第6話(分割修正) 彼を助ける Side-堀北 春香 

彼の様子がおかしい

最初にそう気がついたのは千秋だった


千秋「なんかね、彼の様子がおかしい気がするんだ~」


千秋が気がついたのは些細な変化だった

でも、決して見逃せないサインだと思ったわ


たまにカバンの中を確認してはニヤけてるし

違うクラスの子が入ってくる度にそっちを気にしてる


これは何かある!

でも、今聞いても教えてくれないかもしれないし……

放課後、彼にそれとなく聞いてみることにしましょう

ふふふ

作戦は簡単

千秋がずば抜けた運動神経で彼を捕まえる

私がに質問する

これで、大体の事は分かるはずよ




でも、予想外の事が起きたわ

放課後、彼は用事があるって言ってカバンも持たずに教室から飛び出して行ってしまった

千秋が追いかけたからすぐに捕まると思ったんだけど……


まさかの事態よ

途中で男子トイレを通られて見失ってしまったらしいわ

教室には彼のカバンが残されてるし

絶対に戻ってくるからそんなに落ち込まなくても大丈夫よ


ほんと、彼の事が大好きなのね


二人で彼の帰りを待つ

彼のいない今だからこそ、新しく見つけた彼の素敵な所について話すことができたわ

やっぱり千秋は凄い

私が知らない彼の一面を幾つも教えてくれたわ


少し白熱しすぎてしまって、風に当たるために窓を開けたの


強い風が一回教室を駆け巡ったその時


バサバサバサ

ってカバンから何枚かの紙が飛び出してきたの

カバンのチャック開けっぱなしで行くなんて不用心過ぎよね


殆どは今日授業で配られたプリントだったけど……

一つだけ違う紙が混じっていた


丸い文字で書かれた想いを伝える手紙


それを見つけた私たちは動揺した

だって、彼がこんなモノを貰っていたなんて知らなかったから

いつ貰ったものなんだろう……

授業中も休み時間も彼から目を離してない私たちが知らない間


まさか、下駄箱?

あの時、先生に抗議しに行くから二人とも職員室へ急いで向かってしまった……!


もし、この手紙が彼の言うだったとしたら

彼は今頃この手紙の送り主と話してるはず……

止めたい!!

でもっ……

千秋の様子を見て、思い直したわ

千秋ったら笑ってるんだもん


私「ね、良いの?」


千秋「春香は止めたい?」


私「……少し、心配なの」

彼が取られちゃうんじゃないかって


千秋「うん。私も心配……でも、邪魔はしちゃいけないと思うし。何より彼が良い人だって私たち以外の人が気がついてたのが嬉しいの!」


ああ、そっか

千秋は、彼の良さを自慢したかったんだ

私が好きになった人はとっても素敵な人なんだって


私「ふふ、そうね。私たちが好きになった人だもんね」


千秋「うん!」


落ち着いてからもう一度手紙を見る

私達の同士が何て人なのか気になったの

だって、ライバルが増えるかもしれないし


差出人は……女子生徒D……?

どっかで見た気がする……どこだろ……


私「千秋、女子生徒Dってどんな子だっけ?」


千秋「えーっと、四季島くんのファンクラブ?にいた子じゃなかったっけ?」

あ~、あの子かな……

四季島くんのファンクラブで会員番号一桁だってうるさかった……

え、ちょっと待って……⁉


私「その子って四季島くん以外を好きになるような子だっけ?」


千秋「う~ん……それは無いよ。だってあの子、四季島くんに命かけてるって言ってたもん」

やっぱり……

じゃあ、この手紙は偽物フェイク

でも、わざわざそんな子の名前を借りるなんてあり得る?

何か、おかしい……何?

この違和感……


千秋「春香?どうしたの?」


私「この手紙の差出人が女子生徒Dなのよ。おかしいと思わない?」


千秋「心変わりしたんじゃない?」


私「でも、手紙には」


入学式に一目惚れして、ずっと片思いしてました

勇気を出してこの手紙を出します

放課後、屋上で待ってます


って書いてある

彼女が入学してからずっと好きだったのは四季島くんのはず


やっぱりコレはおかしいわ!


そんな時廊下の方から視線を感じた

見てみると、女子生徒Dさんだがコッチを見ていた


私が気がついたのを見て彼女は慌てて逃げだした⁉

何か、知ってるかもしれないわね!


私「千秋!あの子!追いかけて!」

言い切る前に既に千秋は走り出していた


私も追いかけて廊下へ出ると、既に千秋が女子生徒Dさんを捕獲していた

さすが運動神経抜群な活発系ヒロイン


私「ねぇ、何で逃げたの?」


D「べ、別に」


私「この手紙、アナタが書いたの?」


D「なんでソレを⁉」


私「そう、アナタの直筆なの……」


D「ち、ちがっ」


千秋「春香?どうしたの?怖い顔してるよ?」


私「千秋、彼女が女子生徒Dよ。そして、何故か一人で此処にいるの」


千秋「そうなんだ!ねぇ、彼は?今ドコにいるの?」

Dさんの瞳を躊躇いなく覗き込む


D「……知らないわ」

さっと視線を逸らす

そんな事をしたら、知っているって言ってるようなモノよ

イラつかせてくれるわね

もし、手違いで彼に渡しただけなら……嘘をつく意味がないじゃない


私「嘘ね。本当のこと言いなさい!」


D「……っ⁉」


千秋「春香、落ち着いて!」

肩を掴まれてハッとする


私「ごめんなさい。ちょっと、取り乱したわ」


D「ふっ、ふふふ……そんなにあのmobが心配?」


私「ええ、心配よ。悪い?」

当たり前じゃない


D「……うっざ」


千秋「ねぇ、ホントに彼の場所知らないの?」


D「名前持ちのアンタたちには知ってても教えないわよ!」


私「そう、なら残念だけど……アナタとはもうと話す事はないわね」


D「ええ、私も一切話すつもりはないわ!」

この子きっと勘違いをしてるわ

私たちが単純に話しかけないだけだと思ってる……


千秋「そっか。じゃ、バイバイ」

千秋は分かってるのね

名前持ち私たちが拒絶した人の運命を……


きっと彼女はこの先自然に消えていく

次第に存在が希薄になって消えていく

もう、愛しの四季島くんとも関わる事もできなくなるのに……

彼女はこの退を選んでしまったのね



私「千秋、一先ず屋上に行ってみましょ」


千秋「うん」

なんだか胸騒ぎがするわ


千秋「なんかヤな予感がする」

千秋もなのね


私「そうね。急ぎましょ」



屋上へ着いた私たちが見たのは

瀕死の彼と不良が5人

やっぱり……最悪の事態が起きてたみたいね


不良たちが動揺してる

ま、それもそうよね

名前持ちが二人も現れたら驚きもするわ


千秋「ねぇ?君たち何してるの?」

千秋が笑顔で尋ねる

でも、これはいつもの笑顔じゃない……

間違いなく……キレてるわ

まぁ、かく言う私も相当頭にきてるけど


不良5「あ……いや…」


私「そこの彼に何してるのか聞いてるのよ」


不良3「ちょっと遊んでやっt」


不良4「おい!黙ってろ!オレたちは、頼まれただけだ!」


千秋「へ~、誰に頼まれてこんなコトしてるのかなぁ?」


私「白状しないと……」

千秋が暴れだしそうなのよね


不良2「ぼ、ボスがやれって」

ボス?


不良1「お、おい!」


千秋「ボス?名前持ちかな?」


不良4「いや、ボスはボスだ。名前持ちじゃない。俺達は命令されただけなんだ!」

ボスの命令、ね


私「そう。でも、名前の無いアナタたちが彼を襲うのはおかしいよね?」

mobがmobをリンチするなんて無駄なイベントは普通ならあり得ない


不良2「ボスも、誰かに頼まれたって……だから!」


千秋「そっか!教えてくれてありがとね!」

千秋の言葉で油断する不良たち


でも……千秋は絶対に許さない

だって、固く握った拳は緩めてないから


私「彼らはもう用済みね」

もちろん私も許すつもりは無いわよ

当然でしょ?


千秋「そーだね!」

イキイキと今度こそ満面の笑みで笑いかける


不良達「!?」


千秋「私たちを敵に回した事を後悔しなよ」


私「お元気で。生きていられ存在してれば、ですけどね」


不良5「そんな⁉ちゃんと話しただろ!」


私「私達を無駄に怒らせた。そんなヒトはこの世界に必要ありませんから」


不良2「こ、この!騙しやがったな!」


不良3「囲め!こっちは5人いる!」


不良1「よ、よし!いくら名前持ちでも相手は女子二人!こっちの方が有利だ!」


不良4「そうだな!やっちまおう!」


不良5「やれやれ、仕方ないですね」


私と千秋を取り囲む不良たち

でも、彼らは勘違いしてる

確かに私たちは二人だけよ

でも、名前持ちなのよ?

彼らが幾ら喧嘩が強くても、名前持ちである私たちを傷つける事はできないわ

それが世界の理だから


大きく振りかぶって殴り掛かってくる不良たちに千秋が素早くカウンターを入れる

千秋は運動神経抜群のヒロイン

どんな運動部の助っ人もできるほどの高スペックの持ち主

そんな彼女にかかれば一切鍛錬を積んでない不良のパンチなんて何の脅威にもならないわ

まばたき一回程度の時間ですぐさま3人を行動不能へ追い込む


残った二人は私を狙ってたけど、私は殴る力は無くても避けるくらいはできるのよ!

避けていれば千秋がすぐに助けてくれる

瞬時に2人をノックアウトする


名前持ちのヒロインを舐めたのが敗因よ


全員がノックアウトされ、立っているのは私と千秋だけになった

二人で左右から彼を担いで保健室へ向かう

大丈夫、まだ息はある

少ししたら、彼ら不良たちは消滅する

私たちの意中の人を襲った罪は重い

出番の終わった端役は即退場してもらうわ


そしたら彼が負ったケガも無かった事になる

彼はケガ一つない状態へ戻る

そう分かっていても……やぱり……

心配だし、不安だわ








保健室へ彼を運んで事情を少し説明して、二人で下校する


今回のことは……私たちのせいよね……

明日からどんな顔して話そう……

私たちが助けに行くのが遅れたから、危うく彼は死ぬところだった……

彼が死ぬ?

考えただけで怖くなる……

名前無しmobの命は儚い、儚過ぎるわ……


そもそも私たちが彼に関わったから、こんな事には……


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