第32話 撃たせる理由

『カラスの怪物・・・ 上陸後、特にめだった動きはありません。』

「悪く思うな・・・カラスの怪物よ・・・これも総帥閣下の御命令なのだ。」

ジリリリ・・・!と、昔の駅の発車ベルのような音が艦内に1秒間鳴り響いた。

ターゲットスコープに映し出される、身動き一つしないカラスの怪物。

「発射!!」

赤いドアノブのようなボタンが叩くように押された。


犬小屋型PCの横に、いつの間にか出現していたテーブルとイスのような物。

どこから引っ張り出してきたのか、手に入れてきたのか・・・

テーブル(?)の上に並べられた、食べ物と飲み物。

どう見ても、コンビニで普通に見かける菓子パン。

それを口に運ぼうとした少女は秀太を見て、もう一方に置かれたパンを指差した。

半分に千切られたフランスパンと、皿に置かれている未開封のレトルトパック。

見ると、お笑いコンビの図案化されたイラストが目印のクリームシチューだった。

「一応、俺の分も割り当てられていたか。」

すでに暖められていたレトルトパックの封を切り、中身を皿に空けようと・・・

          パァァン!!!

と、PCの方から音。それと同時に、1秒未満ほど停電状態になった。

照明が復帰すると、すぐにもう片方のPC画面を覗き込んだ少女。

円グラフの黄色く色分けされたエリアを注視していたが、特に慌てる様子も無く、

また、普通に食事を取り始めた。

「俺も今のうちに食っておくかな。」


「ばかな・・・ 直撃のはずだ・・・!」

LPGタンカー偽装艦の艦長は、明らかに動揺していた。

ターゲットスコープに映し出されている、特に変化は見られないカラスの怪物。

『艦長、内部崩壊の具合がまだ足りないのかもしれません。100%の出力で

発射しても、あと2発は撃てます。それでトドメを刺しましょう!』

科学調査班主任の言葉に、ハッと我に返る艦長。

「・・・そうとも、我々アル・カリの “見えない光の矢” は無敵だからな!」


紙パックのいちごミルクをストローですする少女。

犬小屋型PCに表示されている、もう片側の円グラフを注視していた。

黄色く色づけされたエリアが半分近く。

皿に残っていたクリームシチューをパンで全て拭き取る秀太。

最後のパン一切れをほお張り、「さて、次は何をすればいい?」と訊くと・・・

少女は秀太に人差し指を突き立てた形を見せた。

「?」       

どう受け答えしていいか分からず、考えていた時・・・


         パアァァン!!!


またもPCからの音だった。  今度の停電は、まばたき1回ほどの間隔。

すると、今度はVサインの形を秀太に見せた。

「・・・何に勝ったの?・・・と言うワケじゃないよな。」

そして、例の飲み物をテーブルに置いた。

「あ・・・ また、それなんだ・・・」

コーンクリームスープのように黄色く、トロッとしているが、ほのかに甘い・・・

XXXーメイト・スーパー。

秀太に、飲む仕草を見せる少女。

「はい、はい。 分かりましたよ。」

とは言え、その飲み物。 見た感じ、間違い無く500mlある代物。

しかたなく、少しづつ口に含んでから飲む事にした。   ふと・・・

イングリッド先生から『のこしちゃダメよー!!』と、太書きの文字で書かれた

スケッチブックを見せられ、注意された事を思い出してしまう。

PCの画像を見ながら、秀太が飲み終えるのを待っている様子の少女。



LPG偽装艦の丸いタンクから短く突き出ている、円形に配置された8門の砲身。

艦内の科学調査班主任は、何の変化も無いカラスの怪物の姿に唖然としていた。

「“見えない光の矢” は確実に命中しているはず・・・」

艦長に口から出任せでその場を取り繕ってみたものの、不安は隠しきれない。

「主任、サーモグラフィで見てみましょう!」

「内部はドロドロに溶けているかもしれないじゃないですか!」

「・・・その手があったな。」

「もう一発撃てます! これでトドメのトドメを刺してやりましょう!」



どうにか、500mlのXXX-メイト・スーパーを飲み終えた秀太。

ふと、視線の先に細長いドア。    妙に気になる・・・


・・・・・ そのドア、開けてみるといいよ ・・・・・


・・・・・ そこは必ず使用しないといけない所だからね ・・・・・


“声無き声”のつぶやきは久々だったが、やはり鬱陶しいと感じている秀太。

でも、開けずにはいられなかった。

開けてみると、狭い殺風景な部屋の中央に鎮座している物体。

どう見ても、トイレの便器にしか見えない。

「こんな物まで・・・」

秀太が呆然とそれを眺めていると、少女がドアを開けて入ってきた。

手に持っているのはコンビニの袋。

パンパンに詰めてある中身は、ほとんどが飲み終えた紙パック。

いわゆるゴミ、だった。

少女が便器(?)の前に立つと、自動的に開くハッチのようなフタ。

そのままゴミを入れ、フタを閉めると・・・ シュボッ!と音が。

すると、秀太の頭に何か軽くコツンと当たる感触。

少女の指先が、秀太のつむじを小突いた事によるものだった。

「え・・・? 何するの?」 その数秒後・・・

秀太は猛烈な腹痛に見舞われた。  

その様子を確認したかのように部屋を出る少女。

車椅子生活の時は、ほとんど感じられなかった体の感覚・・・ 便意。(大)

あわててパンツを下ろし、“便器”に腰かけ、用を足す秀太。


・・・食う物食ったら、出す物は出す。 それが人間ってモンだからね・・・


「はい、はい。そうですか・・・と。」

一息ついて、左右を見てみる。  

右に引き戸、左に簡略化されたイラストで描かれている図解。

引き戸には、ロール状の形をしたトイレットティッシュとプッシュポンプ容器。

左に描かれている図解によると、やはりこの場所はトイレとゴミ箱の兼用らしい。

その“行き着く先”を示す図解に描かれていたモノは・・・

火のマーク。加えて、2000℃と書かれていた文字だった。


プッシュポンプの中身は液体石鹸ではなく、「アルコールジェル・・・」

道理で水道の蛇口が無いワケだ。 しかたなく、それで手を拭く。


・・・あのテロリストのやつら、盗んだ武器で散々人殺ししてたからな・・・

・・・でも、そんな悪行三昧も今日で終わりだ・・・

・・・盗んだ武器は、きっちり返してもらわないとね・・・

・・・あいつら、海烏君も盗もうとしてたっけ・・・

・・・おまけに攻撃らしき事してきたけど、それで?って感じ・・・

・・・海烏君にとっちゃ、飯食わせてもらったようなもんだ・・・


いつに無く、“声無き声”が騒がしい。(音はしていないが)


・・・三度目が来たら、出番だぜ・・・秀太・・・


          パァァン!!!


犬小屋型PCのある部屋の方からだった。






















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