第75話 南城さんと深夜の語らい

リビングで寛いでいると

風呂上りの妹と南城さんはぐったりして出てきた

どうやら長湯でのぼせたみたいだ

ま、俺には関係ないがな!


さて、そろそろ寝るか……


そういえば、南城さんは何処で寝るんだ?


俺「母さん、南城さんは何処で寝るの?」


母「妹の部屋で寝るそうよ。客間使ってもらおうと思ってたんだけど、あの子の部屋が良いって」

ふ~ん

まぁ、妹と一緒がいいなら

俺に被害は無さそうだし関係ないな


俺「ふーん。そんじゃ、おやすみ」


母「もう寝るの?」


俺「う~ん、まだ寝ないかなぁ。とりあえず横になってくる」


母「そう。おやすみ」


リビングを出て自室へ戻ると、ゲーム機が片付いていなかった……

まぁ、しかたないけどさ


ささっと片付けてベッドへ横になる

天井を無心にボケーっと見上げる


ああ、平和だ

去年までは、毎日いつもこうだったのにな……


ふわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~……

そろそろマジで寝るか

目を閉じて、深呼吸する

よし、ちゃんと眠れそうだ……

zzZ...zzZ...zzZ...



















う、ん……?

なんか息苦しい……

なんだコレ……体も動かない……

これが世に言う金縛りってやつかな


「……るよね?」

ん~?

誰かの声が聞こえる……

まさか、お化けか?

怖いなぁ

でも眠いし……このまま寝てればいなくなるんじゃないかなぁ

でもなぁ、お化けの姿気になるし…ちょっと薄目開けてみてみるか

こっそりと薄目を開けお化けの正体を確認した


俺「えっと…南城さん、何してるのかな?」

馬乗りになって俺を覗き込む南城さんがいた


南城「あれ?起きちゃった?」


俺「うん」


南城「そっかぁ、残念」

モソモソと俺の上から退いて床にペタンと座る


俺「起きなかったら、何するつもりだったの?」

まさか……現代版夜這い⁉


南城「何もしないよ⁉ただ寝顔見たくて」

寝顔って言っても……俺mobだから寝顔なんて描画されてないけど?


俺「ダウト!正直に言って?怒らないから」


南城「えっと……実はね、君から教えてほしい事があるの」

俺から?


俺「こんな時間に?」


南城「うん。明日は春香の番だし、今日中に聞いておきたくて……」

なんか大事なことなのかな?


俺「何が聞きたいの?」


南城「実はね、君のお母さんからね、小学校の頃の話聞いちゃったんだ……」

小学校の頃の話?


南城「君が名前持ちを避ける原因になった出来事があるって」

名前持ちを避ける原因、かぁ……


南城「遊園地で遭った山田くん……小学校の時クラスメイトだったんでしょ?」

ああ、あいつもそうだな


俺「うん。昔から暴力で何でもやりたい放題してたやつだったよ」

嫌な思い出だ

あんな奴だって名前持ちだから

思い通りになるなんて、理不尽だって思ってはいたなぁ


俺「それで?」

それだけじゃ名前持ち自体を避ける理由では、ない


南城「えっと、山田くんの事嫌いだよね?」


俺「そうだな」

当たり前だろ?

殺されそうになったんだし


南城「あれ?もっとこう、怒ってるのかと思った……」

怒ってもしかたないだろ?

だって相手は名前持ちなんだし


南城「え??じゃあ、なんで?山田くんのせいで名前持ちが嫌いになったんじゃないの?」

母さん……話すならもっと詳しく説明しといてよ……


俺「いや、山田のことは正直嫌いだけど……避ける理由は別だよ」


南城「そう、なんだ……もしかして私が原因だったりする?」


俺「それは違うよ。でも、真実なんて面白いモノじゃないよ……」

話したい事ではないし


南城「そっか、よかった、私じゃないんだ……」


俺「さ、もう遅いし寝ないと明日辛いよ?」


南城「待って!真実なんて面白いモノじゃないって、どういう事なの?」

はぁ

あんまり話したくないんだけど……

この様子だと、聞くまで眠らしてもらえなそうだなぁ


俺「……はぁ、聞いたら大人しく妹の部屋に戻る?」


南城「うん」

なら、しかたないけど話すか


俺「山田はさ、数人の名前無しと徒党を組んでいたんだ」


南城「この前みたいに?」


俺「いや、たった5人くらいだったよ」


南城「少ないね」


俺「ああ、だけど小学生でその人数を従えた名前持ちと渡り合うのは難しかったんだ」


南城「そう、なんだ?」

ピンと来てない……?


俺「それで、山田に一方的に暴力ふるわれてたやつがいたんだ」

大したケガもしてなかったけどね


南城「大丈夫だったの?」


俺「ああ、そいつも名前持ちだったからな」

佐藤……


南城「それなら大丈夫だね」


俺「だけど当時の俺はさ、馬鹿みたいな正義感でどうにかしようと……そんな愚かな事を考えたんだ」

ああ、ダメだ……

あの時の愚かな自分が……俺はどうしても許せないっ


南城「そんなこと」


俺「ああ、そんな事してもしなくても同じなんだよ……!」

無駄なことをしたんだ

あの時振り絞った勇気も優しさも全て無駄だったんだ

所詮俺は名前無しmobなんだから

mobが何かしてもしなくても、世界は何も変わらない


俺「佐藤は最初っから一人で助かり方法を持ってたんだ……なのに、俺は……」

くそっ……泣きたくなんてないのに……

涙が……溢れてくる……

あの時感じた無力感が未だに心を支配する……


俺「佐藤に手を差し伸べて、佐藤を救った気になって、実際はそんな必要なんてなくて、山田を孤独にして、山田の仲間のmobを消すことになった……俺が何もしなければ、こんなことにはならなかったのに……」

ああ、カッコ悪いなぁ……

誰にもこんな情けない所なんてみられたくなかったのに……

言葉にすればするほど、話せば話すほど……心が締め付けられる


南城「あのね……私は君が余計な事をしたなんて思えなかったよ?だって…名前持ちだってね、辛いって思うんだよ?苦しいって、助けてって、そう思う事もあるんだよ?佐藤くんって人がどんな人か知らないけど、辛かったと思うよ?」


俺「あいつは……俺を利用したんだ。俺を使って山田を排除した。自分にとって邪魔で目障りだったから……」

平然とそんな事を、人の人生を狂わせることやってのける

それが名前持ちネームドという存在なんだ

自然と視線が下がり俯く

南城さんと目を合わせられない……


南城「そっか。佐藤くんって人は、怖い人だったんだね。でも、名前持ち全員がそんな怖い人じゃないよ?」

そんな事は、わかってる……わかってるけど……

心に刻まれた、あの歪な笑顔が今もチラつくんだよ!

純粋さなんて皆無で、嗜虐的な笑顔がっ!!


南城「でね、私今の話し聞いて思ったの。やっぱり君のこと大好きって、心がね、痛くなるくらい大好きって、そう思ったよ」

今の話で、俺を好きになるような事何一つ無いだろ……

何言ってんだよ……


南城「君が人一倍優しい人だって知れたから、話し聞けて良かったよ。なんで頑なに名前持ちと距離を取ろうとするのかも知れた。君の事をより知ることができた」


そっと俺の頭を抱きしめて囁く

南城「話してくれて、ありがとうね。私が南城千秋わたしに誓って守るよ、もう二度とそんな怖い目に遭わせない。だから、南城千秋わたしを信じて」






すーっと南城さんの声が心に沁みる


ああ、そうか……

俺が名前持ちって存在を避けていたのは……内心、何でも思い通りになる怖い存在だって

そう思っていたからなんだ……


なら……もし本当に思い通りになるなら……

南城千秋という名前を持つ存在が俺を守るって言うなら……

守ってくれるって信じてみてもいかもしれない……


南城「それにね……君を守るのは私だけじゃないよ?春香だって、仁科さんだって、きっと四季島くんも、君を守ってくれるから。だから安心して、私たちと仲良くしてほしいな。同じ世界に生きてるんだから」

同じ世界……


俺「そんなすぐには、考えを変えるのは難しい、けど」


南城「ゆっくりでいいんだよ、待ってるから」


俺「うん……これからは、南城さん達を“名前持ち”って色眼鏡でできるだけ見ないようにしてみる……」


南城「うん!」




きっと俺は、生涯この夜の事を忘れることはできないだろう……

月灯りに照らされた南城千秋という少女の覚悟と決意に満ちたその表情を

本気の優しさと強さを感じるその眼差しを



この特別な夜を


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