第9話

「では質問を開始します」


真っ暗に閉ざされた部屋に座らされたマコトは魔道具の光に顔を照らされる。

先日の自称魔王軍幹部との接敵(おふざけ)から帰るとすぐに服を脱がされ風呂に入れられ食事を渡されあったかいお布団で寝かされたのだ。

そして朝六時ぐらいに起きて水を飲んでいたらこのような状況になった。


信条家には一つの暗黙のルールがある。

まず一つ目にマコトは六時前に家に帰るか連絡をよこさなければいけない。

そして二つ目は五つの段階に分けられた家庭内危機、そして一つ目のルールが破られた時が四段階目のヤヴァイ事態だ、主にマコトが。


今の状況は明らかに尋問か何か、慣れないカタカナ日本語を使うユイをマコトは微笑ましく見守る。


「貴方の誤ちをお答えください」


なるほど、一番最初の問題はとてもベーシックなものだとマコトは思った。

マコトの辞書には反省の二文字は無いので同じ過ちはいくらでも繰り返すし同じ方法で騙されても毎回わざとハマる。

どれを言われているのかわからないがまず一番の問題をマコトは言うこととした。


「百年間帰らなかった事」


「いっいや、それはマコトさんにも事情があったのでもう良いんです、すみません気を遣わせて」


「いや本当こっちもすまん、もっと考えて行動すべきだった」


日本人であるマコトに相手を気遣って優しくしてあげたいと思うユイ、この二人が喧嘩した場合それは喧嘩ではなく謝り合いへと変わる。

話の脱線を理解したユイは脱線した思考のまま口を開く。


「...この話はやめましょう、次です。貴方の奥さんの好きな所は?」


「誰にでも優しくしてやれる所、ダメな時は叱ってくれる所、本当に辛い人間を助けてやれる強さ、こんな俺を好きになってくれた事も全部好きだな」


即答ーー一切の迷いもなくマコトは返答した。

優しさに飢えていたマコトは強いて言うならユイを自分よりも優先して考えていた。

誰一人として優しくしてくれず、誰一人として存在を認めてくれず、誰一人として信用してくれなかったあの頃に手を差し伸べて大丈夫の一言をかけてくれた。

それだけでマコトは大分救われた。

異世界に来て初めて優しさというのに触れて醜くも泣き疲れて眠ってしまった。

その後も本音で無事に戻ってきたことを安心してくれた、自分を気にしてくれた。


全て、全ての行動が今のマコトを作り出してると言っても過言ではなかった。


「ん?どうした?」


「なっなんでもありません。貴方は奥さんを何番目に好きですか?」


そうこの問題が一番難しい。

答えは決まっている家族だ。

だが娘と嫁、どちらかを順番づけして選べと言われればそれは不可能。

この問題を聞かれたときどう返答するかでマコトは三日徹夜して答えを導き出した。


「世界で一番好きだな」


「マコトさん、とりあえず好きって言っておけば良いと思ってませんか?」


「な訳ないだろ?百九年前に今までの感謝とか好きだって事を伝えられなかったことが本気で嫌だったんだ」


「でも私が寝込みを襲った時はーー」


「いや童貞さんに何言ってるのさ、こんな美人でそれも一番好きな女性が寝込みに入ってきて行為をしようとしてきたらされるがままになるでしょ...」


「びっ美人さんてそんなおべっか言っても夕飯は増えませんよ!」


顔を真っ赤にして目を逸らす姿をマコトはにこやかに見る。

こう言う時間、本当に平和でくだらないことを楽しくできる時間、自分が馬鹿やったのは多分この時間を味わいたかったのだとマコトは思った。


「まっまぁ百歩譲ってお昼にはマコトさんが好きな卵焼きを作ります、楽しみにしててください」


「(ありがとう)可愛い尊い」


心の声と言葉が入れ替わってマコトは真顔で言う。

尊いと言う言葉を作った人間は天才であり、やはり可愛いを絶対正義と定義した某ライトノベルは最高だと思う。


「真面目にやってくださいよ...じゃあ最後に一つ。マコトさんは私を恨んでませんか?」


想像の斜め上をいく質問にマコトはたっぷり三秒硬直し条件反射で口を開く。


「は?」


「すみません、変なこと言っちゃいました。忘れてください」


「いや、すまんすまん。真面目な質問だよな、どう思ってそう聞いたんだ?」


「その、私が寝込みを襲ってしまったからマコトさんが頑張りすぎて死んじゃったのかなって思って」


心の底から申し訳なさそうに俯くユイにマコトは全力で笑いを堪える。

今笑えば完全に話が台無しだ、この誤解は今解いとく必要がある。


「あのな、俺はユイが居てくれたおかげで今も生きてる。恨むなんてないし寧ろ感謝してもしたりないぐらいだ。お前があの時シタから俺はアイに会えたんだし、ユキにも会えた、そして何よりユイに嫌われてないってわかって本当に嬉しかったんだ」


どんなに優しくされてもそれが本当か疑心暗鬼になっていた、だがその愛情を感じてマコトは自分が成長できたと思っていた。


「人間誰が友達かわからないように、誰が好きで誰に好かれてるかなんてわかんないもんなんだよ。特に友人なんて自分が思っていても相手がそう思ってるとは限らない、かといって恋人だったらわかるってわけじゃないし今こうやってユイと夫婦として一緒に生きていけることが何より幸せだと思える。それが事実で現実の結果として俺は今本当に幸せ者だ」


「大分病気でしたもんね、マコトさん」


「病気ってなんの話だよ、俺生まれてこのかた一度たりとも病気にかかったことないぞ、記憶の中では」


「いや本当は誰もが成長過程でその病気を克服するんですよ。誰が自分に好意をを向けてくれてるのか分からず疑心暗鬼になってしまう、愛し方も愛情の受け取り方もわからない、そんな思春期の若い子だけが患う病気ですね」


「はっ違いないな...てか俺さっきからめちゃくちゃ恥ずかしい事口走ってる気がするんだが」


状況に流され愛してるだとか幸せだとか、世界で一番好きだとか。

マコトの脳裏に隠された黒歴史ノートに一ページの追筆が確かになされた。

確かに言えなかったことを後悔したし恥ずかしがること自体失礼だとも思うがやはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「良いんですよ、人間言葉で伝えないとわからないことの方が多いんですから」


「もう殴り合って伝えることは伝えたもんな」


「忘れてください...」


「いや本当最後の言葉を録音して寝る前に聞きたいぐらいだわ」


「やめてください...」


「そして街中で嫁に対する愛を叫びたいレベル」


「本当にやめてください!!ご近所さんにただでさえそういう・・・・感じで見られてるんですしこれ以上近所のお姉さん方にニヤニヤ顔でシモの話をされるのは複雑なんですよ!」


「おっご近所さんと仲良くやれてるなんて...さすが良くできた嫁、というか働きすぎてないか?家事変わろうか?一応一人暮らしだったから出来るし」


「大丈夫ですよ、それよりも薬草どうしたんですか?」


薬草、それは薬剤となる植物。

マコトが自然奉仕してちょこっととって帰ろうとしたもの。

結局怪我人がいると聞いて血相を変えて行ってしまってすっかり木の幹に隠したのを忘れていた。


「やっべ...ちょっと取りに行きたいんだが...その...」


先日も思ったのだが確か一番最初に二人で出かけたのはあの森だったはず。

それで情に動かされて森の再生活動なんか誰にも感知されない馬鹿なことをしてしまったのだ。

そして最近二人で出かけたことが無いことをマコトはちょっと考えていた。

はっきり言って夫婦になったまでは良い、二人の合意の上で解り合って本当に好きでしたのだ。だがいろいろ忙しくそういうのを一度しかできていない。

普通のカップルとかそういう感じの事をやってみたいとマコトは心の片隅で確かに考えていた。

だがこうやって面と向かって話すとなると妙に気恥ずかしくなる。

今自分はデートを人生で初めて誘おうとしているのだ。

考えろ信条マコト、推定二十九歳非童貞。


「そっその!」


「はいなんですか?」


この笑顔、絶対バレてる。

今までさまざまな顔を見てきたマコトには確かにわかった、自分が何を言おうとしてるのか彼女にはモロバレだと。


「デッデー...出掛けないか!?」


最後に日和ったな、マコトにはそんな声がどこからか聞こえた気がした。

デートというのは男女が一緒に二人で出かけるというもの、ならば出掛けるで正しいのだ。

わざわざデートというから恥ずかしいのであって出掛けるといえばそこまででもーー


ぐいっと顔を近くに寄せたユイの整った顔に心拍が早くなりマコトの思考は完全に途切れる。


「顔真っ赤ですよ、マコトさん」


「うっうるしゃいわい!!」


この嫁にはまだ勝てないとマコトはつくづく思った。

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