Ⅱ-2 ファーストフライト
翌週、カゲロウと和は、フウチョウ達と共に空港に向かった。スパリゾートジャパリアンズがある場所は、リウキウエリアだ。ジャパリパークは広大なので、単なる園内の移動手段であっても、れっきとした交通機関としてバスや鉄道、航空機が存在する。
「カゲロウ、ワレワレがこれからノる、ヒコウキというものはどんなものだ?」
「空を飛ぶ乗り物だよ」
「ソラはワレワレもトべるぞ」
「おめーらとは比べ物にならねーくらい高く飛べるし、速いの」
間も無くして、搭乗手続きが始まった。カゲロウが、搭乗券を二人に渡す。そして、ゲートの前に並び、順序良く、改札機に搭乗券を通していく。カゲロウは自分が搭乗券を通すと、二人の方を見た。二人は少しぎこちない様子ではあったが、カゲロウがやったように改札機に搭乗券を通した。搭乗券が吸い込まれる時に、二人が少し驚いた様子をしていたのが、カゲロウは可笑しかった。和もそれをみて、クスクス笑っていた。
飛行機に乗り込み、指定された座席に座る。丁度、真ん中の区画の四人がけの座席に、カゲロウ、カンザシ、カタカケ、そして和の順に一列に並ぶ形になった。
「窓際じゃなかったか。残念だな」
カゲロウは、フウチョウ達に飛行機からの景色を見せてやりたかったが、それは叶わなかった。カゲロウは、シートベルトを締めた。それを見てフウチョウ達は不思議そうにしていた。
「カゲロウ、それはなんだ」
「あ?シートベルトだよ。俺の車にもついてるだろ?」
「クルマと同じでシートベルトがないとアブないのか?」
「まあな」
「だがカゲロウのクルマのよりヨワそうだ」
確かに。とカゲロウは思った。カゲロウの車のシートベルトは三点式だが、飛行機のシートベルトは二点式だ。フウチョウ達はそれが気がかりなのだろう。カゲロウは、ちょっとからかってやることにした。
「そうだ。俺の車のシートベルトよりよえーんだ。だからしっかり締めて大人しくしてんだぞ。じゃねーと、あっという間に外に放り出されておしまいだぜ?」
それを聞くと、フウチョウたちはそそくさとシートベルトを締めた。
間も無くして、機内での安全の為の解説ビデオが流れ始め、飛行機はゆっくりと滑走路に向かって動き始めた。
滑走路に入ると、ジェットエンジンからの轟音が機内に響き始めた。フウチョウ達は、動揺した。
「カゲロウ?なんだこのオトは?」
「なんのナキゴエだ?」
「ジェットエンジンの音だよ。ほら、大人しくしてねーと舌切りスズメならぬ舌切りフウチョウになるぞ」
カゲロウがそう言うと、飛行機は滑走路の上で猛スピードで加速を始めた。座席の背もたれにグッと体が押し付けられるのを、四人は感じた。カゲロウと和は飛行機には何度か乗っているので特に何ともなかったが、カタカケとカンザシは目を見開いたまま、肘掛にしがみつくようにして座っていた。
やがて、飛行機はフワッと滑走路から浮き上がり、上昇を始めた。
それからしばらくして、機体は水平になり、アナウンスが流れ、シートベルト着用のサインが消えた。
「よし、着陸前まではシートベルト外しても大丈夫だぞ」
カゲロウは、フウチョウたちに向かって呼びかけた。だが、返事がない。二人とも、目を開けたまま、背筋をピッタリと背もたれにつけ、左右の肘掛をガッチリと両手に掴んだまま、固まっている。
「ねぇ、大丈夫?」
和が、カタカケの肩を揺さぶった。すると、カタカケはひとつ大きく身震いをすると我に返った。その時に彼女の体が隣のカンザシにも触れ、カンザシも同じようにして我に返った。
「どうなった?」
カタカケとカンザシは、カゲロウに訊いた。
「どうなったって、飛んでるに決まってんだろ」
「失礼致します、お客様」
キャビンアテンダントが、カゲロウに声をかけた。
「あ、すんません、うるさかったっすか」
「ああ、いえ。そちらのフレンズのお客様お二人は、飛行機に乗られるのは初めてでいらっしゃいますか?」
フウチョウたちは、無言で首を縦に振った。
「ええ、そうなんすよ。元が鳥なうえに、飛ぶのは当たり前なクセにビビっちゃってて」
「ビビってなどいない」
「オドロいているだけだ」
それを聞いて、キャビンアテンダントは微笑んだ。
「お客様のお席は窓際ではありませんから、景色が見えない分、不安に思われるかもしれませんね。よろしければ、少し外の景色をご覧になりますか?」
キャビンアテンダントは、そう言うとフウチョウたちに、自分についてくるように言った。フウチョウたちはまだ、不安そうな様子だった。
「ほら、せっかく見せてくれるって言ってんだ。見てみようぜ、きっといい眺めだぞ」
カゲロウがそう言うと、フウチョウたちはゆっくりと後をついてきた。キャビンアテンダントは、自身が腰掛ける、非常扉の横にある小型の予備座席の前まで、三人を案内した。
「ちょっと小さいですけど……こちらからどうぞ」
キャビンアテンダントは、フウチョウたちに、非常扉の小型の窓を覗くように言った。二人は恐る恐る窓の外を覗いた。
その先には、青々とした海が、太陽の光に照らされて輝きながら、一面に広がっている。時折、白い雲が、その上を横切っていく。フウチョウたちは、その景色に思わず、声を漏らした。
「スゴいな」
「ホントウにトんでいる」
「ワレワレがトぶよりずっとタカい」
「それにずっとハヤい」
二人はしばらく、その小さな窓の外の景色に釘付けになっていた。カゲロウはその様子を見て、キャビンアテンダントに礼を言うことにした。
「なんかすんません、気を遣ってもらっちゃったみたいで。ありがとうございます」
「いえ、一人でも多くのお客様に、飛行機での空の旅を楽しんでいただきたいので。特に、飛行機をご存知ないフレンズのお客様には」
キャビンアテンダントは笑顔でそう答えた。
「そういや、アテンダントさんもフレンズっすよね」
カゲロウは、キャビンアテンダントの背中に生えた尻尾と、頭に生えた翼がずっと気になっていた。
「申し遅れました。私、客室乗務員のリョコウバトです。ご搭乗、ありがとうございます」
キャビンアテンダントはそう言うと、ゆっくりと、綺麗なお辞儀をした。
「そうでしたか。こちらこそ、どうもありがとうございました」
カゲロウもお辞儀を返すと、再びフウチョウたちの方へ向き直った。二人はまだ、窓の外の景色に夢中になっている。楽しそうだし、しばらくそっとしておいてやるか。カゲロウはそう思った。
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