僕(あお)と仔竜(しろ)の彷徨記

まはぷる

ちょっとステータスが視えるだけの普通の中学生ですけど

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 レベル12


 体力 155

 魔力 0


 筋力 61  敏捷 54

 知性 68  器用 49

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 これが僕の能力値ステータス


 僕の名前は、斑鳩蒼いかるがあお。ただ今、中学2年生の13才。誕生日はまだ迎えていない。


 これといった特技もないけれど、僕にはちょっとした秘密がある。それがこの、能力値を視覚化して視ることだ。目の前に透明なウィンドウでもあるように、視界の景色と重なって、こういったステータスが視えるわけ。


 まあ、秘密といっても、僕個人にとっては日常で、特筆すべきことでもなかったんだけど。


 なにせ、生まれたときから――かはさすがに覚えていないが、少なくとも物心ついたときには視えていたと思う。


 幼い頃、親に聞いてみたことはあったのだが、困ったように微笑んで、頭を撫でられたことは覚えている。友達に聞いたときは、なぜだか嘘吐き呼ばわりされて、喧嘩になった。


 どうやら、他の人には視えていないらしい――そのことに、ようやく気づいたのが小学校に上がった頃。その頃になると、懸命に訴える僕を見かねてか、両親にも本気で心配されて、病院にも連れて行かれた。


 病院の先生は、多感な年代やゲーム世代における妄想癖――ま、早めの中二病として処理されて、笑って帰された。


 両親に心配をかけた以上に、両親が恥をかかされたことに僕はショックを受け、それ以降、この話題を口にすることは避けている。


 だけど、本当に視えてしまうものは仕方ない。


 今もまた、学校からの帰宅途中、僕はステータスを見ていた。

 ただし、今度は自分のではなく、他人のものだ。僕は他人のステータスも視えてしまうから。


 帰宅路の路肩で、ふたりの高校生くらいの男の人が、言い争いをしている。片や私服のガラが悪そうな人で、片や部活帰りの大人しそうな人。


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 レベル17


 体力 203

 魔力 0


 筋力 92  敏捷 80

 知性 51  器用 40

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 レベル16


 体力 280

 魔力 0


 筋力 114 敏捷 99

 知性 83  器用 55

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 うん。やっぱり身体能力としてはスポーツマンが高いね。そりゃあ、毎日、汗水流して鍛えている人と、そうでない人とでは、差は出るよね。

 でも、威勢で押されている感は否めない。他の人たちも、僕のようにステータスが視れたらいいのに。


 まあ、中学校生になったばかりの頃は、本格的に中二病を発病してしまい、「これぞ選ばれし者の能力か!」なんて痛いことを思い始め、自分のステータスを伸ばすためにいろいろやったんだけど。


 寝る前の腕立て腹筋、難しい歴史書を読破、なんてことを3ヶ月も続けてみて、上がった数値は筋力がわずか1、知性が2だけに留まったので、心が折れた。


 数値のアップは、レベルアップが一番手っ取り早いみたい。このレベルアップ。どんな仕組みか、いまだによくわからない。

 経験値なのは確かだと思うのだけれど、もちろん敵を倒したりなんてしていない。


 レベルアップはいつも唐突で、気づいたときには上がっている感じ。ナレーションがあったりファンファーレでも鳴ってくれるとわかりやすいけど、そんな便利機能はなかった。

 一度、ちょうどレベルアップした場面に出くわしたのだけれど、そのときは洗面所で顔を洗っているときだった。なんの経験値やねん、と思わず鏡に映る自分に突っ込んだものだ。


 ちなみに、これまで視た傾向から、年齢が高いとレベルも高いみたい。ただ、レベルも能力値も下がることもあるようだから、一概には言えないけど。

 そして、能力値はレベルに依存しないようで、必ずしも高レベルだから能力が高いわけでもない。さっきのふたりみたいにね。レベルごとの成長値みたいなものもあるのかな。


 だいたい、僕の場合は、レベルが1上がると、数値的には5ぐらい上がる感じ。体感的には、あんまり変わりない。

 ちょっと体の調子がいいかなー程度かな。


 口に出したら呆れられるし、日常生活でたいした役に立つわけでもない。病の熱も冷めたことだし、今は他人と違うという、ささやかな優越感のみを抱いて、普通に生活している。


 そういえば、今日学校では、来年に控える受験、高校進学へ向けての軽い面談があった。将来の仕事としては、この能力は役立つかもしれない。たとえばそう、医療関係とか。

 でも、実家の跡を継いで医者を目指す、学年1の秀才の斉藤くんの知性は98もあった。僕の1.5倍。

 実力テスト中の中の僕では、医療関係はとても無理そう。


 なんだか未来が現実味を帯びて、憂鬱になってきた。それでなくとも、来年には受験とか、ため息が出そう。


「ああ、学校とか就職とかしがらみのない、自由な世界に行きたいよ」


 僕は呟いていた。


「……なんてね。さっさと帰ろ」


 そのとき、僕が何気なく視た、自分のステータス――


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 レベル13


 体力 163

 魔力 1


 筋力 65  敏捷 58

 知性 73  器用 52

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 どのタイミングかはわからないけれど、レベルアップしていた。


 そんなことは今までもあったから、別に気にするまでもないけど……

 ただ一点、気になったのは、魔力の項目。0ではなく、1ある。

 これまで、多くの人のステータスを視てきたけど、魔力に数値のある人は誰もいなかった。


 僕の見ている前で、その1の数字が、0に変わった。

 数値が変化したというよりは、減少――消費されたかのような。


「あれ?」


 直後、僕の視界が光で真っ白に塗り潰された。

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