人しい感じではなかったわ。凄く……荒れていたわ。目にするもの全てに敵対心と猜疑心を向けて、まるで野生の獣みたいだったわ」

それ、俺?

全く記憶にないんだけど……


主任「暴言も酷くて、治療に当たった人すべてを罵ってしたわ」

ほんとに俺?

知らないよ、そんなこと!?


主任「悪い名前持ちのような言葉を使っていたわ。『名前無し風情が』とか『消してやる』とか……」

それは酷い……

俺、そんな事言われたら泣くよ?


主任「それでも何とか治療を続けて、先週やっと見た目を戻す治療薬が完成したわ」

ほんと……なんか、すんませんでした……


主任「薬の効果で見た目が名前無しに戻った途端、散々騒いでいた君は気を失っちゃって……それはそれで大騒ぎになったわ」

ごめんなさい……


主任「そして翌日、スタッフが少し目を離した隙に忽然と姿を消したのよ」


俺「はい?」

何か話が突然飛んだ気がするんだけど……?

どういうこと?


主任「脱走したかもしれないって、施設を一度閉鎖して探したけど見つからなくて。もちろん施設の外も探したけど、発見はできなかったわ」

は?え?

脱走??


主任「いくら探しても発見できないから。消失した可能性が高いと結論が出たわ」

消失……したのか、俺?

じゃ、じゃあ俺は……誰?


主任「その結論が間違っていたのは、目の前に君がいることで証明されたわ。そこで疑問なのだけど、今まで数日間どこにいたの?」

数日間って言われても……今さっき目が覚めたばっかりだし……


俺「はっきり覚えてるのは、名前持ち化して学校行ってトラブルに巻き込まれた後、四季島の親父さんに助けられて……目が覚めたらココにいたんです」


主任「治療中の事は何も覚えてないの?」


俺「はい。全く身に覚えないです」


主任「そう……目が覚めたらって言うのは?眠っていた感じかしら?」

ん~~~~?


俺「多分、そんな感じです。何か夢を見てたような、そんな気がするんで」

文芸部の部室に行った……そんな夢だ


主任「夢、ね……その夢の内容は?覚えてるかしら?」

内容……内容……


俺「あやふやなんですけど……」


主任「何でもいいわ。聞かせて」

そこまで言うなら


俺「夢の中で、気がついたら……文芸部の部室の前にいまいた」


主任「文芸部の部室……それで?」


俺「えーっと、中に入ったら誰かがいて……」

誰だっけ……?

名前聞いたと思うんだけど……


主任「誰か……男?女?」


俺「確か、女の子だったと思います。名前を聞いたと思うんですけど……」

思い出せないな……


主任「女の子……しかも名前持ちなのね」

あ、そうか

名前を名乗るってことは名前持ちか


俺「それで、えっと……半透明?」

なんだっけ?


主任「半透明?その女の子が?」


俺「いや、えっと?……何が半透明だったんだっけ?」


主任「そう。その子とは何か話しはしたかしら?」

話……話した気はするな……


俺「何か話したと思います……内容はあんまり覚えてないんですけど……」

魂……だっけ?

そんなファンタジックな話ししたんだっけ?

初対面の女の子との会話じゃねーな……


主任「なんでもいいから、どんな小さな事でもいいから話して」

なんでそんなグイグイくるの⁉

俺の夢と消失もどきに何か関係あるの⁉


とりあえず……覚えてる単語だけでも話してみるかな……

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