プロローグ 続

1年後


「やっぱり無理なのか…」


呆然とする母親の傍で、父親が呟いた。実際この子の為に、この家では不幸なことがたくさん続いた。この家がある農村でも。


「…やるならあなたがやって。私には無理よ」


「俺だって無理に決まってる…!」


自分の子を自分の手で殺す、と言う到底できそうにないことから逃げるように、父親は言い返す。


その時、子が目を輝かせ、こちらを見て楽しそうに笑う。


「っ!」


その恐ろしい紅い目を見て、母親は声にならない悲鳴をあげる。笑顔は確かに可愛いが、問題はその目だ。我が子と言えど、確かにこの目を直視する事は出来ない。


「そうか、目か……」


父親に、この子を生かすための新たな案が浮かんだ。


「……どうしたの?」


一人で納得した様子の父親の様子を見て、怪訝そうな面持ちで母親は尋ねる。


「人災認定は、目を見て判断されるんだよな?」


「ええ、そうよ。それがどうしたの?」


「なら、目が無くなったらどうなるんだ?」


「っ!」


その考えはなかったと言うように、母親は大きく目を見開く。


そう、父親の考えとは


━━━━━━我が子の目を取ってしまうと言う事


「でも、そんなの……!」


「ああ、わかってる!こんな仕打ちこの子にできないって…!……でも、それでも、それでこの子が幸せに生きられるのなら………!!」


そんな事は安いものだ、と言う言葉を父親は留めた。安いわけがない。目を失うのは体に重大な障害を伴うのと同じだ。そんな状態で生きるのは、健康な生活を送っている自分たちからしたら想像もつかない苦労だろう。


しかし、それでもこの子には生きていてほしい。だから、この悪魔の所業とも言えることをする。この子に生きていてほしいが為に。


「これは俺がやる。君はどこかに行っていてくれ。」


「いいえ、そんな事をあなた一人だけには背負わせたくない。だから、私もやるわ」


覚悟を決めた表情で、母親は父親に言った。


「……わかった」


その顔から並々ならぬ覚悟を感じとった父親は、母親に反抗する事なく、我が子の両目を取るための作業に取り掛かった。



そして、居間に鮮血が散った。

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