【鬼畜さん】恋が分からない鬼畜さんの話。
誰かを好きになるとか付き合うとか結婚とか分からない。
分からないから、僕はそういう一切を諦めた。
恋愛隠居だ。
けれど、肉体的には満たされないものがあって風俗に通っていたのだけれど、それも飽きた。
というか、知らない相手に自分の体を見せるとか、普通に嫌。
だからって、恋愛もやっぱり嫌。
そんな訳で、僕が行き着いたのは「聖子」だった。
22歳。家無き子。
分かり易くスタイルがよくて、服装と化粧がギャル。
のくせに喋り方は落ち着いていて、趣味は読書とアニメ鑑賞で、根っこはオタク。
知り合った時「行くところがない」と言うから知り合いの不動産業の力を借りて部屋を安く買った。
そこに僕は聖子を住まわせた。
結婚する気も、子供も作る気もない。
僕は聖子の体を純粋にセックスに【使う】為に金を出した。
「ねぇ? 私と付き合う気はないんだよね? でも、セックスはしたいって、そーいうこと?」
「うん」
「あはは。超素直じゃん? で、その為に部屋も用意してくれるし、毎月の食費も出してくれるってこと?」
「うん」
「で、その代わり部屋にいて君がセックスしたいって来た時には、思いっきりやれば良いってこと?」
僕の方が年上だけれど、聖子は僕のことを君と必ず呼んだ。
「まぁ、そうなんだけど。当然、したくないって時は強要しないから」
「ん? 私って愛人なんじゃないの?」
「まず、結婚してないし、する気もないよ」
「じゃあ、セフレ? でも、セフレの為にこんなにお金って使うもんなの?」
「いや、一般論は知らないけど」
「ま、良いや。で、今からやるの?」
「やりたい」
ってな具合で、僕はセックスがしたくなったら、聖子の部屋を訪れた。
目的はセックスだったけれど、なんだか付き合わなくて良い、恋愛という分からないものに陥らなくて良い。
そんな安心感から、セックスなしでご飯を食べに行ったり、映画館へ行ったりもするようになった。
時々、聖子の趣味のアニメも見た。
そういう時、必ず聖子は別に私の為に無理しなくて良いのに、という不服そうな顔をしたが、声には出さなかった。
「君ってさ、分からないこと。制御できないものに支配されることが恐いんでしょ?」
「うん」
「素直だなぁ。だから、お金って言う分かり易いもので、自分と他人をコントロールするのね。できるかどうかは置いておいて」
「コントロール?」
僕は確かに自分をコントロールしようとはしているけれど、他人を、とくに聖子をコントロールしたいとは思っていない。
聖子は高価な絵みたいなものだ。
僕はこの絵を所有している、というよりは、お金をかけて手元で管理をしている。
いつか、高価な絵は美術館に飾られる。あるいは他の金持ちの家へと売られていく。
それまで僕は自分一人で絵を堪能する。
言わば、聖子は限定された存在だ。
彼女が他に男を見つけたり、僕と一緒にいることが嫌だと言えば、この関係はすぐさま真っ白に戻る。
「でも、セックスってさ」と聖子が言った。
「自分の体がコントロールできなくなっていくことが、より気持ちよくて、のめり込んでいくもんなんじゃないの?」
「正直、僕はセックスって分からない」
分かるのは気持ちよくなると射精する、という事実だけだ。
「はいはい。結局、私は君のオナニーに付き合わされているだけなんだね」
その通りなのかも知れない。
「ごめん」
「良いよ。そいうとこ軽蔑しているけど、ちょっとだけ可愛いとも思うから。後、君は意外とセックスのセンスも良いし」
「センス?」
「そうそう。色々なことに怯えているからか、私の体に触れる時に恐る恐るな感じが、ゾクズクする時があるの。時々だけどね」
「喜んでいいの?」
「そーいうこと、聞かれてもなぁ」
ちなみに聖子はツイッター中毒者で、裏垢というものを作って、そこでエロい自撮りの投稿を繰り返しているようだった。
ある時、その文章を読ませてもらったことがあった。中々に良い文章だった。
そんなある日、聖子の部屋に行くと、見知らぬ少女がソファーでコーヒーを飲んでいた。
ツイッターの裏垢関係で知り合ったらしい。
未成年だった為、警察に見つかったら一発アウトな現実だった。
「あー、大丈夫大丈夫。この子は、血の繋がっていない生き別れた妹だから」
うそつけ、この野郎。
女の子はkikiと名乗った。
裏垢の名前らしく、本名ではないようだった。
kikiの由来は単純に魔女の宅急便が好き、という超どうでも良い理由だった。
「貴方が、鬼畜さんですね」
とkikiが言った。
瞬間、聖子が「てへ」みたいな顔をした。
ツイッターランドで僕はどんな扱いを受けているんだ? 鬼畜? まじで?
しかも、聖子が
「kikiちゃんがいる間は、ごめん、セックスなしで良い? やっぱり、未成年の子がいる部屋で性的な雰囲気とか出すの気が引けるじゃない?」
とか言い出す。
まじか?
「あ、でも、キスはしてあげる」
あげる? え? なに、聖子の方が譲歩する側なの?
僕が買った部屋とは言え、僕と聖子は対等なんじゃないの?
「というか、キスはいっぱいしよ。kikiちゃんが見えない死角で、五十回はしよ」
「いや、キスすると、したくなるから。ゼロ、ヒャクで良いよ」
「ふーん」
というか、五十回って、どうもツイッターランドのネタに使われてるっぽい空気があって、ちょっと身構える。
「じゃあ、たまには外のホテルでする? というか、君の部屋に私行こうか? あ、他の子が来ても大丈夫なように、私ちゃんと痕跡は残さないよ」
「いつも言っているけど、セックスしているのは聖子とだけだよ」
「本当に~?」
「相変わらず信じないのな」
「やっぱりね」
kikiを追いだすって選択肢が聖子の中にないことだけは分かった。
「本当にしたくなったらホテルに行こう」
「分かった」
「それより、kikiちゃんって訳ありなんだよね?」
僅かな躊躇の後、「そうだね」と聖子が言った。
「あ、kikiちゃんとやろうとはしないでね。向こうは未成年だから、見つかったら捕まるからね」
「聖子ってまじで、僕のことを鬼畜だと思ってる?」
「そりゃあ、そうでしょ?」
いやまぁ、そうなのかな?
まぁいいか。
「未成年の女の子をそう長い時間匿ってはいられないからね。というか、流石に警察に言わなくちゃじゃね?」
「あ~、一応、友達の警官に報告はしたよ」
「ん? テリー?」
「そっそ。最近、お茶したついでに」
あー、あれを警官とカウントすることに躊躇が……。
いや、本当に警官なんだけど。アイツに話したところで、解決される未来が見えない。
「ねぇ、ちゃんとkikiと向き合ってね」
「え?」
「kikiは未成年で、行く場所がない子だけど、それは彼女の責任じゃないの」
どういう事情か分からないが、おそらくそうなのだろう。
更に聖子は続ける。
「だから、君にとってkikiが、どんなに理解できない存在だったとしても優しく関わってね。間違ってもkikiをコントロールしようとしないでね」
「もしかしてだけど、kikiを預かった理由って僕を試すため?」
聖子が優しく笑った。
「そうじゃないよ。けど、そうだったら君は私のこと嫌いになる? 私を追いだす? 本当の鬼畜みたいに」
僕は何も言えなかった。
もし、kikiが僕を試していたとしても、部屋から聖子を追いだしたくなかった。
可能な限り彼女と一緒に居たかった。
けれど、それじゃあ、まるで――。
「私はね。君のことが結構、好きなんだよ」
それが本当かどうかなんて、僕には判断がつかない。
ただ、分かることは。
聖子にそう言われて、嬉しいと思っている僕だけだった。
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