第71話 狂人ハーレム達の遺跡観光

 魔法学園のアイドルことネール=キャラバンを仲間にした事により、俺達は人間側の対アンデット部隊を撃退する事が出来た。

 一方で、魔物側の残党は相変らず攻めてくる事も無く、平和な日常が続いている。

 しかし、それで戦争が止まった訳では無い。

 今の状態は戦争を先延ばしにしているだけだと感じた俺は、改めて根本から戦争を止める手段を考える事にした。



 遺跡の中央にある動力室。その中心で青く光る∞の光を見詰めながら、小さく唸る。


「さて、どうしたものか……」


 それを言った所で何かが変わる訳では無いが、どうしても独り言が出てしまう。

 理由はただ一つ。

 戦争を止める手段が、全く浮かばないからだ。


「いっその事、力で解決するか……?」


 ここだけの話、現時点でこの遺跡は相当な戦力を持っている。

 ほぼ無限に沸き続けるスケルトンの集団。

 魔王や天使等のチートキャラ数人。

 そして、この世界の文明レベルを超越した拠点システム。

 これだけの戦力があれば、力で戦争を終わらせるのも不可能では無いだろう。


「しかしなあ……」


 それでも、俺はそれを選択しない。

 正確に言えば、それが出来ない。


「力で鎮圧した所で、その後の処理が思い浮かばないからなあ……」

「そんなの、ミツクニさんが王になれば良いじゃないですか」

「いやいや、なれる訳無いだろ」

「どうしてですか? 私は面白いと思うんですが」

「面白さで世界を平和に出来るか?」

「まあ、出来ませんね」


 俺はため息を吐く。


「都合良く救世主でも現れてくれないかね」

「ヤマトさんじゃ駄目なんですか?」

「駄目じゃないけど、民衆をまとめる為の決め手が無いだろ」

「決めてとは?」

「実は王族だったとか、とてつもなく人徳があるとか……」


 ここで、俺はやっと気が付いた。


「……フラン。何でここに居るんだ?」


 振り向いた先には、狂科学者のフラン=フランケンシュタイン。

 フランはニヤニヤと微笑みながら、俺に向かって敬礼をしてきた。


「遊びに来ました!」

「たわけが」

「あれぇ? ひどい言われようですねえ」

「あのなあ……一応ここはお前等にとって、敵の拠点なんだぞ?」


 ため息を吐いて見せると、フランが俺の周りをクルクルと回り始める。


「敵拠点の割には素通りでしたけどー」

「それに関しては、俺のせいなので何も言えない」

「なるほど。ミツクニさんの敵意に反応して、防衛システムが作動するんですねえ」


 確かにその通りだが、どこからその結論に行き着いたんだ?

 勘と言うか何というか、こいつの答えに行き着く力は相変らずだな。


「うーん、凄い。これは凄い」


 ブツブツと唱えながら、フランが正面でピタリと止まる。


「この遺跡のシステムは、完全にこの世界の文明レベルを超越していますね」

「まあ、ベルゼの先祖が作った物らしいからな」

「あの未来型ドローンの先祖ですか。それなら頷けますね」


 テクテクと歩き、∞の光を見上げる。


「ふむ。どうやらこれが、この遺跡の動力のようですね」

「そうみたいだな」


 この遺跡に来た時に光り出した∞の光。

 恐らく、俺程度の知識では理解出来ない原理で動いているのだろう。


「ふむふむ。なるほど」


 再び独り言を始めるフラン。彼女の事だから、既に俺が分からない事を理解している可能性もある。


「成程、そういう事ですか」

「何か分かったのか?」

「いえ、何も」


 うん、分かって居なかった。

 やはり天才とは言え、こんな意味不明なシステムを理解する事など出来ない……


「でも、何かしらのキーによって、遺跡のシステムが復活する事は分かりました」


 理解出来ている!?

 どうやったんだ!? この∞の光を見るだけで、何かを理解出来るものなのか!?


「問題は、そのキーですが……」


 言葉の途中でピンポーンという音が鳴る。


『フランケンシュタインの血族を確認』


 ……は?


『研究施設を復旧します』

「ああ、なるほど。特定の人物がキーになって居るんですねえ」


 いやいや、ちょっと待ってくれ。

 確かに人間がキーになって、遺跡の動力は復旧したよ?

 だけどそれは、魔王や天使などの、チートキャラが主であって……


(……いや、フランもある意味でチートキャラか)


 そう思い直し、自分を納得させる。

 しかし、研究施設の復旧か。

 絶対にフランを立ち入らせては駄目だな。


「よし。フランはここを動くな」

「えー。研究施設見たいですー」

「黙れ小娘。お前がそこに立ち入ったら、間違えば世界が滅ぶんだよ」

「良いじゃないですか。一緒に滅ぼしましょうよ」


 屈託のない笑顔で答えるフラン。冗談なのだろうが、彼女が本気を出せば冗談では無くなる。

 何故ならば、俺は彼女が作った危険な爆弾の存在を、知っているからだ。


(地球破壊爆弾……)


 魔法学園に居る時に貰ったその爆弾を、俺は未だに持っている。

 そんな名前の爆弾を使えるかよ。

 むしろ、そんな物騒な物を、勇者の親友役に持たせるんじゃねえ。


「それじゃあ、私は研究施設を見てきますね」

「動くなと言ったはずだが?」

「動くなと言われたら、私は動くんですよ」


 そう言って、フランが嬉しそうに立ち去る。自由気ままな感じは、魔法学園に居た頃と全く変わらなかった。


(……まあ、仕方ないか)


 世の中にはギブアンドテイクと言う言葉がある。

 フランには今まで色々と助けられたのだから、ここは自由にさせておこう。


(さて……)


 俺は∞の光を眺めながら、再び戦争を止める手段を考える。


「思い切って、世界を裏で動かしている奴等を、全員暗殺するとか」

「それは、どういう人達なんですか?」

「商業組合のレイジ=ヨマモリとか」

「その人。今はラプターを裏で操っているそうですよ」

「そうなのか?」

「ええ、生徒会長が言っていました」


 魔法学園の生徒会長が、そう言って居たのか。

 確かにあの人ならば、それくらいの情報を知って居ても不思議は無い。


「そうなると、暗殺は相当厳しいなあ」

「思い切って、私が謎の暗殺ガスでも作りましょうか?」

「それは駄目だ」

「どうしてですか? 良い案だと思うんですけど」

「確かにガスは暗殺に向いてるけど、ミリィが作るとそれ以上の危険性が……」


 そこまで言って、俺は横を向く。

 そこに居たのは、錬金術師のミリィ=ロバート。


「ミリィって、そんなキャラだったっけ?」

「フランさんのマネをしてみました」


 エヘヘと笑い、舌を出すミリィ。

 可愛いから全て許す!!


「久しぶりだな」

「はい! 本当に久しぶりです!」


 元気に受け答えをするミリィ。

 彼女は魔法学園で武器を作って居た時に、色々と協力して貰った。


「相変らず錬金して、爆発してるのか?」

「はい! 爆発してます!」


 清々しいほどはっきりとした答えだ。

 だけど、爆発は危ないから程々にしようね?


「ここに来る前も、アップルパイを作ろうとして失敗して……」

『ピンポーン』


 ミリィの言葉に被さるようにチャイムが鳴る。


『ロバートの血族を確認。錬金施設を復帰します』


 何だこれは?

 施設解放のフィーバータイムなのか?


「これでアップルパイが作れますね!」


 それだけ言って、元気に走り去るミリィ。やはり、フランと同じで躊躇無しか。

 彼女にも沢山お世話になったし、仕方ないな。


(それにしても……)


 やれやれとため息を吐く。


「何で今日に限って、こんなにキーキャラが集まって来るんだ?」

「それはぁ、そう言う運命だからよぉ」

「運命って、そんな簡単に……」


 ……

 よーし。俺はもう突っ込まないぞ。


「そう簡単に集まるものじゃないですよね」

「そうかしらぁ?」


 俺の横で挑発的に微笑む女性。


「世の中には流れというものがあってぇ、その流れに一度身を委ねるとぉ、必然的に必要な物が集まるように出来てるのよぉ?」

「それは、誰かの格言ですか?」

「ふふ……私のぉ!」


 高速で俺に抱き着いて来る、テレサ=マージン。

 彼女の異名は『保健室のエッチなお姉さん』だ。


「胸が! 胸がぁぁぁぁぁぁ!」

「あら、嬉しいの?」

「嬉し……! いやいや!」


 こいつは不味い!

 ここにリズとか来たら、絶対に鉄球制裁だ!


「ふっ!!」


 体を大きく捻ってテレサを引き剥がそうとする。

 しかし、やはり一筋縄では剥がれない。


「ふふ……私は簡単には離れないわよぉ」

「ぽーい」


 伝家の宝刀。スタングレネード。

 突然の閃光に驚いたテレサの隙をついて、素早く拘束を解いた。


「あらぁ、ミツクニ君も成長したのねえ」


 ウットリとこちらを眺めているテレサ。

 ふふふ……やられっぱなしだったあの頃とは、もう違うのだよ。

 そのせいで、お約束のラッキースケベが起こらないけどなぁぁ!


「非常に残念だがリスク回避優先だ!」

「もう……仕方ないわねぇ」

『ピンポーン』


 はいはい。分かりましたよ。


『マージンの血族を確認。医療施設を復帰します』

「それじゃあ、私も自分の場所に行くわねぇ」


 投げキッスをして立ち去るテレサ。

 自分の場所って……それは魔法学園の保健室じゃないのか?


(やれやれ……)


 居なくなった三人を思い出して、ため息を吐く。

 復帰した施設。それを管理する新しい仲間。

 嬉しい事は嬉しいのだが、このままでは魔法学園の方が手薄になるのではないかと思い、正直心配になった。

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