第9話


「ダンジョンに花見ィ?」



思いのほか自分でも今日知り合った女子に出す声ではないと思う声が出てしまった。


・・・自分でもおかしいと思うが何故かイライラが止まらないのだ。


体の奥からまるで他人の感情が湧き出したのではないかと思うほど熱が沸き、チリチリと悪神の恩寵が疼き腕をテーブルの下で痛いほど抑える。


・・・俺自身この二人の言った能天気な言葉に反感を覚えるが、そもそも今日あった人にこんな事を言える人間だったろうか?俺は。


いや、何せこちとら冒険者を何とか食えるレベルにまで生計を立てれる様になるまでまる一年半はかかった糞底辺、嫉妬ぐらいはする・・・か。


因みに全く関係ないが俺は家からの仕送りを無理に大学に通わせてくれたお礼として受け取っていない、え?奨学金?奨学金が貰える為の審査には神の呪い付きのせいで秒で落ちた。


だから俺は人より苦労しているのだなんて事は死んでも言わないし思うことすら恥だと思っているが高校のころから冒険者になって速攻自活できるようにしてきた俺は冒険者というものの苦労を自慢じゃないがそこらのやつ以上に知ってる。


食えるレベルで安定してきたのも最近だったから尚更だ。


雑誌に載って、才能があって、ダンジョンで、お花見。


死ぬ気か?あ?という感情が声に乗ったのを実感した。



「あ、ああ!ダンジョンの近くでって事か?もう時期は大分過ぎてるけど・・・遅咲きの桜の場所でも知ってるのか?それとも神秘の影響で今が見ごろだとか?」



そんな俺の不機嫌さを感じたからだろうか?


春樹がフォローを入れるような感じで疑問を出し場を繕った。


すると市川さんが所詮は俺程度の圧なんてものともしないのかそれとも単純に鈍いのかチッチッチ!と声を出しながら甘いよ!篠原君!このデザートのプリンよりも甘々さ!とスプーンをいつの間にやら頼んでいたらしいプリンに挿しながら答えた。



「あ、でもでも神秘の影響ってのは当たってるね。もぐもぐ・・・」



プリンを口元に運んだあとスプーンをこちらに向かってゆらゆらと揺らしながら向けてきた市川さんは、飲み込むとまるでライブのプレミアムチケットが当たったとでも言うほど興奮気味に語った。



「じ つ は!あの有名な冒険者ギルド『トラミエル』のリーダーさん!あ、この雑誌の表紙に載ってるアイドル冒険者さんね!で、そこのギルドが、妖精の花園っていうダンジョンを攻略した時にそこの核モンスター――ボスと契約を交わしたらしくて――はむ、あむあむ」


「そのギルドのパーティーと少し縁があってね、妖精の花園に存在する不思議な桜、夢幻桜でギルドでお花見をするみたいなの。それで、結構色々な人を誘っているみたいで誘われたから、貴方達も一緒にどう?って訳」


「へぇー。ダンジョン攻略にボスモンスターと契約して、そこのダンジョンを貸し切って花見っつーわけだ!なんつーか豪勢っつーか男前っつーか」



え?ボスモンスター?あのダンジョンの奥でたっぷりダンジョンコアから神秘を吸って存在の格を高めた化け物を?


それを倒すどころか契約して実質のダンジョンを手に入れたって?あそこのダンジョンは知ってるよ俺。


だって錬金術とか神秘触媒とか色々あるもんダンジョン名【妖精の花園】中級向けのダンジョンとはいえ潜ったことこそないもののあそこ産の素材はよく買った。


特に質のいい花の蜜や薬草やそういった素材があるのだ、で。そこを攻略したと、控えめに言って英雄か化け物か――トラミエルね。


ギルドとかくっそ興味なかったわ、何故なら殆どのギルドに入れなかったからね!


俺はボッチ、そう悲しき宿命を背負いし呪い付きの男。


そう――低級素材や危険度に対するダンジョン関係の動きならある程度は把握していたが、大手ギルド、それも自分にとって関りがないところ等関われるはずもなし。


下に流れてくる物流の動きに合わせて動きを変える俺は流す側とは相いれぬ。


――結局何がいいたいかというと。



「ダンジョン貸し切りで花見とかそれなんてリア充」



そんなことできるのはよっぽど恵まれているやつだけだふぁっきゅー。



「遠い目をして空になった皿をスプーンでつつきながらなーにアホな事いってやがる、ほら。市川さんが聞いてんぞ、あ!もち俺は行かせて貰います!正直今から楽しみで仕方がないです!」


「ふふ、楽しみか、ダンジョンに行くのが、楽しみ・・・ふふ・・・死に怯え、呪いに抗い日銭を稼ぐ為の苦行ではなく・・・たのし、たの、たの・・・」


「あー駄目だこりゃ。ぶっ壊れてやがる」


「・・・その、東君?お弁当も作っていくし、すっごい綺麗みたいで・・・えと・・・来て、くれるとその・・・はい・・・う、うれ・・・」


「夢ちゃんふぁいとー!ぐいぐい押すんだー!ガンガン攻めよー!」


「・・・悪意、ないから怒るに怒れないのよね、この子は・・・でも今のは個人的に許せなかったので後であなたがお昼に食べた分の総カロリー数を纏めてメールするわ」


「おワっ!?い、いやがらせはんたーい!」


「ただの事実よ」


「ふふ、ふ・・・あれ?俺は一体・・・?」


「あ、再起動した花見いく、おーけー?」


「お、オーケー。・・・花見?うっ・・・頭が・・・」


「うし東も行くって、良かったね、皆原さん。あ!弁当作るなら俺らは飲み物ぐらいは買ってくから!酒は?アリ?なし?アリ!よっしゃ!バイト先の美味い酒持ってくぜ!」


肩を叩かれて意識が覚醒する。


・・・あれ?なんだ?なんか話が飛んでいるような、何か途轍もない話を聞かされたような気がするが・・・まぁ、いっか。後で春樹にきこ。


ついでに先ほどまであったイライラもいつの間にか無くなっていて気分もいい。



「よっし!【みんなでお花見にいこう!】クエストだね!報酬は美味しいご飯と綺麗なお花!皆でわいわい騒ごう!あ!えっちぃのはナシだからね!東君!ゆめっちが許しても私が許さないのです!そういうのはまだ早いとお姉さんおも・・・」


「あらぁ~?もうお酒がはいっちゃったのかしらぁ~?」



何処か間延びした口調で市川さんを引きずっていく皆原さん。


何故かにっこりと笑ったその容貌からは空恐ろしい圧を感じたので見ないふりをする事にする。



「バイト、空けとかなきゃな~!おい東!お前絶対来いよな!遅刻もすんなよ!俺の時みたく錬金して徹夜したとか、ダンジョンに潜ってたとか許さんからな!・・・酒は持ってくからジュース類は任せたぞ、後最悪の事態に備えてつまみや最低限のオードブルな!」


「・・・わ、わかった」



ずい、と詰められて了承するが、一つの言葉が気にかかった。



「最悪の事態?」


「メシマズ」



真顔だった。


一切の表情が抜け落ちた真顔だった。


何かこいつの琴線に触れるような事が起こったのだろうか、引っ越して以降こいつの身に食品関係で一体何が起こったっていうんだ・・・



「やめろ・・・みつり・・・お前は料理が苦手だと・・・のになぜ俺に食わそうと・・・やめ・・・おま・・・う・・・っ!」


「何が何だかわからんが・・・わかった、適当に買ってく」



メシマズは許されない・・・!と唸る声をスルーし俺だけが残っていた料理を食べきっているとちょうど女子陣が帰ってきた・・・頭にたんこぶをつけた市川さんを除けば、特に異常は見当たらない、見当たらないったらない。



「あら?皆食べ終わったのね・・・切もいいし、ここらでお開きね」


「ううぅ、痛いよー!あ!そだそだ!日時!次の日曜の九時に駅に集合ね!」


「うす」


「ううぅ、メシま・・・は、はい!九時っすね!わかりました!」


「何で敬語なの?しのは・・・春樹君!」


「うぇ?」


「この際だし名前でよぼーよ!友達になったし!出かけにも皆いくし!連絡先も交換しよーよ!ね!」


「そ、そーね!友達だものね!ええ!なんのもんだいもありはしないわよね!ええ!ないわね!颯君!さぁスマホを出しなさい!年貢の納め時よ!!」


「ま、まだ早いんでもう少し時間おいてくれ・・・ちょっとハードルが高い・・・というか、いつの間に俺は税を滞納してたんですかね・・・」


「・・・中学から」


「え?」


「なんでもないわ!さ!春樹君も!桜も連絡・・・終わってるわね」



皆原さんが小声で何か言っていたのを聞き逃してしまった気がするが、当の本人が何でもないようにスルーした為言及できなかった。


だがしかし俺の耳は冒険者生活で磨かれている、本当に聞き逃すには少し距離が近かった。


ちゅうか・・・?中学から?


税金滞納者中学生?なんのこっちゃ。


冗談だな、うん。


結局その日はそれでお開きとなった。



・・・因みに会計はきっちりと春樹に全部奢らせた。



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