第121話 7月1日

なんやかんやあって、あれから1週間が経って7月1日を迎えた

今日から俺は一人暮らしを開始する


学校から帰るのは新しい自分の部屋

俺が学校に行っている間に、荷物の搬入は終わっている

父さんが何もかもやってくれた


ありがとう、父さん


慣れない帰路を確認しながら辿り帰った


鍵を開けて、蒸し暑い空気が籠った部屋に入る

父さんから届いたメッセージ通りの状態だ


父さん 荷物の搬入は終わったぞ

    カーテンはかけたが、他の片付けは任せる


部屋には段ボールが数箱と、小さなテーブルが1脚、布団が一組置いてある

テーブルと布団を広げられる程度の空きスペースはあるし、一先ず暮らせはする状態になってる


空気の入れ替えの為に窓を全開にする


ちょうど心地よい風が吹いてきた

うん

気持ち~


気分を切り替えて、荷解きを始める


コレは、食器か

コッチは、肌着類だな


えーっと、あ!コレコレ!

学校で使う物を入れた段ボール

体操着やら教科書やら予備のノートやら色々まとめて入ってる


さて、食器はとりあえず箱のままお勝手に置いておくか

下着とかも取り敢えずは段ボールのまま風呂場のドアの前に置いておいて


えーっと……?

買い出しに行かないとなぁ

こっからだと、普段行くスーパーよりも近くに別のスーパーがあるんだよな

そっちで必要な物を買ってくるかな


まずは…シャンプー、リンス、ボディソープ、中性洗剤だろ


あ、そうだ

トイレットペーパーも買ってこないと


あとは……

今日の分の夕飯と、ハンガーと……ってそんなにいっぱいは持って帰れないか


さて買い物行こう!と立ち上がった時、ピンポーンとチャイムが鳴る

誰だ?


俺「はーい」

玄関を開けると、大家さんが立っていた


俺「あ、どうも」


大家「荷解きは順調かな?」


俺「はい。順調です」


大家「何か困った事があれば相談してくれよ?アイツの倅だ、出来るだけ協力したいからな」

どうして大家さんは父さんとそんなに仲がいいんだ?


俺「あの、質問いいですか?」


大家「なんだい?」


俺「大家さんと父さんって、いつからの付き合いなんですか?」


大家「なんだ、聞いてないのか?……アイツと私は学生の頃からの友人だよ」

学生の頃って……ずいぶん長い付き合いだな


大家「しかも、職場の同僚でもあったんだ。今はこうしてアパートの大家をやっているがね」


俺「へ、へぇ……父さんの同僚でもあったんですね」

通りで仲良いわけだ

でも、父さんってどんな仕事してんだろうな……


俺「あの、父さんの仕事って」


大家「うん?聞いてないのか?」

頷いて応える


大家「アイツはな」

と言いかけた所で、父さんがやってきた


父「息子よ、そいつの話は半分は嘘だと言っただろ?」


俺「父さん」


大家「まったく、酷い言いがかりだ。私の嘘は4割程だ」

それって嘘吐かれる側からしたら誤差では?


父「そんな事より、終わったのか?」


俺「あ、うん。一先ず必要最低限の物だけ買い物に行こうと思って」

そしたら大家さんが訪ねてきたんだよ


父「そうか。なら、手伝うから行くぞ」

おお、父さん!ありがとう!

そしたら多めに色々買えるな


大家「それなら車を出そうか?」


父「いや、地理を把握するためにも歩いて行く」


大家「そうか。まぁ、車が必要だったら言ってくれよ」


父「ああ。必要なら連絡入れるさ。さぁ行くぞ」

俺と父さんは二人で買い出しに出掛けた




しばらく無言で歩いて、ふと父さんが立ち止まった


俺「父さん?」


父「こんな言い方はしたくないんだが……あの男には気を付けろ」

あの男って、大家さん?


俺「え?なんで?凄く良くしてくれてるのに」


父「職場に休みの連絡を入れた時、聞いた話なんだが……あいつは、どうやら私を恨んでるらしい」

は?

恨んでる?


俺「なんで?そんな風には見えなかったよ」

寧ろ仲良すぎって思ってたくらいなんだけど……


父「あいつの仕事は……私の案とは違う思想のものだったんだ。社内会議の結果、私の案が採用された。しかし、その時もあいつは最大限祝ってくれたし手伝ってくれもしたんだ。だから、恨まれてるなんて微塵も思わなかった……だが、会社に休みの連絡を入れた時忠告されたんだ。あいつが私の事を調べている、と」


俺「それって調べてるってだけで恨まれてるって言えるの?もしかしたら、何か別の理由があるんじゃない?」

恨んでる相手にあそこまで優しくなんて出来ないと思うけど


父「あいつが調べていたのは……お前の事だったんだ。どうやってかは知らないが、お前が特別なmobである事を突き止めたらしい」

俺の事を?

それこそなんで?


父「そして、お前を使って自分の考えが正しかったと証明したいらしい。私への復讐を兼ねて」


俺「父さん、さっきから“らしい”ばっかだけど」


父「ああ、まだ信じられない……いや信じたくないんだ。あいつが、私を恨んでいるなんてな」


俺「なら、信じてあげればいいんじゃないかな?学生の頃からの友達なんでしょ?」


父「……そうだな。でも、お前はくれぐれも油断し過ぎないようにな?私にとってあいつとの想い出より、お前の方が大切なんだからな」


俺「うん。わかった。気を付けるよ」

簡単に気を付けるなんて言って

そんな変に人を疑う話は終わりにした




買い物リストを父さんに見せて、他に何を買えばいいかアドバイスをもらいつつ

親子仲良くスーパーへ向かった




この時俺は、あの人がそんな奇行に走るとは思いもしなかった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る