第102話 2019年の感傷
20年以上前に読んだ手紙を思い出しながら記しましたので、文面は正確ではありません。
もしかすると思い出の中で美化されている部分もあるかもしれません。
しかし、そのとき私が受け取った手紙は、おおよそこんな内容でした。
・・・サトミ、なんだよ。最後になって初めて「あなた」って呼んでくれたのか。
封筒には便箋と一緒に写真が1枚同封されていました。
インドゥルワのビーチで、インド洋を背景にして幸せそうに笑っている私とサトミです。
・・・忘れろって言っといてこんなもの同封してどうするんだよ。ほんとうに馬鹿だなあ。
私は文章で書くほど理路整然と思考していたわけでは、ありません。
突然怒りがこみあげてきたりもしました。
・・・結局僕はマリッジブルー女のひとときの火遊びの相手だったのかよ!
しかし、やはり恋しい気持ちの方が、はるかに勝っていました。
・・・ひょっとしたら、今からでも気が変わって「ただいま」って来るんじゃないだろうか?
などと、もはやあり得ないことまで考えています。
・・・サトミに会いたい・・会いたい・・どうしても会いたい
・・・会いにきてくれ・・
写真の中で微笑むサトミに必死で念じました。
そのとき、あのいつも戦いの最中でも戦況を俯瞰していた、冷めた私が言い放ちます。
・・・もう終わったんだ。二度と会えないんだよ。。
・・・・
「ちょっと?あんた、大丈夫かい?」
郵便局で、隣にいたおばさんが心配して私の背中をさすっています。
私は恥ずかしながらこのとき、大粒の涙をボロボロ流して泣いていたからです。
もしかしたら声を上げて泣いていたのかもしれません。
・・・忘れろったって忘れらるわけないじゃないか
ああ、ダメだ。。
もう20数年も時が流れた今なら書けるだろうと思って書き始めたエピソードだったのに。
これを書いている2019年の今でも胸が痛みます。目に涙が溜まっています。
もうぜったいに大丈夫だと思ってたのに。
しかしいい歳したオッサンがいつまでも若いころの感傷に浸っていたのでは、読者の皆さんはすっかり引いていることでしょう。
無理やりにでも話を元に戻すことにしましょう。
・・・199X年のバンコクへ。
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