いきなり山奥なんですけど、ここどこです?

 気づいたときには溺死寸前でした。


「がばげへっ!」


 肺から一気に空気がなくなる代わり、大量の水が胃の中に飛び込んでくる。

 状況はわからないが、死にそうなのは理解できる。どうやら僕は水の中にいて、溺れているらしい。


 僕が慌てて手足をばたばたさせてもがくと、不意に手になにかが触れた。細いロープのようなもの。

 もうなにがなんだかわからずに――助かりたい一心にそれを掴み、決死の思いで手繰り寄せる。


 ややあって、水面から顔が出た。新鮮な酸素が、今しばしの火事場の馬鹿力を与えてくれる。

 なおもロープを手繰り寄せ、僕は手近な地面に這い上がった。


「べへー! げえー」


 胃から水が逆流する。

 出てきた水の中に、小魚までいるのはなんの冗談か。


 吐き出せるだけ吐き出し、僕は力尽きて仰向けに転がった。水で冷えた身体に、地面と草の仄かな温かみが心地いい。


 どれだけ放心していたかはわからないが、ようやく周囲の状況を確認しようという余裕が出てきた。


 帰宅路に、河や用水路はなかった。では――


 と考えるまでもなく、そこは緑いっぱいの大自然の中だった。正確には森の木々に囲まれた泉。僕は目の前のこの泉にダイブして溺れたらしい。

 ロープのようなものは水面に張り出した樹木の蔓だった。これがなければ、溺死確定だったろう。


 ま、それはさて置くとして――


「ここ、どこ?」


 誰も答えてくれる者はいない。それもそのはず、周囲は見渡す限りの木々と山に囲まれた大自然で、人っ子一人いやしない。


 ってか、どうして僕はこんなとこにいるの?


 瞬間移動、神隠し、宇宙人拉致、異世界転移、思いつく可能性を挙げてはみても、肝心の正解を教えてくれる人がいない。


 枝を見つけてきて、泉に浮かんでいたバッグを回収する。


 頼みの綱のスマホは、あえなく水没でお亡くなりになっていた。電源すら入りはしない。

 他の携帯ゲーム機やら、電子機器系はすべて水死。なにもかもが無残な屍を晒していた。

 ただ、今日の授業の体育で使ったジャージだけは無事だった。汗濡れの臭い漏れ防止に、ポリ製の袋に包んでいたのが功を奏した。


 僕は、ずぶ濡れの制服を脱ぐ。当然のごとく、パンツまでもがびっちゃびちゃ。肌に貼り付いて気持ち悪いことこの上ない。


 大自然の解放感溢れるままに、下着含めて一気に脱ぎ去りマッパとなり、そそくさとジャージに着替える。ノーパンは、なんだかすーすーして心許ないが、この際は仕方ない。着替えがあっただけでもよしとしよう。


「さて、なにが起こったのか?」


 自問する。


「わかりません」


 自答する。

 はい、しゅーりょー。


 現実逃避はさて置き、これからどうすべきか。


 移動するなら早いほうがいい。今はまだ夕方だけど、このままではいずれ日も落ちる。夜にこんな山奥の森の中なんて、冗談じゃない。


 救助を待つならじっとしておくべきだろう。幸い、ここには溺れるほどの水はある。あくまで救助がくればの限定だけど。

 連絡手段もないからには、こちらの方法は不味いかな。


 それにしても、溺れる前に偶然視たステータス――あれが妙に気になる。


「確認しとこ」


 ―――――――――――――――

 レベル13


 体力 163000

 魔力 0


 筋力 65  敏捷 58

 知性 73  器用 52

 ―――――――――――――――


 魔力は0。やっぱりあれは見間違いだったのか……それとも体力のように、一定時間休んだら回復するものなのだろうか。

 なにせ、魔力なんてものを見たのは初めて。どういうものかも想像がつかない。


 って……あれ?


 もう一度ステータスを視てみる。

 体力の数値が、いちじゅうひゃくせん……10万? 163000!?


「なにこれ!」


 たった数十分で、体力1000倍になってるんだけど。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る