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しばらく近寄ろうと奮闘していたが、空気を察したのか距離を置いてくれた。

ただ、口元に指をつけて思案顔をしているので納得はしていないのかもしれない。


「それで!! わざわざ未来から来たアイは、あんなところで何していたのかしら?」

「つまんない。つまんない。つまらないわ」

「はい?」

「だって暇だったもの。ずっと、ずっと、待ってたのに、全然来ないもの。せっかく世界の終わりを確認してから来たのに、どうしてすぐに来なかったの?」


手をパタパタとさせて双葉に抱きついた。

俺がダメならそっちに、と言う思考なのだろう。うんざりした表情を浮かべていることから凄く嫌そうである。

とは言え、こっちに矛先が向かないのであれば今はいい。ただ、放置していたら先ほどのようにいきなり爆発しかねないので、ほどほどのところで止めるとして、先に情報収集だ。


「どのくらい待ってたんだ?」

「世界が二週ほどしたわ。ずっと、立ってるのつまらないの。つまらなかったわ。悲しくなったの。だから、木に登ってたの」

「時間がズレたのか?」

「知らないわ。分からないわ。意味無いのも」


詳しいことを聞くのは無駄のようだ。白兎の力で来た俺とは別方面でやって来たことでズレが生じたと考えるのがベストなのだろうけど……腑に落ちない。

特に、アイがここで大人しく待っていることが不思議だ。


もしもズレて辿り着いたのであれば、色々な所を巡り、自由気ままに過ごしていたことだろう。なのに、木の枝に座っていただけ……俺の見てきたアイは、そんなことをしない。


ならば、このアイが偽物なのかと言うと……そんなことはないだろう。あの時別れた直後のアイであるとは思う。確信なんてないけれど、それを正しいと思えてしまう。


だとしたら、どこで時間がズレたんだろうか?


「白兎」

「なっなんだ!?」

「いい加減。この煩いのを引き取ってくれないかしら?」

「うわっ!?」


双葉の胸元でスリスリと頬を動かし、ペタペタと体中を触りまくるアイの姿がそこにはあった。

年下のように見えるからか、下手に引き剥がそうとはしない。だからこそ、こっちに怒りを向けている。


爆弾処理失敗!!


そもそも、処理班出動するのすら忘れて思考に更けていた。ヤバいヤバいと、アイを引き剥がす。


「なにやってんだよ」

「女王様と似てるのに、似てないわ。不思議ね。不思議よ。あの膨らみが無いの」

「あら、そんなことを言い出すの?」


ヤバいヤバいヤバいヤバい!!

未来のアリスを知っているからこそ、触れてはいけない話題に突入してしまった!!

絶対気にしていると思ったから未来のことには触れてなかったのに!!


「兎ちゃん。兎ちゃん。女王様と帽子屋さんの関係が知りたいわ。いいかしら。いいわよね。いいでしょう?」


ブンブン首を横に振るが、にこやか笑顔で殺気を振り撒く双葉は、一歩。また一歩と近づいてくる。


違う。俺は悪くない。悪くないのに、殺気を向けるのは止めて!!


「アイ。アリスの居る場所。知っているのかしら?」

「知ってるわ。知ってるわ。知ってるわ!! さっきまで一緒に居たもの。でも、さっきの女王様は同じ体だったわ。触れれば良かったわ」

「ちょっと待て!!」


触れるうんぬんはどうでもいい。だが、聞き逃せないことを平然と言い出した。


「アリスと一緒だったのか?」

「そうよ。そうだわ。その通りよ!! だって暇だったもの。お母様とのーんびり過ごしてたわ」

「そこに案内してくれ」

「無理よ。無理だわ。面倒だもの」


即答された。

しかも、その理由が面倒。面倒ってなにさ面倒って。それなら、無理だけでよかったのに!!


「でも、帽子屋さんなら大丈夫よ。大丈夫だわ。楽しいところへ行きましょう!!」

「嫌よ。あなたと二人なんてまっぴらね。私の白兎と一緒なら考えるけど?」

「兎ちゃんは兎ちゃんよ? 帽子屋さんのじゃないわ。そうでしょ。そうよね?」


ムッとしたのか、頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。

正しいことを言っているのだが、周りにはそのことを言うような人が居なかったからな。

基本的に囃し立てるような人ばかりだったし、だから増長したんだろうけど。


「兎ちゃんは兎ちゃんを元気にしないとダメなの。無理なの。でも、面倒だから無理なの。無理でしょ?」

「白兎の仮面が必要ってことか……」


パタパタと手を振りながらコクコク頷くアイを見るに、それは正しく。同時に難しい状況なのだと分かる。

先ほどのように少し力を貸す。とは違うのだ。そもそも、力を貸してくれたのかも分からない。ただの偶然である可能性もゼロではないので、真相は白兎の仮面が戻らなければ知るよしもない。


「ふーん。それで、方法はあるの? ないの?」

「あるわ。あるのよ。すごっいのがあるの!!」

「それを教えなさいな」

「三月兎よ!!」

「はい?」


三月兎……って確か、


「アリスの、仮面か?」

「何を言っているの。アリスの仮面は女王でしょ?」

「違うわ。違うの。違ったのよ。女王様は、お母様からのプレゼント。本来は、三月兎なのよ!」

「つまり、アリスに会って。仮面を使ってもらえたら……白兎は元気なるのか?」

「そうよ! その通りなのよ!」


頭を抱えた。

アリスが居ると思われる場所に行くのに、アリスが必要なんてどうすればいいんだよ。八方塞がりじゃないか!


「これは、困ったな」

「そうね。どうしましょうか」

「三月兎なら、外に居るわよ?」

『はい!?』


きょとんと首を傾げるアイに全力でツッコンでしまった。

本当に何が起こっているんだよ。

こんがらがっている事態にくらくらとしてきた。いい方向に向かっているはずなのに、目的から遠ざかっているような。そんな気分である。


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