文字を使うだけのバイトテロ

ちびまるフォイ

これ以上なにがしゃべれるのか

「では、これからはあなたは10000文字を消費してください。

 消費できましたらこちらでもそのぶんの報酬をお支払いします」


「がんばります」


友達に楽だと進められた文字消費バイトにやってきた。


「あなたの発言、文章などあらゆるあなたの言葉がカウントされます。

 請け負った分の文字は必ず消費してくださいね」


「大丈夫ですって」


「ではお願いします」


バイトが始まると頭の上に文字が表示された。



残り文字数:10000文字



「あああああああ」


さっさと消費してしまおうと同じ文字を喋ってみたが減らなかった。

同じ言葉の羅列はダメらしい。


「おはよう」



残り文字数:9996文字



声に出しただけで文字は減った。

この調子で普通に過ごしているだけで文字数は減っていく。

俺はおしゃべりな方だから10000文字を話すだけで十分達成できる。


数時間もしないうちにすべての文字数を消費しきってしまった。


『文字を使い尽くしました。報酬をお支払いします』


バイト先に戻ると、本当にバイト代が出てきた。


「こんな簡単なことでお金もらって良いんですか?」


「簡単かどうかは人それぞれですから。次もやりますか?」


「もちろん!」


また10000文字を手に入れた。

さっきの消費であらかた話し相手は使ってしまったので、

今度は日記や文章を書くようにしはじめた。


熱中して文字数のことなんか忘れたころにまた連絡が来る。



『文字を使い尽くしました。報酬をお支払いします』


バイト先に戻ると茶封筒が待ち構えていた。


「お疲れ様でした。素晴らしいですね」


「こんなの簡単ですよ」


「次もやりますか?」


「ええ、もちろん。でも次は30000文字で」


「かしこまりました。今日中に必ず消費してくださいね」


いちいち10000文字ごとに戻るのもめんどうくさいので、

まとめて30000文字を使って報告するようにしたほうが効率的だ。


夜には立て続けに飲み会を開催し、意味のない会話を行った。

一度使った言葉じゃなければカウントされるので飲み会は非常に効率的。


中身がなくても話し続けられるから消費が進む。



『文字を使い尽くしました。報酬をお支払いします』



ちょうど飲み会が終わったころに連絡がきた。


「お疲れ様でした。今回のバイト代です」


「おお、10000文字を3回やるよりずっといいじゃないですか!!」


「はい、まとめて行うほど報酬は高くなるんですよ」


「じゃあ次は……10万文字にします!!」


「かしこまりました。では今日中に使い切るようお願いします」

「余裕ですって」


ちょうど日付が変わったところだったので時間の余裕はある。

俺の宣言通り、昼近くになると10万文字は使い切っていた。


「すばらしい。これだけの文字数をこんな短時間で」


「実は俺、ラジオやってるんですよ。だからいつも話し続けているから

 10万文字なんてあっと言う間です」


「次はどうしますか?」


「20万で」

「かしこまりました」


次の日から20万文字を消費するために意識的に言葉を喋っていった。

20万文字も夕方には達成できたので、まだまだ余裕がある。


「次はいかがしますか? 明日からのぶんです」


「30……いえ、50万で!!」


「かしこまりました。必ず消費できるようお願いします」


「これくらい余裕ですよ。意識的に言葉を使えばなんてことないです」


息巻いていた俺だったが翌日に風邪を引いて寝込んでしまった。

こうなってしまってはラジオで話すこともできない。


「ぜぇ……ぜぇ……これはまずいぞ……。

 このままだと今日のぶんの言葉を使い切れずに終わってしまう!」


ぼやける頭で必死に文章を書こうとするが、頭がまわらない。

日記を書くにもネタはないし……。


「そ、そうだ! 音読しながら書けばダブルで消費できるはずだ!」


俺は適当なサイトを見つけるとそれを読んで音読しながら、

手元でまったく同じ文章をコピーして書き続けた。


やっと文字数は減り始めた。

これなら頭も使わないし文章に詰まることもない。


今できるのはこれしかない。


ふらふらする頭で必死に書き続けていると、家のインターホンが鳴った。


「ちょっと! さっきからお経みたいに怖いんですけど!!」


「あなたはお隣の……」


「なんの宗教ですか。同じ文章を呪文みたいに唱え続けて。

 本当に怖いしうるさいんでやめてください」


「お、同じ文章……!?」


隣人を放置して自分が書き記していたはずの紙を手に取る。

そこには同じ文章がなんどもなんども繰り返し記載されていた。


意識がもうろうとしていたことで俺はずっと同じ文章を叫び書いていたらしい。


「そ、それじゃ……」


鏡で自分の残り文字数を確認する。

絶望的な桁数を見て背筋が冷える。


「うそだ……俺はちゃんと消費していたはず……」


「とにかく! もう気持ち悪いお経は叫ばないでくださいねっ」


隣人が去ったあとも玄関で放心状態だった。

もはや文字数を消費する方法を考える余裕もない。


気がつけば、翌日になっていた。


ついに文字数を消費することはできなかった。

文字数が残ったままの表示が切り替わる。


 ・

 ・

 ・


昨日、怒り任せに隣人に怒鳴り込んでしまった。

これからの関係もあるし言い過ぎたかもしれない。


「昨日はちょっと言い過ぎたななぁ……謝っておこう」


男が外に出ると、ちょうど隣人が部屋から出てきた。


「いやぁ、昨日は感情的になってしまってすみません。

 今度から気をつけてくださればもう大丈夫ですから」


「……」


「……あの? もしかして、怒ってますか?」


隣人は顔を横にふった。

そして悲しそうに去っていった。


その頭の上には十字架のように文字数の表示が出ていた。




使用可能文字数:3文字

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