この世界のどこかに。

観月 万理

第1話 桜

桜が地に落ちた。


彼の肩越しに落ちてゆく桜の花びらだけが、私の視界に入っていた。


「...なんだ。」

彼の声が聞こえてハッとする。

「え?」

と、反射的に声が出た。

彼は言いにくそうに、口を閉じたり開いたりしながら、私の方をチラチラと伺う。


「他に好きな人が出来たんだ。別れて欲しい。」

何を言われたのか理解ができなかった。

スキナヒトガデキタ…?

すきなひとが。

好きな人が。

好きな人が出来た。

そのまま心に受け入れることができない。

こんな日が来るなんて、予想もしていなかった。昨日まではあんなに2人で楽しく肩を並べていたのに。


回らない頭をフル回転させて、必死に声を出す。

「…なんで?なんで?私じゃだめなの?いつから?」


彼はというと、ずっと目を泳がせている。

一向に口を開こうとしない。


「何。何がいいたいの。」

そう急かすと、やっと重たい口を開き言葉を発した。この後彼が放ったのは、私の心をこれ程までにかというくらいズタボロにするナイフのような一言だった。





「優里のことが好きなんだ。もう、お前と別れたら優里と付き合う約束をしている。」



心が悲鳴をあげた。痛い、痛いよと。



彼が名前を上げた優里とは、私の唯一無二の親友の事だったのだ。

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