●シーン8● 地下の遺物

 キリンとダチョウがロッジを出発したのとちょうど同じころ。


「……ふう。今日はかなり奥まで来たな」


 薄暗く湿った遺跡の奥深く。ツチノコとスナネコは、細く入り組んだ道を慎重に進んでいた。


 ところどころに黒い塊が散乱している。


「ツチノコ、おもしろいものは見つかりそうですか?」


「いんや、大したもんはなさそうだ。相変わらずここも溶岩だらけだな」


 ここは「さばくちほー」にある古い遺跡だ。

 しかし厳密にはだった。ここは遺跡というよりも、人工的に作られた「あとらくしょん」というものらしい。


 だからいたるところにわざとらしい仕掛けが施されていたり、昔パークがまだ営業していたころのグッズやジャパリコインなどの「おたから」が意図的に配置されていた。


 ツチノコたちはときどき、こうして二人で遺跡の中を探検していた。なにか新しい発見があるかもしれないし、掘り出しものの「おたから」が手に入るかもしれない。


「この溶岩もセルリアンの残骸か。そうすると『例の異変』のとき、ヒトがこんなに奥までセルリアンを追い詰めて、一気に水をぶっかけたてことか? しっかし、いったいどうやって――」


 ツチノコは両手をポケットに突っ込んだまま分析する。しましまの長い尻尾を持て余し気味にゆらゆらとぶらつかせていた。


「ツチノコはものしりですね。でもボクにはよくわからないのです」


 スナネコは興味がなさそうに、壁面に描かれた不規則な模様を目で追っていた。


「……おまえもたまには図書館にでも行って勉強しろッ!」


「あ、このようがんおっきいー!」


 細い道が急に開けて、大きな塊が姿を表した。スナネコは興味を惹かれて一目散に走り出す。


「聞けぇーッ!」


 そこは一際大きな正方形の部屋だった。天井も高く、奥行きもある。

 だがそのほとんどを、どす黒い色をした溶岩が埋め尽くしていた。


「これ、いままでの中でいちばんおおきいですね? すごーい!」


「確かに、これだけの規模は初めて見るな。だが――」


 ツチノコはその巨大な溶岩に近づき、下駄で小突いた。まるで金属のように固く、甲高い音が部屋に響き渡る。


「おかしい。ここは遺跡の最深部だぞ?」


「なにがおかしいのですか?」


 スナネコは首をかしげた。


「いいか? デカい塊になっている溶岩はな、むしろ遺跡の出入り口に多いんだ。正面出口が塞がってたろ?」


「そういえば」


「考えてみたんだが、あれは恐らく偶然じゃない。意図的に『入り口を塞いだ』んだろう。たぶん当時、ヒトがセルリアンと対峙したとき、数が多くてとても全部を駆除しきれなかったんだ。だから、この遺跡を使って、たくさんのセルリアンを閉じ込めたんだと、オレは思う」


「ほおー」


「おまえ……本当にわかってるのか? まあいい。そうするとだな。閉じ込められたセルリアンは地上へ出ようとして、比較的浅い階層に集まるはずなんだ。だから、こんなにデカい残骸が最深部にあるのは、なにか理由があるはず――」


 そのとき、スナネコの大きな耳が跳ねるように動いた。


「ねえツチノコ。なにか聞こえませんか?」


「なに?」


 耳はこの部屋のさらに奥――溶岩でふさがったその先に向けられている。


「この奥からみたいです――ねえ、ボクもうまんぞくです。帰りましょ?」


 スナネコはツチノコの腕をぎゅっと掴んで、しきりに引っ張った。

 震えている。なにかを感じ、怖がっているのだ。


「ああ、そうだな。気味が悪い。だが放っておくわけにもいかん。嫌な予感がする。少しだけ待て」


 ――この奥か。

 ツチノコは意識を集中して「ピット器官」の感度を高めた。物理的な障害があっても、フレンズやセルリアン、それに「ヒト」だって、オレにかかれば丸見えだ。


 溶岩でふさがったその先を捉える。


「なっ……」


 ツチノコは言葉を失い、凍りついた。


「どうしたのですか? ツチノコ? 早く帰りましょう……」


 スナネコがすがりつくように言う。

 ツチノコは立ち尽くしたまま、数秒間動けずにいた。


 こんなものが、ずっとここにいたってのか?!

 なのにオレは気がつかずに、呑気に「おたからさがし」なんて――クソッ!


「――オレの推測は間違っていなかったらしい。確かに、入り口の溶岩はセルリアンを閉じ込めるためのものだったんだ。だが、それだけじゃない」


 スナネコの手を引いて、ツチノコは出口のほうへと駆け出した。


「バリケードは二重になってたんだ! スナネコ、博士のところへ報告に行くぞ!」


「ツチノコ……?」


「桁違いにデカいヤツがいる。奥に、ずっと閉じ込められてやがったんだ。もしあれが外に出たら――」


 ツチノコは息を呑んだ。


「間違いなく、パークの危機だ」

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