●シーン7● 行ってきます
「『にじ』?」
「はい。きれいな虹が空にかかっていて、キリンさんはそれを見て、なにやらホッとしてるみたいです。でも、これが本当に当たっているかどうか……だからあまり信じないでください……」
キリンは思いっきりダチョウの肩を叩いた。彼女の身体はぐらりと大きく傾く。
「信じるわ。その占いはきっと当たる。名探偵の――いえ、『未来の名探偵』である私が言うんだから」
キリンは腕を組んで、ひとりで満足そうに頷いている。
「それに、私は見たことがないけど――その『にじ』? って、とってもきれいなものなんでしょ? それを見れるなんてとっても素敵じゃない? それがわかっただけで、占ってもらってよかったと思ったわ」
「……あっ」
ダチョウはふと、きのうの会話を思い出す。「お客さんに満足してもらってるか自信がない」と言った自分を、彼女は元気づけようとしてくれているのだ。
木々の隙間から朝日が差し込んで、キリンをまばらに照らしていた。
「キリンさん、ありがとございま――」
「ああそれと、ここから図書館までは道もわかりづらいから、私が案内するわ。まずは『ゆきやまちほー』を越えなくちゃね。最初からけっこう大変よ――」
思わぬことを宣言されて、ダチョウは面食らった。
「えっ?! ――ちょ、ちょっと待ってください! キリンさんが案内を? そんな、悪いですよ!」
「――ダチョウ、アミメキリンをぜひ連れて行ってやってくれないか」
そのとき、ロッジの扉が開いてひとりのフレンズが現れた。豊かな黒い髪に、ブルーとイエローの鮮やかなオッドアイ。
「タイリクオオカミさん?」
「あっ、先生! おはようございます!」
「おはよう」
オオカミはダチョウの方へ歩いていき、ぽんと軽く肩を叩く。
「実はね、ダチョウ。キリンは今日、探偵としてさらに成長するための旅に出る日だったんだよ。ロッジにいるばかりだと、積める経験も限られてしまうからね。ちょうど目的地も同じだから、きみが遠慮することはない。二人の安全面を考えても、旅はひとりより二人の方がよいだろうしね」
キリンもそれを聞いて、大きく首を縦に振る。
「先生の言うとおり。探偵は日々高みを目指すのよ」
「……でも私、キリンさんにこんなに頼ってしまっていいのか」
「あっ、そしたらこういうのはどうでしょう?」
ダチョウが戸惑っていると、ちょうどアリツカゲラがロッジから出てきた。その腕には大きめのショルダーバッグが抱えられている。
「キリンさんが道案内をするかわりに、ダチョウさんはキリンさんの『助手』をするんです! ほら、たしか探偵には『助手』がつきものなんですよね?」
オオカミもそれに同意するようにうなずく。
「ああ。昔ヒトが描いたいちばん有名な探偵シリーズ『シャーロック・ホームズ』には『ワトソン』という優秀な助手がいるんだ。ここだけの話――私もそろそろ『ギロギロ』の助手を登場させようかなと思っていてね。アリツさん、名案だよ」
それを聞き、キリンが興奮して両手を振り回した。
「『ギロギロ』にも?! 楽しみです! そう言えば図書館の博士にも助手がいますしね! うんうん、ジョシュ! なんだかすごくかっこいい響きです! よし、ダチョウ! あなたは今日から私の助手よ!」
ダチョウはアリツカゲラの顔を見て、オオカミを見て、そしてアミメキリンを見た。助手だなんて大役を、こんなふうに勢いで決めていいのだろうか。大いに疑問に思った。
しかしどの顔も、これはほとんど決定事項だという顔をしている。
「助手……その、私が助手としてお力になれるか不安ですが……キリンさんがよければ」
「よかった! よろしく頼むわねっ!」
キリンがダチョウの両手をひっつかんで、ぶんぶんと振り回す。
アリツカゲラが持っていたショルダーバッグをキリンに渡した。
「数日分のジャパリまんとお水です。あとこの島の地図も入っています。ただかなり昔に描かれた地図のようなので、今と違うところがあるかもしれませんが」
「ありがとう、アリツさん! 大丈夫よ。たぶん」
「キリン、あまりダチョウに頼りっきりにならないようにね。『探偵』とはなにか。きみ自身で、しっかりと向き合うんだよ。迷ったら、昨日話し合った『推理の心得』を読み返して、思い出すといい」
オオカミが冷静に忠告を挟み込んだ。
「わかりました! 先生!」
力強く、明るい声で、キリンは返事をする。
「――本当に大丈夫かな」
オオカミは苦笑するが、一方でとても誇らしげな、そんな表情だった。
旅立つ二人は、ロッジから伸びるつり橋を渡った。
キリンにとってはいつもの歩きなれた橋。
ダチョウにとっては、まだ二度目の橋。
しかし二人にとって旅の最初の一歩であるという意味では、同じだった。
森林へと入る手前で、二人はロッジのほうを振り返る。
「それでは、アリツさん、オオカミ先生。行ってきます!」
「短い時間でしたが、お世話になりました――あの、行ってきます」
ロッジに残る二人は、これまで見送ってきたフレンズたちの誰よりも大きく、手を振り返した。
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