第89話 仁科さんとランチタイム

一区切りついたところで、ちょっと早いが昼飯を食べることに


俺「弁当~弁当~」

カバンから弁当を取り出し机に出す


仁科「今日もお弁当なんだね」


俺「そうだよ。いつも母さんが作ってくれるんだ」


仁科「いいなぁ~」


俺「仁科さんは?昼何食べるの?」


仁科「私?私はコレだよ」

そう言って用意したのは、ケーキだった……

あれ?昼飯聞いたつもりなんだけど?


俺「ケーキ?」


仁科「うん!残っちゃったからね」

3ピースのケーキを自分の前に用意しフォークで食べ始める


俺「え?パンとか、ご飯は?」

まさか


仁科「今日は食べないよ~。モグモグ…そんなに食べられないからね」

いや、ケーキじゃなくてせめて菓子パンとかの方が良いと思うんだが?


俺「不健康過ぎじゃない?」


仁科「でも、もったいないじゃん?折角作ったんだからね」

そりゃそうだろうけど……

はぁ……しゃーないな


弁当の蓋に中身を半分に分ける

その蓋の方を仁科さんへ差し出す


俺「少しくらいはケーキ以外も食べなよ」


仁科「え⁉くれるの⁉」

頷く


俺「ケーキは食後のデザートにしよう」

半分じゃ俺も食い足りないから、ケーキで補うかな


仁科「あ、ありがと!!お箸取ってくる!」

家庭科室にあるプラスチック製の端を取り急いで戻ってくる

そんなに急がなくても、無くなったりしないっての……


俺「いただきます」


仁科「いただきます!」

凄く嬉しそうに一口目を食べる

ゆっくり咀嚼し、飲み込む


仁科「おいしい……おいしいよ」

母さん……弁当めっちゃ褒められてるぞ

良かったな


俺「モグモグ」

うん、いつも通りだな


半分こした弁当はすぐに食べ終えて、デザートのケーキに移る


仁科「う~ん……もう少し、サッパリさせたいかなぁ」

充分美味いけど、まだ満足いってないのか……


俺「美味いけどなぁ」


仁科「でも、これだと1ピースの3分の2くらいで飽きてきちゃうでしょ?」

飽きる……

まぁ、それぐらいで満足しそうな濃い味ではあるのか……?


仁科「私の目標はね、1ピースじゃホンの少し物足りないくらいのケーキなの」

物足りないっていいのか?


仁科「少し物足りない時、ついもう一つ食べちゃいたくなるでしょ?」

まぁ、そうかな


仁科「そしたら私のケーキをまた食べてくれるって事でしょ?それって素敵じゃない?私のケーキを好きになってくれた人が、また私のケーキを食べてくれる……ずっとずっと私のケーキを食べてくれるんだよ?すっごく作り甲斐があるでしょ⁉」

なんで早口⁉


俺「お、おう……」


仁科「あ、ごめん!えっと、何が言いたいかっていうと、えっと、その、あれ……?」

熱意は伝わったよ


俺「仁科さんはケーキ作るのが凄く好きって事か」


仁科「そう!!でも、同じくらい作ったケーキを食べてもらうのも好きなの!!」

だから、落ち着けって


俺「そ、そっか」


仁科「あっ……ごめんね。またやっちゃった」

家庭科部の部員が手伝わない原因って、コレもあるんじゃないか……?


仁科「あ、そうだ!クッキーはどう?どの位減った?追加で作らなくて大丈夫?」

あ~……クッキーは……全然減ってないんだよなぁ


俺「まだ誰も手を付けてないよ」


仁科「え⁉そうなの⁉」

まぁ、実際食べてみて分かったけど

仁科さんの作るケーキ、マジで美味すぎて俺のクッキーなんて比べるのも失礼なくらいだし

視界に入らないのは仕方ないよ、うん


俺「仁科さんのケーキの方が美味いからね」

仕方ないんだ

素人が作ったモンが一緒に置いてある方が間違ってるんだから


仁科「でも、全然食べてもらえないなんて……そんなのないよ!どうして誰も食べにこないの⁉」


俺「あ…食べに来た人はいたんだけど、俺が作ったって言ったら興味失ったみたいだよ?まぁ、仁科さんのケーキが目当てで来てるからね。それ以外はいらないよね」


仁科「そんな……君の作るクッキー美味しいのに!」

そう言ってくれるのは、正直嬉しいけど

コレは美味しいか美味しくないかの問題ではないよ


俺「ありがとう」


仁科「う~ん……なんでなんだろ……食べてみていい?」


俺「もちろん良いけど、仁科さんが作った方が美味しく作れるよ?」

皿にキレイに盛り付けた状態のままのクッキー

せめて見栄えよくって思ったんだけどな


仁科さんは俺の作ったクッキーを試食する

ばり…ぼり…ざく…さく…


仁科「…………コレ、私より美味しいかも」

とんでもないお世辞が出てきたな⁉


俺「それはないって!お世辞にしても言い過ぎだよ」

まったくさ、気ぃ遣い過ぎだって


仁科「私はね、ことお菓子に関しては嘘吐かないよ?これは本気で言ってるの……クッキーをこんなに完璧に作るなんて……悔しいけど、私じゃ真似しか出来ない、超えられない」

大げさだなぁ……

そんな訳ないじゃん


俺「お世辞だって度が過ぎると嫌味になるんだけど」

まったく……


仁科「君……ほんと何者なの……?私を唸らせるお菓子を作れる人がこんな近くにいたなんて……」

なんか真剣に言ってるけど

バリボリとクッキー摘まみながらだと、締まらないよ?


仁科「ねぇ、本当に名前持ちと…いいえ、私達の誰とも付き合うつもりないの?」

あ、そっか

仁科さんには謝ってなかったな


俺「あの時はごめん。ついカッとなって」


仁科「いいよ。何かしら理由があるんでしょ?」

なんかあっさりしてるな


俺「いや、まぁ、そうなんだけど……」


仁科「別に何とも思ってないから、謝らなくてもよかったのに」

何とも思って、ない?


俺「でも、あの時」


仁科「驚いたけど、それだけだよ?君のお菓子作りの腕を知ってるからね。あんだけ美味しいお菓子作れる人に悪い人はいないよ!」

なんだその理論……


俺「そっか……実はさ、あの時は名前持ちネームド俺たちmobは生きる世界は別だって思ってた」


仁科「そんな風に思ってたんだ?」


俺「うん。でも、今は少しだけ……変わろうって思ったんだ。変に色眼鏡で見ないようにしようって、そう思ってる」


仁科「そっか。なら、私はどう見えてる?」

どうって


俺「プロのパティシエ、かな」


仁科「そう見えてるんだ。なら言っておかないとね…まだ私はプロでもないし君と同じ学生だよ?お菓子作りが好きな女子でしかないよ?だから……そんな一面しか見ないなんて、勿体ないことしないでね?」

一面しか見ない……勿体ない、か


俺「そっか……」

まだ俺は偏見があったのか


仁科「まぁ、私は確かに未来の一流パティシエなのは間違いないからね。でもそれだけじゃない、お菓子作ってなくても私は私だから……これからは、他の一面魅力も見てね」


俺「う、うん……」

先入観とか偏見とか無く見れるようになるだろうか……


仁科「ふふ、これからはお菓子関係無く絡みに行くからね?覚悟しててね!」

うげ……


仁科「さてと!お昼休みは残り20分くらいに一気に来るから、用意始めるよ!」

捲る袖もないのに腕捲りの動きをする

エア腕捲り……


俺「了解。指示頂戴、頑張るよ!」

気分的に後半戦か……


よし!やるぞ!!

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