異世界勇者の親友役になりました

桶丸

異世界学園編

第1話 冴えないプロローグ


 異世界召還。それは、空想世界に憧れる人間達のロマン。


 どんなに平凡な人間でも、異世界に召還されればチート能力が付与されて、敵の撃破は楽勝。仲間からもチヤホヤされて、好き放題やってもモテ放題。

 これこそが、異世界召還のテンプレだ!


 ……そう思っていたのに。


「彼方には、勇者をハーレムエンドに導いて貰うわ」


 ……え?


「聞こえないの? 勇者をモテモテのウハウハにしろって事よ」


 それはつまり……

 主人公の親友役になれと言う事か!


「嫌だぁぁぁぁぁぁ!」


 頭を抱えながら地面を転がる。

 流石は異世界! 空が高くて芝生が気持ち良いぜ!


「何で主人公じゃなくて親友役なんだ!?」

「それは、彼方が恋愛ゲームとアニメが好きなだけの、キモオタだからよ」

「ごもっともだぜ!」


 彼女の言う通り、俺は世間で言うオタクって奴に該当するのかも知れない。

 だけど、異世界召還させられる程に、極めている訳じゃ無いよ?


「もっと適役が居るだろう!」

「仕方ないじゃない。彼方が召喚されてしまったのだから」

「ランダム召喚なのか!」


 はい、おめでとうございます。彼方は見事、物語のモブ役として召喚されました。


「嫌だぁぁぁぁぁぁ!」


 再び地面を転がる。もう少しで彼女のスカートの下に……!

 辿り着く前に蹴られた! 背中が凄く痛い!


「やりたくなければ、やらなくても良いわよ」

「良いのかよ!?」

「その代わり、この世界は滅ぶけど」

「……へ?」


 俺は首を傾げる。


「勇者がハーレムエンドにならないと、世界が滅ぶのよ」

「いやいや、ぶっ飛び過ぎだろ」

「そうかしら? ハーレムを作るという行為は、ある意味で異世界ラブコメの常識でしょ?」

「……あ、うん。そうですね。というか、何で君が異世界ラブコメを知ってるんだ?」

「私が彼方を召還したのだから、知っているのは当然でしょ?」


 俺の読んできた異世界召還系のラノベには、そういう描写は無かった。つまり、これが現実の異世界召還という事なのか。


「ちなみに、世界が滅べば、当然彼方も死ぬわ」

「ですよね!」

「どうするの? やるの? やらないの?」


 俺を上から見下ろす召喚者。

 やるのか。やらないのか。

 そんな事は、この世界に召還された時点で、既に決まって居るだろう。


「……やる」

「素直で結構」


 差し伸べられた手を掴み、ゆっくりと立ち上がる。


「私の名前はリズ=レインハート。彼方は?」

「……ミツクニ=ヒノモト」


 頷いた後、小さく微笑む紅瞳の彼女。

 そんな彼女の綺麗な瞳を見ながら、全ての不満を飲み込み、小さくため息を吐く。


 

 惚れさせなければ生き残れない。

 こうして、残念な俺の異世界勇者サポート生活が始まってしまった。

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