騎士子ちゃんとプリ子さん
灯色ひろ
第1話 騎士子とプリ子、冒険の始まり
「――いやったぁっ! ついにあたしも一人前の【
王都アークステラ。
その王城に併設されている厳かな『王国騎士ギルド』から出たところで、小柄な少女が両手を上げて喜びを表現し、門番の兵士がギョッとしていた。
「うふふ。よかったね
子どものようにはしゃぐ少女の隣で穏やかに微笑みながら拍手したのは、【
「ありがとうプリ子! これ高かったよね? ホントありがと! ……で、でもこの格好はちょっと恥ずかしいな」
照れたように頭の後ろに手を回しながら、自身の姿を見下ろす騎士子。
そして、腰元には少女には似つかわしくない無骨な一本の両手剣。
これらの装備は、騎士への就任祝いにとプリ子が贈ったばかりのものだ。
だが、そもそも騎士子が恥ずかしがっているのは装備についてではなく、ひらひらと揺れる自身のミニスカートと、露わになった肌色のふともも部分にあった。軽装ゆえ、少々露出が多い。
「そんなことないよ~。とってもカッコカワイイよ、騎士子ちゃん」
「う~。た、確かにプリ子が選んでくれたこの装備はすごく動きやすいけどさ、あたし、こんな短いスカートはじめてだから、なんかスースーするよぅ」
羞恥心に頬を赤らめつつ、スカートを手で押さえる騎士子。
その頬と同じような色の長い髪は、『ストロベリーブロンド』と呼ばれる非常に珍しい色をしている。幼い頃はコンプレックスでもあったこの髪も、今は騎士子の一番の自慢となっていた。
小柄でまだまだ発育途中な彼女ではあるが、スレンダーで締まった体つきは実に健康的であり、童顔ながらよく整った顔立ちも愛らしい。
また、可憐な見た目に反して凄まじい体力と怪力を誇り、その二点だけで騎士となれたに等しい。でなければ、若干十五歳の少女が両手剣を腰に提げられるはずもない。
一方、そんな騎士子を褒め称えるプリ子は、大変に見目麗しい美貌の持ち主だった。
腰までサラサラと流れる銀髪は華麗で、白磁のような肌は透明感があり、何より騎士子とは同い年ながらその発育の良さは見事の一言。特に豊かな双丘は窮屈そうに服を押し上げ、思わず撫でたくなるような柔らかみのあるフォルムをしている。
また、聖職者用の衣は左右で股の辺りまで大胆にスリットが入っており、そこからのぞく艶めかしい脚は道行く男性さえ目を留めるほどだった。
「でも、騎士子ちゃんには全身を覆うようなプレートアーマーはまだ難しいよ。だから、今はそれでいいんじゃないかな? それに、とっても似合っていて素敵だよ。女性騎士の中で一番可愛いよ。私が保証するよ」
「そ、そうかな? えへへへっ、じゃあいっか! とりあえず旅の準備しよっ。いよいよ魔王退治の旅に出発だ!」
「うん、そうだね騎士子ちゃん。これで夢にもう一歩近づけるね」
笑いあった二人は、ごく自然と手を取り合って街を歩き出す。
大陸の中で最も発展し、人口も多く文化も豊かな王都。日夜多くの冒険者が集まり、旅の支度を調える。
まだ就任の熱が冷めやらぬ騎士子は、ウキウキした様子で街を闊歩していた。
「ふふ。騎士子ちゃんずっと嬉しそう」
「そ、そうかな? やっぱり浮き足立ってる? けどさ、ここまで来るのにどれだけかかったか……うう!」
「そうだね騎士子ちゃん。二人で一緒に村を出てから一ヶ月。王都についてギルドの騎士就任試験に受かるまで半年もかかっちゃったもんね」
プリ子の発言に、騎士子はうんうんと深くうなずいた。
騎士になろうという者はそのほとんどが健康的な若い男性。いくら騎士子がまだ幼い少女だといっても、九割以上の志願者は三ヶ月以内に騎士の資格を得る。四ヶ月、五ヶ月かかるものは稀であり、半年もかかった者は記録上騎士子が初めてのことだった。そもそも、騎士になるだけならそう難しい話ではないのである。
「半年は長かったなぁ。プリ子なんてたった二週間でプリーストになれちゃったのに、あたしのせいでずいぶん待たせちゃってごめんね」
「そんなこと気にしなくていいんだよ。私は、騎士子ちゃんを支えるために村を出たんだから。プリーストになったのも、騎士子ちゃんをサポートしたかったからだもの」
「プリ子……」
「いつでも騎士子ちゃんの傷を癒やすからね。身体も、心も」
にこ、と微笑みかける天使のようなプリ子を見て、思わず瞳を潤ませる騎士子。二人の足は止まっていた。
大陸の中でも辺境のド田舎村で生まれ、他に同年代の子どもはおらず、幼なじみ同士として育ってきた二人。
小さい頃から知的で淑やかだったプリ子とは違い、幼い頃から男子とばかり遊んで活発だった騎士子は、『冒険者』になって魔王を倒すという夢を追い続けてきた。
そして十五になったのをきっかけに村を出て、この王都で騎士に転職することを決めていた。騎士子は本来一人で旅をしようと考えていたが、プリ子は当然のようにその旅についてきてくれた。
騎士子はそっと目を伏せる。
「……あのね、プリ子。あたし、最初は一人で旅をしようと思ってたんだけど、たぶん、一人じゃムリだった」
「え?」
「王都に来て、よくわかったの。あたし田舎者だし、きっと不器用で要領悪いし、騎士としての才能もないんだよね。団長さんにだって、他の職業の方がいいんじゃないかって何度も勧められたしさ。何度も何度も試験に落ちて、途中、諦めて村に帰ろうかなーって思っちゃった。あはは」
「……騎士子ちゃん」
弱々しくつぶやく騎士子を、プリ子が心配そうに見つめる。
しかし、騎士子はすぐにその顔を上げてプリ子と向き合う。
「でも、あたしは騎士になった! 諦めずに、ちゃんと騎士になれた! やれば出来るってわかったんだっ!」
その輝かしい表情に、プリ子はそっと微笑みかける。
「うん、そうだね。騎士子ちゃんはすごいよ。私、ずっとそばで見てきたからわかるよ」
「うぅん、あたしはすごくないの。だって、全部プリ子のおかげだもの」
「……え?」
騎士子は、両手で包み込むようにプリ子の手を握る。
プリ子は、驚いたように目を大きく開いていた。
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