第16話

「いいですか?これは天壁の壁よ。越えてはいけないわ、良いですね!」


ベッドに女の子座りしたメイリーがマコトに強めに言った。

このポンコツ吸血鬼、ベッドを二つ入れてもらおうと思っていたのだが資金面が危うすぎて辞めたのだ。

かといってマコトは下半身に忠実な獣、襲われかねない。

そこでわざわざ結界を張ってベッドに座っているのだ。


ちなみにマコトはゴロゴロと地面に転がっている。

残念ながらソファーなどない、元勇者それも差別されていたマコトは結構扱いが酷かった。

他の勇者が良いベッドで一人一部屋で寝ていたりする中、マコトは倉庫を部屋として渡されるのも慣れている。

なので地面に転がってひんやりとした地面を布団に腕を枕にして寝るのも良くやったので慣れている。


「流石にガキを襲わねぇよ、あいにくと俺にそんな性壁はない」


「性癖って...やっぱりあなたは危険ね、絶対に跨がないでね!こっちに来たらダメですからね!」


「はいはい、ガキンチョはとっとと寝ろ」


適当にあしらってマコトは腕を枕にして両目を閉じた。

家の普通のベッドにひんやりとしたユイが懐かしい、全人類母性には勝てないのだ、本当に安心できて良く眠れる。

何故今俺はこんな場所でゴロゴロしてるのだろうか。


せっかく魔王だって倒して世界だって平和にできる限りでしたはずなのに何故俺は今こんな場所で雑魚寝してるのだ。

ただでさえ次女の入学の申請とか準備したりしないといけないのに。

考えるだけでマコトは頭痛を覚えて溜息を吐いた。


今日は早く寝て明日に備えようと考えマコトは寝る準備を始める。

まず全力で寝ることだけを考える。

呼吸を整えて考えるのをやめる、そうすれば勝手に寝付いている。


マコトが騎士団の団長に教わった速攻の睡眠術。

戦場とかでは特に睡眠時間が限られるのでどれだけ睡眠を取れるかが重要になる。


すぐにマコトの意識が泥の中に沈むように思考が沈んでいく。

そして睡眠状態に入ろうといったタイミングで少女の呻き声が聞こえマコトの目が冴えた。

寝言だろうかとマコトは耳を澄ませる。


「お母さん...お父さん...」


苦しそうに呻き声を上げ胸を抑える彼女の姿を見てマコトは本当に面倒そうに溜息を吐いた。


「やっぱガキじゃねぇか...」


盛大に溜息を吐いてマコトは枕元のメモ帳を手に取る。

錬成術と魔術を掛け合わせ一時的な加護を付与した紙を作り出した。

安眠の効果が付与された紙を折り紙飛行機型にしメイリーが眠るベッドの下にマコトは投げた。

暗殺者という職業から模範した隠蔽術により紙飛行機は結界を悠々と越えてベッドの下に入り込み加護が少女に影響を与える。

直ぐに加護が悪夢を打ち消し安眠へと誘う。


これはあくまでミートパイの礼と理由をつけてマコトは今度こそ寝た。

明日から忙しくなるし疲れられてるのも困る。

それにほんの少し、ほんの少しだけ昔の自分に似ているようでマコトはとても気がかりなのだ。

面倒なことには変わりないが大人として助けてやっても良いだろう。

マコトは目を閉じて今度こそ眠りに入った。



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