6 森で暮らす梟

 森で暮らす梟


 ……ずっと、愛しています。


 朝倉静と赤家翼が出会ったのは、二人が小学四年生のときだった。

 その日、静は両親と一緒に信州にある森の奥の町に親戚の家を訪ねて遊びにやってきていた。

 その町には東京では見ることができない美しい自然と、それから大きな湖があった。

 とても美しい湖だ。

 そのとき、静は一人で大好きな森の木々を調べながら、その湖の湖畔をまるで異国の土地を冒険でもするように、植物図鑑と木の枝を持ちながらゆっくりと歩いていた。

 そんなとき、静は翼と出会った。

 翼はその山奥の町に住んでいる地元の女の子だった。

 翼と同い年の十歳の女の子。

「こんにちは」

 そんな風に翼に声をかけられて、静は夢中になって読んでいた植物図鑑から顔をあげて翼の顔を見た。

 翼はすごく綺麗な女の子だった。

 そんな翼のにっこりと笑った笑顔を見て、はその瞬間、生まれて初めての恋に落ちた。

 それは静の初恋だった。

 翼は少し前から静のことに気がついていたようで、地面の上に座り込んでいろんな植物を見ている静のことが気になって声をかけたのだと言った。

 でも、そんな翼の言葉も、緊張している静には、あまり聞き取ることができないでいた。すると、そんな静の姿を見て翼がまたにっこりと笑った。

「私、赤家翼って言います。よろしくね」と翼は言った。

「僕は朝倉静と言います」と静は言った。

 すると翼はその小さな手を静に向けて差し出した。

 それはよろしくの握手を求める行動だった。

 その手を、静は遠慮がちに握った。

 翼の手は、なんだかとても柔らかくて、そしてちょっとだけ体温が冷たかった。

「静くん」

 と翼が言った。

「はい。なんですか?」静が言う。

 すると翼はまたにっこりと笑って、それから「朝倉静くん。私と、赤家翼とお友達になってください」と静に言った。

 静は感動して、「もちろん」と翼に答えた。

 そして二人は友達になった。

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