第二十一相 何よりも欲しかった存在の欠片

 チャイムが鳴る。教壇に立ち、黒板に白い線を書き連ねながら話をしていた男性教諭が終了の合図をし、日直が号令をかける。起立、礼。一連の定型動作を終え、着席し直す。我妻さんとの昨日の会話を思い出していたら、何時の間にか授業は終わってしまった。ノートや話に集中していなかった訳ではないが、しかし今後の事を思えば、昨日の彼との関係性の変化が起こった出来事を整理するために思い出すのも必要だと思う。人間、劇的な変化が起こると混乱の中で記憶が混濁する事はままある。ならば、冷静な状態で何が起こったのかを思い出すのは当然の行為であり、決して私が彼と一歩進んだ仲になった事を喜んではしゃいでいる訳でも、趣味の理解をしてくれた上に共に遊んでくれた事を嬉々として反芻している訳ではない。断じてない。

 そう、彼は私を理解し、歩み寄ってくれて、私を「私」として見てくれた。貴重な友人になったんだ。




「計らいに感謝する、檳榔子」

 陽が落ち、屋敷の中の照明や灯篭が辺りを照らす頃。彼の妹――――眞銀さんの食事も終わり、我妻さんと私は縁側から続く位置に作られた池の上のスペースで、手摺りに寄りかかりながらぼんやりと夜風を感じていた。そんな最中、彼から発された言葉は感謝の言葉。今までに行ってきたやり取りを考えてしまうと、その言葉から彼の頑固な生真面目さを感じ思わず笑ってしまう。その様子に、彼は何故笑ったのかがわからないと言わんばかりの顔でこちらを見てきた。

「ふふ……ごめんなさい。でも今回の諸々のやり取りは本来貴方が主体なんですよ? ここは傲岸で居てもいいのです。何時もの貴方の様に」

「いつも偉そうにしているつもりはないのだが」

「自然と現れる自信からのものでしょう。私はそう言った貴方の姿は好ましいと思っていますよ」

「それはありがたい」

 彼はぶっきらぼうに視線を空に浮かぶ月に移した、首筋を中指で軽く掻きながら。こちらを見ないその行動は恐らく彼の癖なのだろう。今までも学校で共に生活している中で、彼は照れや恥ずかしさ、驚きを感じた時に、彼は首筋を中指の先で掻く行動をする。彼に関する私が知っている唯一の個性的な一面、恐らく知っている人間は少ないだろう。

 彼は他者へ褒める行為や好ましい部分を言う事に関して恥を感じずにする反面、その逆である自身へのそう言った言葉には慣れていないのか、生徒会で度々首を掻いている。それに気が付いたのはたまたまだったが、それまで年相応の人間らしい彼を感じなかったのが、やっと掴みかけたと感じた。過干渉はしないつもりだったが、仲間として彼の人となりを知って損はないと思っての観察は、思いの外有効であったらしい。

「しかし、今になっても不思議な事実だ。檳榔子の趣味がゲーム、所謂ゲーマーだったとはな」

「改めて言わないでください、隠しているんですから」

「すまん」

 そう、私の趣味。彼に露見してしまった私の隠したい秘密。それはゲームの収集とプレイ。やるべきことを終わらせた一日の終わりや、休日人目が少なくなった時、自室に秘密裏に作った隠し部屋で私はゲームに勤しんでいる。厳格な両親はゲームと言う娯楽を許してはくれず、一度真正面から説得もしたが取り合ってくれませんでした。曰く、人間を人間たらしめなくなる悪しき文化だ、と。父はそう言った。

 私は父を尊敬している。武術師範として数多の功績を残し、後進の教育をしながら自分を育ててくれた事への感謝もある。茶道の家元、その一族の当主として常に凛と佇み私を導いてくれた母も尊敬している。

 でも、私の好きになったものを、初めて自分で見つけた趣味と言うものを、否定されたくはなかった。尊敬していた両親からの「私」の否定は、私には存外に堪えた。それに加え、教えの通りに自分を作り上げた末にできたのは偶像化された私ではない私の姿を見る周囲の人々。それを崩したくないと言う自分のプライドの高さからその姿の維持に固執し続け、結果として私は「私」を押し殺す選択肢しか取れない袋小路に迷い込んでいた。

 彼にも、それは例外なく適用させていた。なにより知られたくないとさえ思っていた。彼は良くも悪くも真面目で、頑固で、規律を重んじる人。私の放蕩した趣味を知れば、きっと幻滅するだろうと、そう思っていました。

「俺はいいと思うがな」

「…………いい、とは?」

「ゲームと言う趣味だ。俺も昔、まだ家に余裕があった頃はゲームに興じていたこともある。今はそう言ったものを買う時間も金銭的余裕も無くなったが、あれはいいものだと思う。娯楽は人間を豊かにするからな」

「――――意外でした、貴方はその……そう言ったものを好ましく思わない人だとばかり」

「普段の言動からすればまぁ確かに、娯楽に興じる事を良く思わないと思われる事も無い事も無いな」

「正直、そう思っていました」

「まぁ……ここだから言うが、学校で規律だどうだと言うのは職務的にだ。自分の考えを人に強要するつもりはないし、そう言うものの扱いはその時々で変わる。それに学校から出れば、何をしようと自由だ。犯罪などの反社会行動でもしていなければ、俺は何も言わん」

「学園の貴方の人柄を知らない人達は、きっと貴方を規律順守のための機械に思っているかと」

「…………毎回そうだが、なぜ人を機械扱いする輩が多いんだ。失礼千万もいいところだ」

「きっと機械的な処理に長けている側面を見ることが多いのと、貴方は情で判断を揺るがせないからだと思いますよ。私はそう言う点を評価しています」

「役職的には当然の行動だ、普段から心がけているから特別な事でもない」

 風紀の取り締まり。恐らく最も生徒を相手にし、嫌われ役となる役職。同じ身分ながら取り締まりを行う存在に、人間は噛みつく事があるのは当然と言えば当然か。しかも彼は自分から進んで嫌われ者になろうとしている。きっと、私達とのあらぬ噂を立てる好奇心を湧かせない位にヘイトを生み、視線を逸らそうという魂胆なのだろう。私はそれを良く思っていないですが。

「ん……俺の話はいい。とにかく、俺はお前の趣味を良い物だと思う。浮世離れした関わり辛い同級生と言うフィルターはこれで消えた」

「あら、そんな風に思っていたんですか?」

「今だから言うがな。正直どう接したらいいのか迷う時はあった」

「普通に居てくれれば、結乃の様に理不尽に怒ることもありませんよ」

 まぁ、結乃も彼女の元々を知っていれば気色の悪いくらいの好意的姿に見えるが。ここは言わないでおこう。彼女の名誉のために。

「紅か……あれはどうすればいいんだろうか」

「それこそありのままでいるべきです。と言うか、私達にくらい自然体で接してくれれば良いと思いますが」

「それはお前もだろう檳榔子……と言っても、趣味となれば難しいか」

「えぇ、勿論」

「似たことをしているな」

「そうですね、似た者同士」

 私と彼の視線が合わさる。すると、どちらともなく笑った。私は久しくしていなかった、そして彼は今まで見た事の無い屈託のない笑みを。夜の空に溶かしていく。

「ふふ……まさか貴方とこんな風に笑い合う時があるとは思いませんでした」

「俺は笑わない人間だと思われていたのか?」

「正直」

「……そうか」

 顔にこそ出ていないが、彼の声色が若干柔らかくなった。今まで彼は鋼鉄でできた人だと思っていたが、考えを改める必要がありそうです。

「冗談です、貴方が時々笑っているのを見ていますので」

「お前が言うと冗談に聴こえないな……」

「ちょっとした意趣返しです」

 勿論、私の秘密を意図してないとはいえ暴いたことに対して。彼への対価の支払いは私としては納得いっていないが、彼の好意と受け取って終わりにしました。溜飲は下がった――――が、それでも彼の変な生真面目さによってこれが起こったのも事実。若干結乃の様に理不尽な事をしているようにも感じるが、少しくらいは許して欲しい所。そう、彼は私に何か用事が――――。

「そう言えば、私に用事とは何だったのですか? こうして直接追いかけてくるということは、可及的速やかにこなす用件が?」

「そう言えばそれを伝え忘れていた、バタバタして言いそびれる所だった」

 彼ははたと思い出した顔でこちらに向く。一体彼がわざわざこうして追いかけてまで伝えに来た用件とは――――。

「明日の放課後、半日授業なのは知っているな?」

「はい」

「ならばと思って、午後の時間を使って何処かで生徒会のメンバーで勉強会をすることになったんだが、お前も来るかどうかを聞きたくてな」

「………………は?」

「ん?」

「……それだけですか?」

「そうだが」

 思わず腰掛けていた手摺りから池に落ちそうになる。何とか体勢を維持しながら彼を見ると、私が落ちるのを阻もうとしたのか手が伸びてきていた。その顔は焦燥と困惑で染まっていた。私が何故それだけかと聞いた理由がわからなかったのだろうか。

「…………我妻さん、今の世にはスマートフォンがありますね」

「そうだな」

「…………それで連絡してくれればよかったのでは?」

「…………………………すまん」

「いえ…………悪意が無いのは分かっていたので」

 彼の事を優秀で頼れる人と言う評価で今まで見ていましたが、認識を改める必要があるのかもしれませんね。まさかそんな凡ミスで私の秘密が露呈してしまったなんて、偶然知られる事よりも釈然としない。言ってもどうしようもないので言いませんが。

「はぁ……」

「その、だな。急いで伝えた方が予定が立てやすいと思って、慌てて出たから、そこまで……思慮がいかなかった。すまない……」

「……いえ、その心遣いには感謝します。ですが、普段の冷静さを失わせない様に気を付けてください」

「……わかった」

 彼にしては珍しい、と言うよりも初めて見る落ち込んだ表情。眉尻は下がり、目は鋭さが消え伏せ目がちになっている。こうして近くで顔を見ると、クラスの女子が羨ましがりそうな睫毛の長さや通った鼻筋、男性にしてはさらりとした白銀の髪がよくわかる。普段の雰囲気がどうしても威圧的に見えるためわからなかったが、彼は顔がとてもよく整っているなと――――。

「…………なんだ、笑うなら笑ってくれ。その方が楽だ」

「いえ、そういう訳では……」

 何を考えているのだろうか自分は。彼の顔をまじまじと見る必要はないはずだ。ただ友人が珍しい表情をしていたから気になった、それだけでしかない。

「元気を出してください。とにかく私達の間のやり取りでやるべきことは終わったんですから」

「……そうだな、改めて礼を言う。妹に食事を出してくれてありがとう。卑しい人間だと思っているかもしれないが」

「いいえ、妹を想い普段から苦労されている貴方だからこそ、私も承諾したんです。なにより――――」

「なにより?」

 なにより、嬉しかったという事実があった。「私」の趣味を、学校での私を知っている上で認識し、それでも肯定して、同意してくれた。今まで孤立して、誰にも言えず、楽しさや喜びを共有できず、狭い部屋で閉じ籠っていただけの私を、彼は素直に認めてくれた。それが私には、何より嬉しかった。でも、言わない。恥ずかしいし、彼の落ち度が発覚したので素直に言うのはまたの機会に。

「なにより、今日は貴方が案外うっかり屋で抜けていると知ることができたのでイーブンです」

「…………頼むからあまり言わないでくれ。恥ずかしい」

「ふふ、いい顔が見られたので今は良しとしましょう。どうせなら仲良くなった印に、名前で呼び合いでもしますか?」

「お前がそうしたいなら好きにするといい」

「わかりました、では銀士郎さん。私の事は何と呼びますか?」

「檳榔子」

「から?」

「…………お前そう言うキャラだったか?」

「貴方に今更取り繕ったガワで接する必要がないですから。なにせ一番開示したくなかった私の秘密を凡ミスで暴かれたので」

「棘のある言葉の雨でヤマアラシになりそうだ」

「貴方もそう言う冗句を言うんですね?」

「昔はもう少しふざけた性格だった気がする」

「で、何と呼ぶんです?」

「……………………呼び方がそんなに重要か?」

「瑠璃や七望とは随分仲が良さそうで」

「ぐ……」

「さて、私は?」

「……いろは」

「はい、いろはです」

「…………覚えていろよ、いつかお前の得意なゲームで泡を吹かせてやる」

「お誘い、期待しています」

 正直、まさかその話題を出されるとは思っていなかったが、彼の言質で私はゲーム仲間を得られる。彼は私への意趣返しを目論める。良い関係になりそうだ。この関係は大事にするべきだと、ゲーマーの私が言っている。

 また首を中指で掻く彼を見て自然と笑みが零れてしまい、慌てて顔を戻す。夜も更けてきた、彼らを長居させてもいけない。そう考えていると、顔を逸らしていた彼が口を開いた。

「さて、良い時間になったしそろそろお暇しよう。長い時間世話になった」

「いえ、こちらこそ遅くまでありがとうございました。色々ありましたが、お互いのいい歩み寄りの機会になりましたね?」

「そう捉えておこう。俺もお前の意外な一面を知られて、お前としては不本意だろうがよかったと思う」

「ならば少しは飲み込めます。では千歳に家まで送るよう伝えてきます」

「いや、その必要は――――」

「それくらいはさせてください、客人を遅くに歩いて帰らせるなんて名が廃れます」

「…………わかった、頼む」

「はい、では玄関で待っていてください」

 私はそう言って、廊下の少し先に居た千歳に彼らを家に送る車を準備するように伝えた。そのついでに、彼へのサプライズも。





「いろは様」

「あら、千歳」

 彼らが帰宅してからしばらく時間が経過した頃、部屋で自習をしていた私に声をかけてきたのは侍女の千歳だった。

「今日は大変でございましたね」

「そうね、色々とありすぎて気疲れしてしまったわ」

「その割には楽しそうなお顔ですね」

「そう?」

「えぇ」

 そう言われたので手鏡を見る。そこには、うっすらと口角の上がった自分の顔があった。なるほどこの顔なら言われても仕方がない。

「初めて、私の「そういう」面を見て肯定してくれた人に出会えたからかしら。意図した訳ではないけれど、良いことも悪いことも一緒くたに来た感じ」

「我妻様と初めてお会いしましたが、いろは様のおっしゃられてた通りの好青年だと感じました。立ち振る舞いもそうですが、彼は今時珍しい芯のある青年ですね」

「なぁに千歳、気に入ったのかしら?」

「彼は私と似た匂いがしましたので、それにいろは様の数少ない素を知る友人になられましたから。私としても是非いい関係を続けて欲しいものです。いろは様は友人が少ないので」

「一言余計よ」

 事実だが。

「でも……ふふ、彼は可愛い所があったのね。ずっと隙の無い完璧超人の様に見ていたわ」

「実際、彼のプロフィール上ではそれで相違ないかと思いますが」

「近づいて初めて見えるものもあるってこと。幾分か彼との関わりが気楽になったのはこれからの生徒会でプラスになるもの」

「そうですね、明日の勉強会には参加を?」

「さっき連絡をしたわ、行くと」

「ではそのように把握いたします」

 そう言った千歳は、手元の手帳に予定を記し懐に仕舞った。千歳が覚えておく必要はあるのだろうか。

「ではいろは様、そろそろ良い時間です。お休みください」

「…………もうこんな時間なのね。明日は勉強会もあるし、寝ましょう」

「寝室の準備はできています、お仕度ください」

「わかったわ」

 椅子に座ったまま伸びをし、机上の筆記用具とテキスト、ノートを明日使う鞄に仕舞い込む。若干夜風のある渡り廊下を歩き洗面所へと向かう。夜空には、綺麗な月がこちらを見下ろしていた。

「お互いに上手く立ち回りましょう、銀士郎さん」

 誰にも聞こえない小さな声で、私はそう呟いた。




 それが昨日の顛末の全て。彼と私の間にあったやりとり。素を頑なに、意固地に出そうとしない者同士が行った、相互理解と言うには拙すぎるもの。でも、信用に足ると感じた相手に対し飾ることを止め、ありのままでもいいと肯定してもらえれば、肩の荷はするりと抜け落ちていった。今日の寝覚めは自分の秘密を知られた日の翌日だというのに随分すっきりとしていて、千歳がそれを見て小さく笑っていた。そんなに主人の変化が可笑しいのか。

 思考を緩やかな外の陽の光の様にゆらゆらと回しながら、私はホームルームが終わると同時に生徒会室に足を向けていた。理由は一つ。

「お疲れ様です、銀士郎さん」

 生徒会室の少し前、廊下を歩く見慣れた背が見え声をかけると、何時もの仏頂面ではない微笑みで彼はこちらを向いた。

「おう、び――――いろはか」

「まだ慣れませんか? 名前呼び」

「昨日の今日で無茶を言うな」

 こめかみに手を当てる彼の困惑した顔、それを横目に隣を歩く。半日授業であり既に家に帰るだけのはずの私が何故こうして生徒会室に来ているのか。理由は単純、彼含む生徒会メンバーでこの後に勉強会をするからだ。

 彼の話では、図書館で当初するはずだったそれは雪乃の提案によって彼女の自宅に変更になったらしい。確かにそれなら教え合う時の声も気にならず、人目も気にする必要が無い。恐らく彼も合理的だと判断したのだろう。

「今日はよろしくお願いしますね、学年主席さん?」

「……お前、本当に素はそれなんだな」

「他の方が居ればしませんよ、貴方だけです」

「そうかい」

 それだけ返す彼の距離感は、今まで雁字搦めに固定され圧迫感に辟易していた私には丁度良い心地だった。








 ――――時は少し戻り。

 夜も更けた頃、びんろ――――いろはの屋敷から帰ってきた俺と眞銀は、軋む扉を開いて自宅に戻ってきた。暗い部屋の電気を点け、互いに居間に座り込む。

「はぁ……美味しかったけど緊張した……」

「満足したならよかった、いろはにも伝えておく」

「うん、おねが――――うん? 兄さん、いろはさんの事名前で呼んでた?」

「半ば強制的に呼ばさせられた」

「ふぅん……」

「なんだ?」

「別に……あ、兄さん。これ厨房の料理長さんと千歳さんから兄さんにって」

「俺に?」

 眞銀が渡してきたいやに触り心地の良い紙袋。一体何だろうかと中を見ると、タッパーに入れられた見慣れない料理の数々。それが夕食を摂っていない俺へのものだと気付くのに、数秒かかった。

「…………要らん気遣いを」

「好意はありがたく受けとっておいた方が良いと思うよ。料理長さんも心配していたし」

「……明日、タッパーを返して礼を言うか。俺の分も」

「だね、温める?」

「あぁ」

 卓袱台を手摺りに立ち上がり、俺と眞銀はキッチンにある電子レンジに耐熱のタッパーを入れる。電源を入れ温めては入れ替えを繰り返し、幾つかある料理を卓袱台の上に並べた。

「いただきます」

「じゃあ私はお風呂入ってくるね」

「あぁ」

 眞銀が脱衣所に消えていく。俺は箸を取り、程よく味が染みていそうな里芋と蓮根の煮物に手を伸ばした。

「…………美味い」

 思わぬ料理のサプライズに、俺は静かに舌鼓を打っていった。久々の温かい家庭的な料理は、疲れた体と擦り減った心を優しく癒してくれた。

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