第55話 生チョコの仕上げ

南城「あ、来た来た」


俺「あのさ、何であんな状況になってたの?」


南城「え?えーっと……半分は私のせいかな?」


俺「半分?何したの?」


南城「妹ちゃんが問題を解けたら、ご褒美あげようって、ね?」

あ~、それで堀北さんはご褒美なんて言ったのか


俺「で、なんで堀北さんがあんな恰好してたの?」


南城「だからご褒美だよ?妹ちゃんが着てほしいって」

あいつ……何考えてんだよ……


俺「そっか……じゃあ、堀北さんは完全に被害者ってことだな」

可愛、じゃないくて可哀そうに……


南城「う~ん……被害者ってわけじゃないんじゃないかな」


俺「え?それどういう」


堀北「お待たせ」


妹「続きやるよ~」


南城「よーし!やっちゃおう!」

被害者じゃないってどういう事⁉


妹「おー!」

おい!

聞ける雰囲気じゃなくなったじゃんか!

何が、おー!だよ⁉


南城「それで、これから何するの?」


俺「一口サイズに切り分けてココアパウダーをかけるだけだよ」


南城「また包丁……」


俺「心配だったらまた手伝うよ?」

よっぽど包丁苦手なんだな……


南城「え⁉えっと……じゃ、じゃあお願いしよっかな……へへへ 」


俺「うん」


冷蔵庫からそれぞれの作った生チョコを取り出す


俺「それじゃ、助手さんや。最後までしっかり頼むよ?」


妹「任せて!」

ほんとに大丈夫かな?


俺「えっと、堀北さん。妹のお願いきいてくれたんだよね?ありがとね」


堀北「い、いえ。いいのよ」

よかった

あんまり気を悪くはしてないみたいだ


俺「それじゃ、良ければまた頼もうかな」

妹の勉強また見てくれたら助かるな

俺は自分の勉強で一杯一杯だし


堀北「ま、また⁉」

あれ?

ダメだったかな

お菓子作りならいくらでも教えられるんだけど……


俺「ダメかな?」


堀北「だ、ダメじゃないけど……本気?」

あれ?

妹のやつ、実は滅茶苦茶バカなの⁉

いくら勉強教えても無駄なくらい……⁉


俺「そ、そんなにキツイ……?」

妹のやつ……毎日勉強頑張ってたのに……憐れな……


堀北「え⁉いえ、その一部はちょっとキツかったけど……」

一部はキツイのか……

妹のやつ

苦手な教科なんて無い!

って言ってたのはただの強がりだったのか……


俺「あのさ、どの辺がキツいのかな?」

数学の方程式とか公式?

現国それとも古文?

英語だとしたら書き問題?


堀北「ど、どの辺って⁉……それは、その……」

言い淀むレベルで悪いのか⁉

まさか、気を使って一部って言ってくれただけなんじゃ……

ホントは全滅レベルで勉強できないのか⁉


俺「教えてくれないか?」

妹に口止めされてるのかな……

でも、兄として妹の将来を案じて聞き出すんだ

悪いことじゃないはずだ!


堀北「え、っと……その……り」

……り?

理科かな……?


堀北「お…り……よ」

お?り?

折?織?オリ?

なんだ?

聞き間違えたかな


俺「ごめん、良く聞こえなかったからもう一回言ってくれないかな?」


堀北「お尻よっ、ちょっとお尻がキツかったのよ。しょうがないじゃない……」

……?

お知り?


妹「セクハラ……」


南城「春香、大胆……」

何が⁉


俺「え?それ何の教科?」


堀北「え……?」


俺「え……?」


堀北「えっと……今、何の話してたかしら?」


俺「妹の勉強だよね?」


堀北「…………そうよ」

何で目を逸らしたの⁉


俺「それで、妹は」


堀北「問題ないわ」


俺「でもさっきはキツイって」


堀北「……っ!!その、私がちゃんと教えるから問題ないわ」

ホッ……

なんだ、堀北さんキツイとか言ってたけど

ちゃんと教えてくれるんだ


俺「よかった。俺に協力できることがあれば何でも言ってね。兄として協力は惜しまないから」


堀北「ええ、任せて」


妹「私は一人でも大丈夫だもん……」


俺「こら!そんな事言うなよ、折角教えてくれるっていうんだから!」


妹「……はーい」


俺「それじゃ、切り分けするか」


南城「いやぁ、まさか君があんなグイグイ行くとは思わなかったからビックリしちゃった」


俺「妹のやつが、毎日勉強頑張ってるの見てるからな。力になってやりたいんだよ」


南城「うんうん。そうだよね~、大変だもんね~」

ん?なんで勉強を強調したんだ?


堀北「千秋?覚えてなさいよ?」


南城「ふふーん。春香が何の話してたか、言っちゃうよ?いいの?」


堀北「うっ……」

なんか南城さんが勝ち誇った顔してる?

どうしたんだ?


南城「ふふ、勝った」


俺「それはそうと、始めるよ?」

バットからシートごと生チョコを引き抜く

シートはそのまま俎板代わりに使う

こうすれば洗い物が減るんだよね

俎板って洗うの大変なんだよね……溝にチョコが入っちゃうし



南城さんの背後に周りホールドする

南城「はひ!」

ひ?


俺「ほら落ち着いて、しっかり握って」


南城「しっかり握る」


俺「それで、刃の先の方からゆっくり」


南城「ゆっくり」


俺「そう。それでそのまま真っ直ぐ根元まで動かして」

確か、この根元の部分ってっていうんだよなぁ

でも、普通伝わらないし根元って言った方が分かりやすいんだよなぁ


南城「根元まで」


俺「そうそう。そしたら、くっ付いて来ないように押さえて抜く」


南城「抜く……」

先ずは一列目っと


俺「うん、それを繰り返していくよ」


南城「繰り返しす……」

一度離れて動きを観察する

うん

少しぎこちないけど大丈夫そうだな


南城「ふぅ~~~……できたぁ……」

縦に切込みの入った状態になったら


俺「次は90°動かしてもう一度同じ様に切るよ」

シートを動かして縦縞から横縞にする


南城「う、うん……」

もう補助無しで出来る様になったみたいだし、さすが名前持ちって感じだな

妹は『出来ない!』って言って結局最後まで補助付きでやったしなぁ


妹「兄さん」


俺「なんだ?」


妹「千秋先輩に何教えてんの?」

何って切り方だけど……?

見て分かるだろ?


俺「何って?」


妹「え、だって……しっかり握って、ゆっくり、根元まで、抜くって……」


俺「なんかおかしかったか?」


妹「おかしいかなんて知らないけど……、春香先輩が気になって仕方ないって」


堀北「ちょっと⁉私のせいにしないで⁉気になってたのは妹ちゃんもでしょ⁉」


俺「ん?だから、何だ?何が気になったんだ?」


南城「できたよ!」


俺「お疲れ様、後はココアパウダーをまぶせば完成だよ?」


南城「うん!……春香と妹ちゃん、どうかしたの?」


俺「さぁ、何か南城さんの方が気になるって」


南城「大丈夫だよ!ちゃんとできたよ!」

どれどれ~

あ~、ちょっと力入れすぎたみたいだなぁ

シートが切れちゃってるな

このままやったら下にココアパウダーが落ちるな


俺「南城さん、ちょっといい?」


南城「なに?」


俺「ちょっと、力入れすぎかな。ほら刃が当たって切れちゃってる」


南城「あっ、ほんとだ……」

そんなに落ち込むことじゃないんだけど、失敗だと思ったのかな


俺「抜く時に刃を引いちゃったんだと思うんだ。ちゃんと教えてあげらんなくてゴメンね」


南城「どうしよう」


俺「大丈夫だよ、バットに移して塗せばいいから」


南城「そっか。よかった!次は気を付けるね!……力を入れすぎないで、刃を当てないように抜く!」






妹「……春香先輩、千秋先輩っていつもあんな感じなんですか?」


堀北「いいえ、いつもはあんな言い方しないわよ」


妹「ってことは」


堀北「確信犯、ね」


妹「もう、ほんと……先輩たちって」


堀北「私は違うわよ⁉」


妹「ちょっとキツかった発言の先輩が?」


堀北「あ、あれは仕方ないじゃない⁉妹ちゃんだって、勘違いしてたでしょ?」


妹「いえ、私は勉強の話だって分かってましたよ?兄さんがそんな質問するわけないって知ってますから」


堀北「うぐ……」


妹「兄さんが襲われないか心配です」


堀北「流石にそんな事しないわよ⁉」




俺「ココアパウダー塗して仕上げるぞ~」


妹「はーい。あ、冷蔵庫だよね?取ってくるね」


俺「あ、ちょっと待て!」

今冷蔵庫の中漁られたら見つかっちまう……!!


妹「任せて!デキる助手が持って行くから!ん?見覚えのないモノが入ってる!」

あ~、くそ……見つかったか……

後で驚かせようと思ったのに……


妹「これ……ムース?」


俺「見つかったか……」


妹「コレ……」

冷蔵庫から取り出したカップに入ったムース

その模様を見て、三人は絶句した


何故だ⁉


俺「いやぁ、見つかっちゃったかぁ」


妹「……コレ誰にあげるの?」


俺「誰にって決まってんだろ?」

妹を見て応える


妹「え?もしかして……私?」


俺「ああ、そうだ……」

面と向かって言うと恥ずかしいな

しかもクラスメイトの目の前って……気まずっ!!


妹「え?二人のどっちかじゃないの⁉だってコレ……」


俺「お前(そのムース)好きだろ……?」


妹「す、すすす、好きって……その私たち兄妹だし……」


俺「だから何だ?」

今更何言ってんだよ?


妹「だから何だって……だって兄妹でそんな……」


南城「もしかして、シスコン?」


はいーーー⁉

俺がシスコン⁉

何で⁉

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