14 あなたの手。私の手。
大学に通学する静の横を、小学生の男の子と女の子が仲よさそうに駆け抜けていく。
その姿に、静は、昔の森の中での二人を重ねる。
季節は春で、自宅近くの公園には桜が満開に咲いていた。
優しい暖かな風が吹いて、桜の花びらが舞っている。
世界は桜色に色づいている。
静は電車に乗り、大学の最寄り駅まで移動をする。
電車を降りて、駅を出ると、そのまま歩いて大学まで移動をした。その途中の道で、「おはようございます。お兄ちゃん」と声をかけられた。
後ろを振り向くとそこには、静の大学の後輩であり、また静の実の妹でもある朝倉秋が立っていた。
「おはよう。秋」静が言う。
「はい。おはようございます。お兄ちゃん」ともう一度、本当に嬉しそうな顔でにっこりと笑って、秋は言った。
あなたの手。私の手。
「お兄ちゃん。て、出してください」
秋が言う。
静は言われた通りに歩きながら、隣に移動した妹の秋に自分の手を差し出した。すると秋は「ちょっとだけ失礼しますね」と言って、静の手を軽くとって、その表面をじっと見つめた。
「……秋。なにしているの?」
ちょっとだけ恥ずかしくなって、静は言う。(近くを通っているたくさんの人の中には、そんな仲よさそうな二人を見てくすくすと笑っている人もいた)
「手相を見ているんですよ」
手のひらを見たままで秋は言う。
「お兄ちゃん。すごくいい手相してますね」しばらくして、感心したような顔つきで秋は言う。
「なんていうか、すごく大丈夫な手相をしています」
「すごく大丈夫?」
「なにがあっても大丈夫な手相です」
そう言って秋はまた、にっこりと笑った。
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