旅の道連れ、その名はしろ
今日は陽気がいいので、日向ぼっこをしながら、膝の猫を撫でている。
嘘。現実逃避もそろそろ止めとこう。
膝の上で丸まっている生き物を撫でているのは本当だが、それは猫という生き物じゃない。
第一、猫には翼もなければ飛びもしない。
で、この生物は翼がある上に飛んでくる。
正直、異世界転移説がもりもりと確率を上げてきた。でも僕は諦めない。
なにせ、こんな秘境の地。未発見生物くらい居てもいいじゃないか。可愛いし。
見た目は思いっきし、ドラゴンの子供。白いからには、
10人中で9人くらいは「これなにに見える?」と訊ねたら「ドラゴン」と即答するだろう。
でも僕は諦めない。残りのひとりには僕がなろう。
だって、ここでそれを認めてしまうと、家に帰れる確率が天文学的に低くなる。
まさか、隣町に行くくらいの気軽さで、異世界転移とかは無理だよね。
だったら、ここで諦める謂れはない。
そう、すべてを置いておき、森を出て、山を降りられたら考えよう!
棚上げともいうけれど、気にしない。ニュースに出る偉い政治家とかでも、よく使う手だし。
決定したからには、即行動。
僕は、仔竜に別れを告げ、意気揚々と歩き出した。
のだが――
仔竜が如何にも当然とばかりの風体で、頭の上に乗っかっているのはどういうわけか。
僕は仔竜を地面に降ろし、頭を撫でて笑顔で別れを告げた。
上等な毛並みは手触りも抜群。名残惜しいもふもふ感だけど、手がなかなか離れようとはしないけど、それでも今は別れのとき。
我侭な手を強引に引っぺがし、手を振ってさよならする。
でも、振り返った瞬間に羽ばたき音。そして、頭頂部に重量感。
仔竜はわかっていないようで、何度説明しても同じことを繰り返す。
元より、言葉が通じるわけないんだから、仕方ないけどね。
だいたい、繰り返すこと10セット目で諦めた。
もういいから僕の頭を巣として提供しよう。
謎生物だけど、孤独よりはマシかもしれない。
旅は道連れとも言うし。道連れって、死なばもろとも!みたいなほうじゃないからね、念のため。
「そうなると、名前付けたいところだよねー」
「キュイ?」
小首を傾げるさまが可愛い。話しかけると首を捻るところは犬みたい。
あくまでドラゴンではないけど。絶対に違うけど。
見た目だけはそれっぽいから、ドラゴンに関連付けて付けたいよね。
ドラちゃん? なにか、国民的猫型ロボが浮かんだ。
ゴンちゃん? なんか、やだ。語感が可愛いくない。
だったら和名かな。
竜ちゃん。そんなお笑い芸人がいた気がする。
だったら、色にしよう。
白ちゃん。あ、なにかいいかも。
僕の名前が蒼だし、色つなぎで。
でも、漢字はなんかねー。発音としては同じだけど、心の中ではひらがな読みにしよう。
しろちゃん――いや、ちゃんを抜いて『しろ』かな。
若干、犬っぽい気もするけれど、それがまたいいかもしれない。
「きみの名前は『しろ』に決定したよ。わかる? しろ。それがきみの名前ね。しろ、ね。しろ」
指差して、名前を連呼して教え込む。
「で、僕は蒼ね。難しい漢字のほうの蒼。って言ってもわかんないか。ははっ。蒼ね、蒼」
今度は自分を指差して繰り返す。
代わる代わる指差して、それぞれの名前を教えていると、次第に『しろ』という単語に反応するようになった。
この仔、すごく頭がいい。
「よーし、しろ! 行くよー!」
「キュイ!」
しろは元気よく、頭に飛び乗ってきた。
「そうそう。そういや、しろのステータスも見ておこうかなー」
実は僕は、人間以外のステータスを見ることもできる。
見れることは見れるけど、人間相手に比べると結構大変で、やると頭も痛くなる。そんなに酷くはないけどね。
ついでに言うと、無機物も見れたりする。でも、これは頭が割れそうになるので、二度とやるつもりはない。意味もないし。
我が家は両親が動物好きで、なにかしらのペットがいたわけだが、僕は歴代のペットすべてのステータスを見ている。
これはもはや、癖というか習慣だね。深く知れば、もっとよりよく仲良くなれる、みたいな。
ちなみに、今現在、うちで飼ってる犬のポメニくん(ポメラニアン3才♂)のステータスはこんな感じ。
―――――――――――――――
レベル2
体力 16
魔力 0
筋力 8 敏捷 24
知性 5 器用 4
―――――――――――――――
ま、小型の室内犬なので。
「さてさて、しろはどんなかなー?」
わくわくしながら、僕はしろを抱き抱えて、ステータスを見た。
「あ痛っ」
やっぱり頭痛はするんだね。外傷無敵の体力でも、頭痛は別物扱いらしい。
―――――――――――――――
レベル5
体力 256
魔力 0
筋力 132 敏捷 85
知性 34 器用 42
―――――――――――――――
「…………」
あのー。
レベル5でこの数値って、ありえなくないですか? ってか、筋力と敏捷、すでに僕以上なんですけど。
しろ、ドラゴン説。ただ今、急上昇中なり。
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