冬将軍

祥一

九十九句

俳諧を冬将軍と革命す


猫の冬お前は中で俺は外


船壊れ火星の月へ不時着す


冬の道芭蕉が膝を折り休む


古里を語らふ焚き火絹の道


落葉喰ふ虫に来世は生まれたし


冬空が一年続く街の恋


冬帽子実は私に顔はない


いつからか私は鯨これからも


毛糸編む明るい青は三男に


落ち椿激しく生きて事故で死す


三月や捨てる面子と出す手紙


バナナ食む終りなきほど走る前


灰色の桜僕にはさう見える


面会者名乗りを聞けば「春の精」


鷲ならば悔いるか獲物逃すたび


牛とのみ話す少年一学期


歯車ハ交換可能入社式


風もなく地蔵を避ける落花かな


桜道人に変はりし犬が行く


昭和の日洗へど落ちぬ手の汚れ


死は門出春光を背に処刑場へ


師を持たず生きられますか三鬼の忌


陽炎へ向かへと脳が我に言ふ


白亜紀の蜥蜴未来へ大怒号


ミニプール涙で浮かぶお舟かな


夏の日や君は死を経て白波に


蛾を払ふ我こそ蛾とも知らぬまま


城の夜家守の王がまた変はる


原爆忌沢山の死を跨ぐ足


日も月も知らぬ彼女の深き闇


優しさを無言で拒む渡り鳥


写実的秋海棠図画家不明


虐められ泣いて帰れど栗ご飯


椋鳥の夫婦が抱く不幸せ


彼の名は瞬昨年の秋より来


桔梗なぜ私ここよと叫ばない


読み掛けの文秋風が攫ふ待て


捨てられし猫がひとまづ日向ぼこ


亡き妻の面影淡し雪中花


さやうなら棺桶を積む宝船


火に焚かれ生きるがごとし殺人者


狼に首喰はれつつ君想ふ


寒き夜八回叫ぶほど悲し


木枯も光る私が光るよに


夜の橋揃ふ靴にもいつか雪


虐待の少女の氷雨傘拒む


君のその凍る心に長き橋


高利貸し雪に煙草を押付ける


先生へ冬帽子脱ぐ挫折知り


熊猛るアフターダーク深き山


家壊す春一番の恋をして


余寒の夜激しきジャズと酒と恋


啓蟄や無名の男登壇す


たんぽぽを孤独な猫が食べて鳴く


嘘を吐く唇に指春浅し


梅二本競ひ合ふほど香りけり


くちづけるメドゥサ最後の春の色


春の馬天才騎手と地獄坂


龍を産む桜小さき我救ふ


若杉と緑の猫の恋模様


梅を嗅ぎ悟空は怒り鎮めけり


カーストに抗ふ少女木の芽摘む


裏切りの桜の森の殺し合ひ


春は時俳句は文字で人は物


地球捨て巨大な船で春月へ


虚空より宇宙は生まれ次に蝌蚪


桜燃ゆ火の粉浴びつつ絵筆振り


世が悪に見え春雨を目薬に


風船で旅する少女友は風


女子校を嘆く少女ら春服に


春惜しみ仏語の恋を封筒に


死神が屋根でいくつもシャボン玉


たんぽぽのお店屋さんにじじが客


春月で手を振る僕のかぐや姫


衝撃は次ページ子ども読書の日


ソーダ注ぐいつか家族になる日まで


春暑し青き二人はボクサーに


春深し昏睡のまま夢に生く


春の夢いつかは恋を知る赤子


東風に揺れ君はつぶやく神はゐる


竹の子を人の子と掘る義理の父


生き死にを超越長き長き蛇


人は皆一人で死ぬと蝉が鳴く


韮刻む家族はいつかばらばらに


失恋の蛙は風と詩を好きに


雛菊に耳近づける君が好き


夏至過ごすドガと貧しきバレリーナ


まどろみて最後の夏と子規思ふ


命あるうすばかげろう手に乗せる


夏の果カフカのペンが転げ落つ


汗拭ひ歩く命は砂時計


人でなし蛍に涙流す夜


梅雨受くるもう使はざる犬の皿


海開き待てず裸の不良たち


虫取りの帰り子取りのおじさんに


いとほしきゆたかなからだ蛇がはふ


六月が壁にもたれて雨宿り


求愛の稽古登山の前日に

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