11

「それで、これからどうするんだ?」


有村と合流し、アリスの準備していたご飯を食べながら今後の予定を考えることにした。

ニコニコと俺たちの食事を眺める紀伊さんに視線を向けないように双葉に話を振る。


「そうね。確定しているのは、片付けくらいかしら。情報収集も必要ではあるけど、取っ掛りがないわね」

「情報収集ですか。わたくしでは力になれないでしょうか?」

「寝る直前に何があったのかを思い出せるのでしたら、協力を仰ぎますけど?」

「覚えていませんね」


事も無げに返答される。

そう。紀伊さんが寝込んだ原因については、当人ですら把握していなかった。前後の記憶が曖昧なのだそうだ。

普通のことではないことから、何らかの力が働いていることだけは確かである。ただ、それが仮面と関係するのかどうかは未だに不明。その辺を調べようにもユイさん以外に問いを投げられそうな人が居ない。


「でしたら、紀伊さんは回復に専念してください」

「仕方がありませんね。では、わたくしから出せる情報をお聞かせします」

「それあるならさっさと言ってくれよな。出し渋りは無しだぜ」

「こういうものはタイミングがあるのですよ。いきづまるまで考えることも時には重要です。そこに光を照らす情報をわたくしから提出しますね」


何らかの取っ掛りがあるなら助かるな。無闇矢鱈に聞いたところで欲しい回答が手に入るかも分からないわけだしな。


「まず、寝る前のわたくしを知りたいのでしたら、お隣さんに話を聞くのが良いかと」

「ああ。あの美人で目つきの鋭いお姉さんか?」

「はい。その人で合っていますよ。色々と付き合いがありますので、わたくしのことも何かしら知っている可能性があります。名前は東院とい実咲みさきさん。面白い方ですので、しっかりと相手をしてくれると思いますよ」

「思いっきり睨まれたんですが?」

「可愛いですよね」


うふふと笑っている。

いや、睨まれて可愛いとは思わないんだけど?

人となりを知らないと話にならないな。そこら辺はちゃんと向き合わないといけない所だろう。


「他に何かありますか?」

「はい。こちらは、由里にオススメの話です」

「あたし。ですか?」

「はい。そうですよ。わたくしの大学で噂になっているのです。願いを叶える魔女が居ると言う噂です」

「願い……」


有村が小さく呟くが、俺たちには願いどうこうよりも問題となる部分があった。

それはもちろん。


「紀伊さん。魔女ってどういうことですか?」

「魔女は魔女ですよ。ただ、相談に行けば自然と解決するためにそう呼ばれているそうですので、わたくしも詳しくは知りません。噂を聞き、調べようと腰を上げた直後に、このような事態になりまして」


俺たちの探している魔女であるかは不明だ。

しかし、相談に行けば解決するってどういうことなのだろうか?

元々解決しやすい相談しか受けないか。あるいは、別の要員が原因か……判断が難しいな。


「なんで、あたしにオススメなんですか?」

「ふふふ。解決したい問題。あるのでは無いですか?」


視線が浩介へと向かう。

言いたいことをそれだけで判断したのか有村は下を向き、理解することのなかった浩介は首を傾げている。


「だからこそ、オススメなのです。いかがですか?」

「双葉……」

「はいはい。由里はそれをお願いするわ。ただし、サポートを付ける余裕は無いわね。浩介は私が借りていくし、白兎とアリスも聞き込みをしてもらいたいもの」

「わたくしが同行しますよ?」

「むしろ、着いていきたいって感じだな」

「ええ。もちろんです。噂の検証をして、論文にまとめるつもりですから、ちょうどいいかと」

「由里。頼めるかしら?」

「うん」


頼めるか。

それは、情報収集と同時に紀伊さんのことだろう。まだ体調が万全ではないのだ。無茶はさせられない。本当ならば寝ていて欲しいと言うのが本心だろうが、必要なことであるとされたならば受け入れるしかないのだろう。

やっぱり、紀伊さんにはみんな弱いな。


「なら、やるべきことは決まったわね。私と浩介は紀伊さんの部屋を片付けるわ。そして、ユイさんに探りを入れる」

「へーい」


片付け役は確実に浩介だな。文句を言わないのは、言ったところで却下されるのが目に見えているからだろう。


「白兎とアリスは東院さんを当たってちょうだい。まぁ、他にも居そうならそっちでもいいわ。情報収集。お願いね」

「姉さん。いいんですか?」

「いいのよ。こっちに白兎は必要無いもの」

「分かりました」


双子だからこそ何か思うところがあるのだろう。

まぁ、いつもは隣に立てと言うのに離したから疑問に感じただけかもしれない。

俺としてもこの采配に文句はない。一つのところにまとまるよりも手分けするべき事だからな。


「なら、明日の放課後から行動開始ね。紀伊さんにしたことに対する報いを受けさせましょう」

『 おー!!』


平凡だった俺たちの日常に重い一石が投じられた瞬間であった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る