第149話 親友のデッドライン
ヤマトが油断した一瞬の隙を付き、雫が双剣の片方を俺に向かって投げる。
俺の周りを回り、雫の元に戻る双剣。
それと同時に、俺を拘束していた青い光が弾けて、俺はやっと解放された。
「ぐっ……」
心に受けた傷が体を弛緩して、尻餅をつく。
それを見たヤマトが咄嗟に剣を抜いたが、雫がそれに突進して、ヤマトの事を思い切り吹き飛ばす。
がら空きになった中央。
俺が向かう先は、勿論……
「サラ!」
拘束が解かれて倒れているサラ。
咄嗟にその体を抱えようとすると、ヤマトがこちらに向かって突進して来た。
「ヤマトォォォォ!」
俺の叫ぶと同時に、再び雫がヤマトに向かって突進する。
ヤマトは防御壁を展開させたが、雫はそのまま防御壁をぶち破り、ヤマトの体に一太刀食らわせた。
「……っ!?」
驚いた表情で後ろに下がるヤマト。
すぐに受けた傷の治癒を開始したが、今起きた出来事に困惑している。
恐らく、雫が魔法をかき消して攻撃した事に、驚いて居るのだろう。
「ここは私が!」
再び雫がヤマトとかち合う。
一進一退の勇者の攻防。
剣術のみの勝負となり、決め手が見つからずに硬直している。
だが、今の俺にそんな事はどうでも良かった。
「サラ……」
ボロボロになったサラを支え上げる。
焼け焦げた右腕。
この腕は、沢山の人達を幸せにしてくれる、この世に二つと無い綺麗な腕だ。
「大丈夫ですよ」
傷付いた顔でニコリと微笑むサラ。それを見て、俺は歯を強く食いしばる。
「サラ……俺は」
「謝らないでください」
心を読み取り、先に声を掛けて来る。
サラの気持ちを察した俺は、胸の内にある怒りを飲み込み、彼女に笑顔を見せた。
「今、メリエルを呼んで来るから……」
「それよりも」
サラが俺の頬に右手を添える。
「ミツクニさんには、ヤマトさんの悲しみが見えていますか?」
こんな状況で、そんな事を言うのか。
サラ、君は本当に……
「ヤマトさんだって、本当はこんなつもりでは無かったはずなんです」
分かっている! 分かっているさ!!
だけど……! だけど……
「だから……憎まないで。ヤマトさんの事を……分かってあげてください」
言葉から力が失われていくサラ。
するりと頬から落ちる右腕。
その腕を、優しく受け止める。
「……サラ」
肩で呼吸をしながら微笑むサラ。
これほどに自分が傷付いたというのに、君はかつて肩を並べた仲間達を、心から心配して居るのか。
それならば、俺も……
「……大丈夫」
彼女の言葉に答えよう。
大切な人の為に。勇者の親友として。
今の俺に出来る事を、精一杯やろう。
「ミツクニ」
頭の上から声が聞こえて、ゆっくりと顔を上げる。
その先に居たのは、優しく微笑んで居る天使、メリエル。
「メリエル……」
「大丈夫です。傷は残りませんよ」
「そうか……」
大きく頷いて、サラを見つめる。
相変らず微笑んで居るサラ。
そんな彼女の事を見詰めながら、メリエルに言った。
「頼む」
託す。
俺の大切な人を。
俺の大切な仲間に。
「任せて下さい」
ゆっくりとサラの肩を持ち上げて、治癒が開始される。
温かい光がサラの体を包み込む。
その光を受けて、サラはゆっくりと目を閉じた。
(大丈夫……大丈夫だ)
ゆっくりと深呼吸をした後、目を閉じてサラの言葉を心に刻み込む。
そして、立ち上がる。
向いた先は、戦って居る二人の勇者。
「ヤマトさんだって! ミツクニさんの気持ちを分かって居たはずです!」
「うるさい! うるさいうるさい……!」
ヤマトと雫が刃を交えながら、己の思いをぶつけ合って居る。
「お前は分かって無いんだ! 悪魔が僕達人間に何をして来たか!!」
「貴女より分かっているつもりはありません! だけどミツクニさんだって! 貴女と同じ想いを持って居たはずです!」
「知らない! そんな事知らない!」
「知らないはずありません!」
ヤマトが放った精霊を弾き飛ばして、雫がヤマトに一太刀入れる。
同時に急速回復。
しかし、回復には魔力を使うので、ヤマトは消耗して居た。
「貴女にはミツクニさんの心が分かる!」
「知らない! 知らない……!」
「だって貴女は……!」
雫が双剣を振りかぶる。
「ミツクニさんの親友なんですから!!」
振り下ろされる双剣。
ヤマトがそれを剣で受け止めて膝を付く。
「ミツクニ君なんて! ミツクニ君なんてええええ……!」
剣で双剣を押し返すヤマト。
完全に双剣を押し返すと、大声で叫びながら剣を素早く鞘に納める。
「大嫌いだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
木霊する大声。
同時に放たれる抜刀術。
防御が間に合わず、派手に吹き飛ぶ雫。
その刹那。
空から舞い落ちる青い光。
光は落ちると同時に轟音をまき散らして、周囲の地面を深く抉る。
舞い上がる噴煙と土塊。
やがて煙が晴れて、光の主が姿を現す。
「……愛の叫びが、聞こえました」
青い修道服を纏った、愛を司る天使。
シスター、ティナ=リナ。
「……っ!」
突然の天使の登場に戸惑うヤマト。
その最中。
ゆっくりと天使に近付く、一人の男。
「来ると思ったよ」
ティナの横に並び、ヤマトの事を真っ直ぐに見据える。
ティナも当たり前のように頷いて、静かに口を開いた。
「彼女に愛を教えるのは、私の使命です」
「そうですか」
「ですが……」
俺に手を差し出すティナ。
「今回拳で語るのは、私ではありません」
言ったティナの口元が、少しだけ上がる。
ああ、俺の能力を知って居ましたか。
それなら、ご相伴に預かるとしましょう。
「なっ……!?」
その行為に、ヤマトが目を丸める。
まあ、当然の反応だろう。
こんなシリアスな展開の中で、突然シスターとキモオタが手を繋いだのだから。
「ミ、ミツクニさん?」
流石の雫も疑問の表情を浮かべている。
「ああ、気にしないで。今準備中だから」
「準備中って……」
「大丈夫。すぐに熱い展開になるから」
そう言った後、大きく息を吐く。
こちらを呆然と見て居るヤマト。
そんなヤマトに向かって、俺はゆっくりと口を開いた。
「……確かに俺は、ヤマトの事を裏切ったのかもしれない」
ゆっくりと瞳を閉じる。
「だから、ヤマトに敵視されるのも、仕方ないと思ってるよ」
瞳を開ける。
「……だけどな」
心が静かに燃え始める。
「さっきのは駄目だ」
青。
「俺を痛めつけるのに、ああいうやり方をするのは、駄目だ」
繋いだ手から流れ込む……深い青。
「だから、俺は諫めなければいけない」
小さく息を吐き、目を細める。
「ヤマトの……親友として」
一瞬の静寂。
体から吹き出す大量の光。
それは、晴れ渡る大空のような、クリアなブルー。
愛の天使から受け取った、無限にも近い魔力。
「自分が正しいと思うなら、抗ってみろよ」
ティナの手を放して、ゆっくりと歩き出す。
事態を理解して剣を構えるヤマト。
手が小刻みに震えて居るが、俺は全く躊躇しない。
「お前が真に正しいと思うなら、お前の刃は俺に届くはずだ」
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