ドバイだかカタールだかに遠征した話

日本代表としての決勝戦。俺はカタールの地に立っている。


オイルマネーで潤っているからか?宿舎から眺められる街並みは綺麗だと思う。


しかしテロ対策とやらで外出は制限がされている為、国内の遠征先と何が違うのか分からない。


食事も同行してくれている管理栄養士監修メニューで、普通に豆腐や納豆が出てきた。俺は騙されてカタールではなく九州にでも居るんじゃないか?と彼女にメールした。笑ってくれた。半ば本気でそう思っていたのだが、彼女が喜んでくれているのは心が和む。




キックオフの前に、世界の何処とやらで起きた飛行機爆破テロの犠牲者に対して黙祷を捧げる事になった。


特に反発する理由は無く、黙祷した。


試合には普通に勝った。結果を彼女にメールで送った。


何故か既読が付かないが、まぁ彼女にも生活があるのだからと、気にも止めていなかった。






帰国前に、少しだけ観光できる事になった。


彼女にお土産を買えるのが嬉しい。最悪、羽田空港で謎の菓子を買うのを覚悟していた。


異国情緒を、と考えて目に留まったのがペアリングだった。


俺はゴールキーパーだから指輪はできないが、チェーンに入れて首からかければ問題無い。


買ってから思った。彼女の指のサイズが分からない。


まぁ、たぶん、Mぐらいだろう。買ったこの指輪がMかも分からないのだが。


俺が彼女の薬指にはめるのは…気恥ずかしいな。身に着けてくれればいい。


そう、チェーンに入れて首からかければ問題無い。







帰国し、マスコミに取り囲まれる。優勝したからか?


妙にマスコミの人数が多い気がする。


しかし「悲しみを乗り越えての~」や「捧げる~」とは何の話だ?


よく分からないが、近しいスタッフの皆の顔がやけに険しく、警備が厳重だ。


未だに彼女の既読は付かない。少し心配だ。スマホが壊れたか?









彼女が例の爆破テロに巻き込まれていたらしい。


機体は爆発四散し、遺留品等の回収は絶望的で。


また彼女の葬儀は密葬?で済まされているそうだ。よく分からない。


一体、何が起きたのだろうか?既読が付かない。彼女と連絡が取れない。










…今日は日本代表戦だ。海外でプレイしている俺だが、


召集を受けたら代表としてそれなりのプレイは見せるつもりだ。


久しぶりに羽田空港へ降り立った俺に、マスコミ共が群がってくる。


注目を受けるのは良い事だ。メディアに扱われスポンサーが付かなくてはサッカーも盛り立たない。


だからまぁ、そこは良い。





俺は辺りを見回した。


あの子は何処に居るのだろう?


俺は195cmある。人混みに囲まれても、周りを良く見渡せる。それなのに。


あの子は何処に居るのだろう?


俺は195cmある。人混みの中でも、俺は頭一つ以上抜きん出ているから、見つけられる筈なのに。


あの子は何処に居るのだろう?


俺は世界有数のゴールキーパーで、手足も長い。捕まえたら決して逃がさない。


あの子は何処に居るのだろう?


胸元のチェーンに触れて考える。早くおまえに、この指輪を渡したい。

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