第42話 リハーサル 2

ボウイのアイデアのおかげで、スイカを一発で割ることは問題無くなりましたので、ボールを使った練習をしばらく続けます。

この当時の私は、わりと後回し蹴りや跳び回し蹴りに自身がありましたので、ボールは確実に蹴り飛ばすことが出来ました。


「こういうクルクル回る技って、何度も繰り返すと目が回るんだよね。大体こんなもんで良しとして、あとはこれだけじゃ間が持たないかもしれないから、もうひとつ練習しとこう」


「オス。今度は何をやるんです?」


「うんデワ。お前タバコ持ってる?」


「タバコですか?ちょっと持ってきますよ」


しばらくしてデワがタバコと灰皿を持ってきます。


「あ、いやいや・・道場でタバコ吸おうってんじゃないんだ。これもデモンストレーションに使う。デワとボウイのふたりはタバコをくわえて、さっきのスイカ割りの立ち位置に立ってみて」


「オス」


ふたりは私を両側からはさむようにして、3m間隔で立ちます。


「あのう、トミーセンパイ。なにをやるんですか」


タバコをくわえながらボウイがたずねます。


「いや、これはもうそのまま。タバコ蹴りをやるから。左右一連の動きでくわえタバコを蹴り飛ばすんだ」


それを聞いてデワが口をはさみます。


「ああ、それもあのカラテの本に写真が載ってた。本番では火をつけてやるんですね」


「そうそう。そのほうがなんかインパクトあるだろ。ま、今は火をつけずにやってみる」


私は少し腰を落として、狭い目のスタンスの騎馬立ちに構えます。

膝のバネを使って、左足でボウイ、右足でデワのタバコを蹴るつもりです。

さすがにこれは後回しで蹴る自信が無いので、左右側方への前蹴上げを使います。


「いくぞ!絶対動くなよ」「オス!」ふたりが同時に答える。


可能な限り素早い一連の動きで蹴らねば。

まず左を見て目標を見定める。


「えいしゃー!」気合を入れて左足を飛ばす。ボウイのタバコにヒットする感覚が足に伝わると同時に右を見て目標を見定める。おろした左足をすぐに軸足にして右足を飛ばす・・・・パカッ!


「あ、ああ。。。」

ボウイが素っ頓狂な声をあげます。


「うわ。しまった」

私はうっかりデワのアゴにモロに蹴りを入れてしまいました。

デワは真っ直ぐ後に仰向けでひっくり返ります。バタッ・・・。


「すまんすまん。デワ、大丈夫か?」


ひっくり返ったデワはアゴを押さえていますが、それほど強く蹴ったわけじゃない。


「いてーなあ・・・センパイ。頼みますよ」


「悪かった。やっぱり左右一連の蹴りでというのは、僕にはちょっと難しいかもしれない。今度は1回ごとに構えなおして、正面から間合いを計って蹴るよ。じゃ、立って。もう1回」


「はあ?まだやるんですか?嫌だよ僕は」


デワはいいますが、私は聞く耳持ちません。


「心配するなよ。僕を信じろ。こんどはちゃんとやるから」


「・・・でも。。」


「デワ、押忍はどうした?」強く言います。


「・・・・オス。。」デワもしぶしぶ答える。


今度はデワとはす向かいに立ちます。

振り上げた足をデワの頭上に逃がす形・・・前蹴上げに少し回し蹴りを加味した蹴り方を試そう。


「いくぞ。動くなよ」


右足をすっと上げたとき、ビビったデワが顔を後に反らすのが見えました。

とっさに私は蹴りの軌道をやや奥に押し込むように修正します。

スパーン!といい音がして・・・・私の背足(足の甲)がデワの眉間のあたりに当たりました。。。


「すまんすまん。デワ、大丈夫か?」


床に座り込んだデワは少し涙目です。

「大丈夫なわけないじゃない!いい加減にしてよ!人の顔を2度も蹴っておいて!」


「まあ、そう怒るなよー。今のは動くなって言ったのに動くからじゃん。気を取り直してさ、もう1回」


「い・や・で・す!もう絶対嫌だ。絶対オスなんて言わないよ」


「あーー。。しかたないなあ。。ボウイ!」


私はそのまま顔を後に振り向ける。


「へっ?」


はじかれるようにボウイが後に飛びのきます。

そのまま彼も座り込んで


「カンベンしてください!オレも怖いです」


ああ、本当に根性の無い連中だ。

いやしくも空手をやるものが蹴られるのをビビってどうする・・・てのはちょっと理不尽か。

しかたない。


「わかったよー。このタバコ蹴りは演目からはずすよ。。明日は朝10時には道衣に着替えてここに集合。そのまま歩いてビクトリア公園に行くぞ。じゃ、これで本日の稽古を終わります。礼!押忍!」

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