12
「さて、行くか」
「はい」
アリスと共に紀伊さんのマンションへと向かう。
双葉と浩介はすでに向かっている。片付けは時間がかかるという判断で授業が終わって即座に向かった。
一緒に行く選択肢もあったが、俺たちは有村と一緒に紀伊さんを迎えに行ってから出向くことにしたのだ。
体調がどうなったかも気にはなるし、有村を一人で行かせるのも不安があったのでそうしたが、昨日とは違い元気そうであった。しっかりと休み、軽い散歩で体を動かして万全に整えたようで有村を引っ張ってさっさと行ってしまったのだ。
それだけ、早く調べたかったのか。有村の願いを早く叶えようとしたのかは不明だ。
とは言え、
「有村。羞恥心で萎縮しないといいけどな」
「まぁ、由里ちゃんだから」
願い事の想像はついているが、当人同士の問題になるので温かく見守るしかない。
現状空回り感があるので頑張って欲しい気持ちは多い。浩介の苦手意識さえ薄れれば……いや、それでも難しいか。
長いこと一緒に居るせいで一歩踏み出すよりも今の関係を続けようとしてしまっている。だからこそ、他の子に手を出そうとしたり、アニメに逃げたりしているのだろう。
不安なのだと、信じたい。
浩介の気持ちは、浩介にしか分からないからな。
「兄さん」
「早いな」
考え事をしている間に到着してしまう。マンション内に入り、目的の部屋へと向かう。
「隣が、気にはなるがな」
「姉さんを信じましょう。不安ですけど」
「俺も不安だよ」
昨日紀伊さんに託された為に、無茶をしている可能性もゼロではない。現在進行形で喧嘩しているかもしれないので、下手な行動も出来ない。
課せられた使命を全うしよう。
「相手。頼めるか?」
「はい。大丈夫です」
むんっと気合いを入れてインターフォンを押した。
相手は女性である。俺が話しかけるよりもアリスが話した方が安心だろう。
俺が一緒に居るのは、単純に昨日見ていたから紀伊さんの知り合い認定されているはずとの算段で、だ。
アリスと双葉は似ているけれど、一部分で大きく差があるから別人だとすぐにバレてしまう。
詰め物しているなんて言ったところでなんでそんなことをするのかとおかしな方向に話が飛びかねないので、保険は必要だろう。
「こんにちは」
反応が無かったために、二度目のインターフォン。声もかけてみるが中からの反応はない。
顔を見合わせる。
もしかしたら外出中なのかもしれない。だとすれば、困ったな。探すアテがあるわけでもないので、ここで待つことになってしまう。
どうするか……
「はいはい。全く。誰?」
考えていたら扉が開いた。
中から現れた妙齢の女性。寝起きなのか半分閉じた目でこちらを見つめる。
そして、その姿を目撃した俺は……
「待て待て待て!!」
視線逸らした。
下は何も履かず、上もゆるゆるのTシャツ一枚。体を斜めにしているせいで緩くなった首回りから中が覗けてしまう。
美人ではあるのだが、ガードが緩すぎて怖い。危険度がマッハで駆け上がる。
思春期男子高校生には目の毒でしかないわ!!
「兄さんは後ろを向いていてください」
「逸らしてるぞ」
「後ろを! 向いていて! ください!」
強い語彙で言い含められ、後ろを向いた。まるでチラチラ見るかもしれないと思われているようである。
まぁ、確実に視線はそっちに少しずつ動くけど。
「誰?」
「初めまして。アリスと申します。隣の部屋に住む三笠 紀伊さんの代理で来ました」
「ああ。あの人形みたいな子の代理ね。それで、何か用なの? 眠いんだけど」
「ここ一週間ほど隣の部屋に住んでいる人のことを聞きたくて参りました。後、紀伊さんに何か変化が無かったのか知りたいので」
「知らないわよ。面倒くさい。あんな人形どうでもいいもの。変に突っかかるから文句は言いたいけどね」
イライラとした声に眉を顰める。
そもそも、紀伊さんに対して人形ってどういう意味なのだろうか?
眠いからイライラしているのはわかるけれど、それ以上の不満も感じられた。
「もういい? 私は眠たいの」
「じゃあ、最後に一週間前。紀伊さんとは会いましたか?」
「会ったわよ。虚ろな目をして本当の人形になったんだって思ったくらいよ。返事もなくて気持ち悪いくて仕方なかったわ」
「その時のことを詳しく……」
「知らないわよ。もう、私に関わらないで」
バタンと力強く閉められ、ガチャと鍵まで掛けられてしまった。
「すいません。兄さん」
「別にいいよ。俺が話しても情報は仕入れられなかったろうし」
手に入った情報は、東院さんは紀伊さんを毛嫌いしているという事と一週間前の段階で目に見えて様子がおかしかったことだけだろう。
それでも、ゼロよりかはマシなはずだ。
何らかの影響を受けていた可能性が高いことが分かっただ。
他の聞き込みもしてみよう。何か情報があるかもしれない。
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