第3話 騎士子とプリ子、働き口を見つける
魔王が討伐されて早数週間。
既に、大陸全土に渡って魔物の数が激減したという報告が上がっており、世界には平和が訪れていた。
そんな平穏な世界をより発展させるため、人々は活気に満ちている。
ただし、
「平和っていいね………………はぁ~」
王都アークステラ。
商人たちが忙しそうに走り回るメイン通りを、とぼとぼと肩を落として歩く騎士子。そのお腹がくぅ、と寂しそうに鳴いた。
隣のプリ子が声をかける。
「騎士子ちゃん、元気だして? ほら、騎士子ちゃんの好きなアイス売ってるよ。わたし、買ってこよっかな?」
「いいよプリ子。もうお金ないから……」
「え? あっ……」
二人で使っている共通の財布――革製のコイン袋を開いたプリ子は、申し訳なさそうに苦笑する。
「ご、ごめんね騎士子ちゃん。私が勝手にプレゼントでたくさんお金使っちゃったせいで……」
「いいよいいよ。プリ子の気持ちが嬉しかったから。けど……さすがにこれだけじゃね」
袋を逆さまにする騎士子。
中から騎士子の手に落ちてきたのは、わずかに銅貨一枚のみ。
「この銅貨は、村のみんながあたしたちを見送るときにくれた餞別。それだけは餓死寸前まで使わないって決めたもんね」
「うん……そうだったね騎士子ちゃん。でも、いよいよ本格的に金欠だね」
「銅貨一枚じゃ、せいぜいアイス一個食べたらおしまいだしね……」
またくぅ、と騎士子のお腹が鳴る。同時に口からはため息が漏れた。
銅貨一枚の価値はパン一つやミルク一本程度。その十枚分の価値がある銀貨一枚になるとかなり贅沢な食事が取れる。さらに銀貨数十枚分の価値がある金貨一枚になれば、毎日贅沢な食事をしても一月は余裕があるくらいだ。
そんな金欠状態の二人がやってきたのは、街の中央にある通称『
ここの大看板には、モンスター退治から傭兵・護衛の依頼、大工仕事、魔術試験などなど、街中――ひいては外の国からも多くの依頼が舞い込むほど。集まった冒険者のスカウトをする各ギルド員や王宮兵士さえおり、いつも大勢で賑わっていた人気スポットだ。
だが、それもかつての賑わいである。
「お、おーい! 誰か依頼はないのか! 俺! 一応レベル高めな冒険者なんだけど! ゴブリンとかウルフくらいなら余裕だけど! 金額次第ならドラゴンとでも戦いますけど! 以前も街を襲ってきたコボルド集団倒したよ!」
大看板の前で、ごてごてした立派な鎧を纏う冒険者の男が周囲を見渡しながら声を上げている。だが、良き反応は見られない。
「へっ、こーの平和な時代に何言ってんだおめー! 今はモンスター退治なんか必要ねーんだよ! これからは商売人の時代だ! おらおら冒険者サマは引っ込んでな!」
「ぐえっ!」
「ぶぁっはっは! 毎日稼ぎまくりで笑いが出るぜぇ!」
それどころか、通りかかった小太りの商人に突き飛ばされ、顔から地面に落ちる冒険者の男。それを広場で遊んでいた子供たちがじーっと見つめていた。
「う、うう……なんでいきなりこんな目に……もう冒険者なんて廃業だぁぁぁ!」
男はその場で立派なヘルムを脱ぎ捨て、涙目になって消えていった。子供たちはそのヘルムをボールにして遊ぶ始末である。
プリ子が男の背中を見送りながらつぶやく。
「あの人、前は勇者候補だって持ち上げられていたのにね。やっぱり、今はもう冒険者のお仕事なんてないのかな」
「世知辛いよ……」
騎士子は閑古鳥がなく状態の大看板を見て、またため息をついた。
「……はぁ。やっぱりろくな依頼ないなぁ。これじゃ今月もやってけないよ」
「そうだね、騎士子ちゃん。このままじゃ食べていけないかも……」
以前は大看板にも張り切れず、溢れるほど多かった高額報酬依頼の数々。腕に覚えのある冒険者たちがこぞって依頼を取り合い、切磋琢磨を続けた冒険者たちのレベルはどんどん向上。報酬額も天井知らずで、大金持ちになる冒険者も多かった。
しかし、今はほとんどの依頼がなくなり、今残っているのは日常の平和的な安価依頼ばかりである。
今日張り出されているのは、迷い犬の探索と、酒場の臨時アルバイトのみだった。
「うう……背に腹はかえられない! あたしはともかく、プリ子に貧しい思いなんてさせられないよ!」
「え? 騎士子ちゃん?」
騎士子は、大看板からその二枚の依頼書をはぎ取り、右手を握りしめる。
「とにかく今は日銭が大事! なんでもいいから依頼こなそう!」
「騎士子ちゃん、えらい! わたしも一緒に頑張るよ」
「うん! いつかきっと、また冒険者が必要なときが来ますように!」
握りしめた拳を上げてポーズを取る騎士子。ヘルムのボールを手にした子供たちがじーっとこっちを見つめていた。
「ああっ! で、でも戦争になれとか魔物が増えろとかそういう意味じゃなくてね! あ、あたしたち騎士や冒険者にも仕事がありますようにって意味で!」
必死に子供たちに言い訳する騎士子。それを見てプリ子がくすりと笑っていた。
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